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ピンク色のソファー

季節的にでしょうか。恋をしたいなと切実に思います。だからこんな甘々なものを…ちょっと甘いのは苦手と言う方は、もしかしたらイライラしてしまうかもしれません。冬が近いからです。ご了承ください。

その時の彼の視線がとても痛かったのを覚えている。蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事なのだろう。苦しい言い訳だとは重々承知の上で、けれどこれしか方法が浮かばなかったのだ。仕方がない。

「風邪、ねぇ」

大きなため息とともに、吐き出すように彼は言う。何度目か分からないごめんなさいを、わたしはまた繰り返した。

「で、なんで嘘ついたの?」

怒らないから言ってごらんとでも言いたげな顔だ。絶対逃がさないという目で、真っ直ぐにわたしを見つめて。


1LDKの小さいアパートには、去年の春から住んでいる。カウンターキッチンに感動して、最寄り駅から徒歩30分もかかるのに、わたしはここを選んだ。おかげで、彼にも友人たちにも滅多に訪問されない部屋になってしまったのだけれど。

そんな我が家のリビングルームには、ピンク色のソファーがある。引越したその日に彼と買いに行ったこのソファーは、白を基調としたわたしの部屋によく似合っていた。

「ピンクがいいの?」

支払いが済むギリギリまで、なぜか彼はそう言い続けていた。

「だって、入った瞬間に目が合っちゃったんだもん。春だし、桜みたいで綺麗じゃない?」

そう言うわたしを、目を細めて、ちょっと困ったように肩を持ち上げるいつもの笑顔で彼は見ていた。


その、お気に入りのソファーの上で縮こまるわたしに、また小さなため息が降ってくる。

「ごめんなさい」

もう顔を上げて彼を見ることも出来ないわたしは、ただひたすらうつ向いていた。

「それはもう聞き飽きた。だから、なんでって俺は聞いてるの」

わたしにとっては、それが聞き飽きた台詞。でも、不思議と彼からはイライラとか怒りとかが伝わって来なくて、あまり怒られているように感じなかった。しかも、口調もいつもと変わらない。むしろ優しいときの声にトーンが似ている。

「どうしても言えない理由なの?」

うつ向いていたわたしの視界に、急に彼の顔が現れた。驚くわたしをよそに、彼の表情は柔らかくて今にも笑い出しそうだった。本当に、何を考えているのか時々分からなくなる。嬉しそうにも見えるその顔に、なんとなく怒りを覚えたわたしは、今の立場も忘れて彼の頬を両手でつねった。


今日、風邪をひいたと言って会社を休んだ。嘘をついたわけではなく、本当に貧血気味で布団から起き上がるのが辛かったのだ。しばらく続いていた残業のせいもあったのだろう。上司もそう言って休ませてくれた。

いつもなら働いている時間に家にいると、何だか無性に寂しく感じた。そういえば、お互いに忙しかったからしばらく彼とも会ってないな。そう思ったらわたしの行動は無意識のようで、いつの間にか彼の携帯電話にメールを送っていた。

『風邪ひいて休んじゃったよ』

なんの彩りもない文章。あくまで現状報告のつもりで送ったメールだったけれど、わたしの中の彼に会いたいという気持ちはさらに大きくなっていた。久しぶりに声を聞きたかった。

だから、夕方になって玄関のチャイムが鳴った時、風邪をひいているということになっているのも忘れて、わたしは笑顔でドアを開けてしまったのだ。

「だいぶ、元気そうだね」

仕事帰りにそのまま来てくれたのだろう。少しくたびれたように見えるスーツに身を包んだ彼は、呆気に取られた顔でわたしを見下ろした。「あ、いや、寝てたら良くなったから…」

慌てて言い訳をするわたしを彼は見逃さなかった。

「ふうん、そう。元気なら来る必要も無かったかな?」

その言葉にパッと顔を上げると、ニヤニヤと笑う彼と目があった。いかにも、わたしの行動を予想していたという表情に、悔しくなって彼を睨む。

「じゃあ、顔も見たし帰ろうかな。明日も仕事だし、まだ今日の分も片付いてないんだよね」そう言われて、思わず、わたしの手は彼のスーツの裾を掴んでいた。帰って欲しくない。久しぶりに会えたのに、もう少しそばにいてよ。

「まったく、風邪ひきさんはしょうがないな」

靴を脱ぎながら、彼はそう言って笑った。


それがほんの30分前。なぜ今わたしは、ピンクのソファーの上で彼に見つめられているのか。

「なんで風邪ってメールしたの?」

彼のこの質問に答えられないからだった。


「あー、もうだめ。ごめんなさい。最近会えなかったから寂しかったの。会いたかったの!」

彼の視線と質問責めに耐えられなくなったわたしは、顔が赤くなるのを感じながらそう言った。顔を上げる事が出来なくて、彼の表情も分からない。しばらく短い沈黙があったかと思えば、わたしは彼の温かい腕に抱きしめられていた。

「よくできました。しばらく連絡もくれないから、俺の方が寂しかったよ?」

「え?」

状況が理解出来ないままに、ソファーで向かい合う形に座らされる。かと思えば、彼の顔が近づいてきて優しくキスをされた。

「会いたかった」

「うん」

「寂しかった?」

「うん」

久しぶりに感じる温もりが心地よかった。


「ピンクのソファーじゃ嫌?なんで?」

そういえば彼はこう言っていた気がする。

「君とふたりで座ったら、どう見ても俺には似合わないでしょ。ピンクなんて」その時の彼の顔はソファーよりもピンク色だった。だからわたしは言ったっけ。

「貴方に一番似合いそうだよ。このソファー」

もしまたソファーを買う機会があったら、わたしは迷わずピンクを選ぶと思う。貴方に似合う、桜のようなピンク色のソファーを。

最後まで読んでくださってありがとうございます!!自分でも甘すぎだなぁ…と思ってますが…いかがでしたでしょうか??執筆途中で完全放置になっているお話をどうにかしたいと思いつつ…逃げています。つたない文章を読んでくださりありがとうございました!!

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