戦後を旅する刀と少年
「う~・・・寒い」
「先生、上着を着ればいいじゃないですか」
「これが私のポリシーだ!」
秋も深まりもうすぐ冬になるというのに、先生と呼ばれた女性、スイセンは東の倭国で良く着られている和服を着ている。
髪は漆黒で流れるような長い髪が妖艶さを醸し出しているが、腰にさした刀と呼ばれる剣を差し左手には巻くように酒を紐でつるし持っているので妖艶さより怪しさの方が勝ってしまっている。
そして明らかに旅する格好ではない。
「そんなポリシーさっさと捨てて上着来て下さい」
「ぶ~~」
「可愛くない」
隣に居るのはスイセンよりさらに背の低いイセンと言う名の男の子がスイセンに苦言を呈すがスイセンはその名の通り風に揺れる花のごとく話を聞き流している。
イセンは金髪の髪を短く切り、大きめのリュックを背負ってはいる分、少しはましだが、やはり旅をする格好ではない。
「あ~、暖かい部屋で寝たい」
「もうすぐ町が見えるはずですよ」
「足痛いよーつかれたよー」
「はいはい、もうすぐですから、行きましょうね~」
先ほどか弱音を吐いている方が先ほど先生と呼ばれている女性、知らない人が・・・いや、知っている人が見てもダメな大人である。
「先生、見えてきましたよ!」
「おおー!・・・お~・・・寂れているな」
「ここにも戦争の被害があったんでしょうか?」
「・・・だろうな」
先にこの大陸では国同士の戦争が行われた。
一方は人間の部隊、もう一方は魔族と呼ばれる人間戦いだった。
この戦争は長い間続き、二年ほど前に終戦を迎えた。
魔族は脅威だった、人間には使えない魔法と呼ばれる異能を使い、一人ひとりが兵器のような力を持ちえた。
そこで人間は魔法に対抗するために様々な兵器を科学で作り出し対応した。
それが如何に非人道的なっ物だったか・・・
着いた街はいまだに復興が途中のようで所々瓦礫がまだあり、国からの復興疎遠が届いてないのか・・・二人は町に着くと拠点になる宿を探し始める。
「さて美味い飯と酒~」
明らかに一人は違うものを探していたが、イセンは宿屋にも飲食場所はあるだろうと放置することに決めた。
「――――!!」
「―――――!!」
「―――――!!」
町を進んでいくと男女の言い争いがする声が聞こえる。
二人は互いに視線を交わしうなずき合う。
ほおっておこう。
互いにめんどくさがりな二人の意見は一致した。
宿屋を探し数分歩くだけですぐに宿屋は見つかった
宿に着くと二人は早速従業員を探すが宿の亭主すら見当たらない。
「あれ?どうしたんでしょう?」
「いないな、休みか?・・・はっ!じゃあ食事は!?」
「ないですね」
「お酒は!!?」
「ないですよ」
「暖かい寝床は・・・」
「残念ながら」
「私はどうしたらいい・・・」
「笑えばいいんじゃないですか?」
「笑えるかぁぁぁぁ!!!」
「そんな事より、ほんとにどうしたんでしょうね?鍵を閉めずに不用心に店も開けたまま・・・」
「そんな事って・・・はぁー、仕方ない、聞き込みに行くか、最悪他の宿でも探そう」
「そうですね」
スイセン達は宿を出て宿の事を聞くことにし、すぐに事情を知ることになった。
「ああ、そこの宿の亭主なら『黒山羊』の奴らに連れていかれたよ」
「『黒山羊』?」
「ああ、近くを縄張りにする盗賊団さ」
「・・・慌ててませんね?宿の亭主は嫌われていたのですか?」
「・・・いや、そんな事ねえよ、良い亭主さ」
「誰も何も言わないんですか?」
「言えねんだ、『黒山羊』はここの顔役みたいなものさ」
「顔役ですか・・」
「ああ、あいつ等はこの町を他の野盗と魔物から守る代わりに店もみかじめ料としてこの町の店の品物をタダで持って行ってたんだ」
「(・・・結局は野盗ってところね)」
「亭主は自分の娘を渡せと断った所を娘共々連れていかれたのさ」
「本当に誰も何も言わないのですね」
「誰に言うのだよ、国もこんな辺境の街まで目が届かねえさ」
「・・・ふ~ん、そう。ところで、その盗賊団はどこにいるの?」
「おい!聞いてどうする気だ!?」
「私たちは見ての通り、旅の者でね。そんな危ない連中と係りたくは無いから別の街道を通ろうと思ってね」
「そうか、そうだよな・・・それなら」
スイセン達は町の人間に盗賊団の場所の話を聞き、その場を後にした。
「ああ、休めなかったな~野宿やだな~」
「っで先生、盗賊団の居場所を聞いてどうするんですか?まあ聞かなくても分かりますが」
「え~何の事~」
「可愛くない」
「うるさい!」
スイセン達は言い合いをしながら、聞いた街道を歩き盗賊団を探す。
一刻ほど歩くと盗賊団の根城と思われる洞窟を森の中から発見する。
「意外に近いな」とスイセンは感想を出し目を凝らすと、見た感じ見張りは二人しかいない。
「どうやら二人だけのようね、イセンやれる?」
「いや、普通こんなに離れていると人の形なんて見えませんから」
「たかだか一キロメートルじゃない、目を鍛えなさい」
「んな無茶な」
「無茶を通せば道理になるってね、見てなさい」
スイセンは下に転がっている石を二つ拾うと「よっと!」と言う掛け声で二つの石を同時に投げた。
スイセンは見張りの二人が倒れるのを確認するとガッツポーズをする。
「よし!ナイス、私」
「んな無茶な」
先ほど同じ感想を口にするイセンを尻目に見張り二人に石を当てたことを喜ぶスイセン
「んじゃ行くわよ」
「はいはい」
さっそく行動と動き出すスイセンと適当な返事をしながらスイセンに付いて行くイセン。二人が洞窟の入り口に着くとそこには頭が割れた二人の死体が転がっていた。
スイセンを信じていない訳では無かったがやはり常識ってものを疑ってしまう。
「っで先生どうやって入るんですか?」
「えっ?正面から」
「考えなし」
「考えてるわよ!中入ってずばーん!とやってスババーン!!とやる」
「擬音じゃ分かりませんよ」
「考えるな!感じろ!」
「少しは脳みそ使ってください」
「んじゃ、行くわよ」
「はいはい」
二人は無駄話を止め中に気配を消しながら侵入する。
中に入るといくつかの部屋があり、その中の一つから女性のくぐもった叫びが聞こえてくる。
中の様子は盗賊団の男が数人と男たちに組み伏せられている少女、それと近くに縛られている男。スイセン達は彼らが町からかどわかされた宿屋の人間だろうと当たりを付け行動することに決めた。
「(イセン)」
「tp@97えf@す;」
イセンが聞き取れない言葉を発すると、風の刃が盗賊団の男達だけを狙い意思を持ったように首を刎ねていく。
首を飛ばされた盗賊団を尻目にスイセンは少女に近づく、同じ女として同情を禁じ得ないが命があっただけ物種だろうと自分を納得させながら縛られている縄を解く。
すると少女は白目を剥いていることに気付いた。
「あ~、ダメだこれ気絶してるわ」
「そりゃ、男に襲われながら、襲っていた男の首が飛べばトラウマ物でしょう」
「私が思うにイセンはもっと色々配慮するべきだと思うな」
「んな無茶な」
「・・・あんたその台詞、気に入ってるでしょ」
ついでに傷だらけの宿屋の亭主の縄を切りイセンに邪魔になりそうなこの二人を外に放り出すように命じとく。
スイセンは盗賊が奪ったお宝がないか探りながら、残りの残党を探す。
いささかお宝の方がスイセンにはメインなのだが先に盗賊を見つけてしまった。
「何だてめえ!」
「あ、通りすがりの者です」
「んなわけねぇだろうが!!」
「お宝下さい」
「会話しやがれ!!」
「うるさい!」
「――――――!!?」
刀で盗賊の首を刎ねるとスイセンはさっさと奥へと歩を進める。
現在ツッコみがいないスイセンは唯我独尊状態だった。
部屋をいくつも探し、お宝や生きている人間はいないか探すが殆ど見つからない。
「ふむ、この程度か」
見つけたお宝は聞いていた以上に、少ない金額にがっかりしながらスイセンは洞窟を出ることにする。
「止まりやがれ!」
洞窟を出ると身長二メートルを超す左の腕が異様な男がイセンを抱えてスイセンに呼びかけた。
「貴様ら何者だ!?」
「・・・何やってんのあんた?」
「つかまっちた」てへ
「いや、可愛くないから」
「こっちの話を聞きやがれ!」
「っで、そちらの元帝国第三世代さんは何の用?」
「・・・貴様同胞か?」
「元ね」
「なら分かるだろ貴様にも、我々を実験台にし良いように戦争に使われたんだ、残りの人生を好きに生きてもいいじゃねえか!」
「っで好きに生きた結果が盗賊の真似事?」
「こんな異様な姿で真面な人生なんて送れる分けねえじゃねえか!!見ろこの左手を、帝国に忠誠を捧げ数々の魔族を屠り!戦い続けた結果がこの様だ!!!」
盗賊は帝国に改造された左腕を掲げながらスイセンに怒りをぶつける。
自分の怒りを。無念を。不幸を。忠誠を。裏切りを。復讐を。
全ての物が左腕に宿っているというように掲げあげる。
「ああ、そんなのいいから」
「・・・あ?」
「いや、あなたの不幸自慢とかいいから、いやホントに」
「・・・」
「そんなの聞かされて私どうしたらいいの?嘆けばいい?いしょに泣いて、大変ねと同情すればいいの?っは!笑わせないで、盗賊に身を置き好き勝手に生きそこ等彼処を荒らしまわったのは、あなたの意思じゃない!戦後復興を尽力していた人を食い物にしたあなたに同情の余地なし!さっさと首置いて、死ね」
「貴様ぁぁぁぁ!!!!」
盗賊は右手に抱えていたイセンを放り投げると、スイセンに左手を差出し呪文を唱える。
「-k49m7x!!」
盗賊の左手から真っ赤な炎がスイセンめがけて飛んでいく。
スイセン体を半身にし腰を沈ませながら足を開く、左手を鞘の鯉口に添え右手で柄を軽く抜き一閃する。
炎が二つに割れスイセンを通り過ぎた。
「・・・あ?」
盗賊は理解できなかった、戦争で人口兵器として数々の魔族を倒してきた自分の異能がたった一人の人間の女に斬られるなんてことが・・・
「な・・・なんなんだてめぇぇぇ!!?・・・かひゅ・・・・」
「本当、断末魔までうるさいよ、あんた」
盗賊が最後に見たのは漆黒の美しい髪と驚くほど冷たい瞳だった。
「っであんたはいっつまでそうしてるの?」
「ん?終わりました?」
盗賊に放り投げられたイセンは宙に浮いていた。
これは魔法である、さっきの盗賊が使った魔法もどきではなく、正真正銘の魔法。
魔法は魔族にしか使えない、しかし帝国が行った人体実験で人為的に魔族を作り出した、それが元人間のイセン。
戦争で得た物なんて殆んどない、家族、恋人、友人、自分自身、失くした者の数の方が多い
だけど、スイセン達は生きなくてはいけない。
失くしたモノを取り戻すために。
「それじゃ仕事に戻りますか」
「そうですね、ここの町の事を帝国に報告しなくては、警備隊ぐらいは派遣してくれるでしょう」
「そうね・・・それよりまず」
「ええ・・・」
「「お腹すいた~」」
戦闘が終わり静かになった、森の隙間を二人のお腹の虫だけが鳴り響いていた。