〝悲劇の主人公〟はヒロインから逃げれない
――主人公。それは、世界の中心的人物であり、運命に愛されし者である。
周りには美少女ヒロインが集まり、やれやれといった顔をしながら「僕なんかといるより~」と言ったふざけたことを抜かす、そんな人物。
そして――神々に〝悲劇の主人公〟という職業を与えられた天然主人公補正所持者の結城 雷もまた、同じくヒロインを抱えている人物のひとりであった。
「ねえ、雷君!」
結城とアドルフの1v1特別訓練が終わったところを一人の女子が声をかける。
彼女の名は——相澤 愛華。
略称は「あいあい」な、いわゆるクラスカーストトッに居座るかわいい・あざとい系女子である。クラスの女子にはそれなりに好かれているが、どこかあざとさを感じさせる行動から一部の女子には嫌われていたりする。
ちなみに、結城がポニーテールが好きといったうわさをどこからか聞きつけ次の日から学校にポニーテールで登校し、それなりに結城にも好かれている一人でもある。もちろん異性としては見られていない。どっちかというと結城目線でもめでる対象止まりである。
「ああ、相澤さんか。どうしたんだい?」
疲労困憊、といった様子で結城が反応する。
――結城のレベルは、すでにXXVを超えている。
アドルフ——剣聖のレベルがXXXIということから、それなりに強くなれていることがわかる。
そんな彼が、まさに疲労困憊。肉体的にも、精神的にも疲れている様子。
これを見て――今、男に飢えた年齢からは少し考えられないような肉食獣が覚醒した。
「そんなに疲れちゃって、大丈夫?」
「あ、あぁ...大丈夫だ」
結城は相澤の問いかけにそう返すも、その答えに生気はこもっていない。
―――周りからの問いかけにちゃんと考えて返すほどの余力も残っていない――チャンスだ。
そう考えた相澤さんは、一気に畳みかけることにしたのか口を開いた。
「ねえ、雷君。今度この国のお姫様たちと一緒に城下町に行くことになったんだけど、一緒に来ない?」
「い、いや。俺は訓練があるから...」
「一日くらいさぼったって大丈夫だって!アドルフさんには私たちが言っといてあげるから!!」
「......なら、行く」
「ありがとう!」
もともと、結城というのは押しに弱い。
押されれば、頼まれれば承認してしまいたくなるが彼の性分なのだ。
しかし、今の彼には自身を、そして転移してきたクラスメートみんなを守るための訓練をしなければいけない、という使命感があった。
アドルフから聞かされた自分たちを狙う勢力については自分で調べたりもしていたし、危険さを理解しているつもり...でもあったのだから。
正常な状態——ここまで疲れていない、元気な状態の結城ならこのさそいにもことわることはできただろう。
しかし、今の彼は思考能力が格段に低下している。
しかもそこに、クラスメートの女子たちとと王女様とともに城下町に出かけるというイベントを主人公補正が全力で行かせようとしていると来た。
――結城に、この誘いを断れるはずもなかった。
そうして、結城はヒロインとともにショッピングするという、主人公ならだれもが一度は経験するであろうイベントの約束を取り付けられてしまうのであった。
◆
――いいことを聞いた。
ある程度の修業も終了し、【転移】でダンジョンから出てきた僕は、さっそく王城までやってきた僕は、そんなことを考えていた。
王城に【転移】してきたはいいものの、この王城に僕の居場所なんてない。
だからなんか情報が得られたり隠れられたりするところないかなぁ~と王城を探索していると、どうやら見知った気配を感知。あ、もちろん認識阻害眼鏡はつけている。
気になったのでそれに従ってきてみれば、なんとそこでは僕らの中では腹黒ヒロインで有名な相澤さんが結城君に対して外出の約束を取り付けているところを目撃してしまったのだ。
―――こんなの、利用するしかないよね。
神様から教えてもらった〝勇者〟を狙う不届き者というのは、どうやら王城にも潜んでいる模様。多分、下女とかになりすまして祖国に情報を送ったりでもしてるんだろう。
そんなスパイがこんな開けた場所で行われた約束を見逃すとは思えないし、多分結城ら〝勇者〟が狙われるとしたら、その日が確実だろう。
初の第三勢力ムーブ、どうせなら盛大にお披露目とかもしたいし、やるならその日がベストだと思う。それに、話を聞いてる限り王女様も来るんでしょ?
一国の王女様が襲われてるところを助けた謎の少年、とかで話題になったらかっこいいじゃん。
「となれば、次は襲ってくる敵国とかの洗い出しかな」
魔眼っていうのは便利なもので、僕が創りだしたものの中には相手のステータスを僕の目の前に表示できるってものがある。通称、【鑑定の魔眼】ってよんでいる。
仕組みとしては、ほら、なんかこの世界にもスタータスを見れるようにする魔道具あるらしいじゃん?あれの対象読み取り部を応用したイメージかな。
――とまぁ、そんなことを考えながら浮遊する。
「かっこいいよねぇ、この翼」
レベルCに至ったことで出せるようになった天使みたいな翼。今は白い色をしているけど、どうやら自分の気分で色と形状を操作できるようで、攻撃に転用することもできる。
ほら、僕の生みの親というかなんというか、そんなサムシングの存在が颯っそういうキャラクターが好きでね? 僕もつられて好きになって颯とおなじような翼が出せるのは地味にうれしい。まあ、これを教会の前で出そうものなら異端者として速攻処刑されるらしいけど。実際僕、神の遣いっていうか現人神なんだけど?
――――《魔眼》
【透視の魔眼】と【鑑定の魔眼】を同時発動。ちょっとした頭痛に襲われはするけど、それだけだ。
うーん、変な動きをしている人いないかな。
......あ、いた。見事に何かの魔道具抱えて走ってるじゃん。
えーっと? ...写真機? なるほど、これで〝勇者〟の顔を届けるつもりなのか。
カメラじゃなくて写真機って名前だし、多分地球の1800年代くらいのカメラと同じような性能なのかな。僕知ってるんだ、あの頃のカメラは下からフィルムが出てきたって。だってとこぞの仮面なライダーで見たもの。速攻ラノベにチェンジしたけど。
えーっと、所属している国は......オズマン帝国?
......ッスーーー。あれ、なんか聞いたことある名前なんだけど。
神様たち?ちょっとはっちゃけすぎな気がするんだけど。
いやまあ別に文句を言う気はないんだけどね?僕は消されないか心配だよ。
「取り敢えず、あとで神様たちにオズマン帝国を滅ぼしていいか気いとこっと」
――そうして、僕はスパイ捜索を再開するのだった。
ちなみにその結果、滅ぼす国が10個になった。
ちょっとこの世界殺伐としすぎじゃない? 〝魔王〟との戦争が間近に控えてるというのに勝った前提で行動するの最高に愚かで面白いと思うけど。
◆
「なあ、ちょっと今の世界終わりすぎじゃね?」
「それはそう。まさか彼方君から10か国も滅ぼしていいか聞かれるとは思わなかったわよ...」
―――何もない、真っ白な空間。
そこで、今日もまた神々は下界を鑑賞し楽しんでいた。
「しかも、その国のどの国も〝特殊因子〟を持ってる人材を抱えてるから厄介なのよね...」
彼方から知らせられた、スパイ活動をし〝勇者〟を狙う国々。
その中には、〝賢者因子〟や〝聖女因子〟といった神々が〝魔王〟との対戦用に作った〝因子〟を所有している人材を有している国が、半分を占めていた。
「いやぁ...〝聖女〟は巫女的な役割も持たせたいから一人だけに設定したからその中には入ってなかったけど...」
「まさか、適当に5人って決めた〝賢者〟全員が滅ぼされる国に所有されているとか...」
「なにこれ? インフルエンザに罹ったときに見る質の悪い悪夢かしら?」
「「「はぁ...」」」
神々が、あきれのあまり声を出せないといった様子でため息をつく。
それもそうだろう。「勇者とともに魔王と戦ってくれればいいな☆」と考えて作った〝因子〟の所有者が、みんな勇者に敵対している国にいるのだ。しかも、その所有者たちを見ると皆〝勇者〟を倒す気満々でいる様子。
あきれのあまり声が出ないというか...神々はみな、その世界の神の眼の悪さに呆然としていた。
「俺さ、勇者たちだけは自分で決めようって言ったけどよ」
「まさか選ぶのがめんどくさくて異世界から連れてくる人材世界の神にえらばせたとはいえ、よ」
「「「ここまでひどくなるとは思わなかったもんなぁ...」」」
―――世界群を管理する神と、世界を管理する神。
ここにいる神々は、世界群を管理する神に位置する。
それはもちろん、世界を管理する神よりも上位の存在であり、もちろん力も上だ。
それでも、世界から世界へ人材を運ぶのはそれなりの労力を消費する。
世界を創り、操り、破壊する神々と言えど、どちらも違う法則に支配されている世界へ人を派遣するのは大変なのだ。
「...もう、全員彼方に消させるか? 見せしめとして」
「それでいい気がしてきちゃったよこんちくしょー」
「今度はちゃんと転移させる人選ばないとね...」
いつもはっちゃけてる神々からは信じられないくらいのダル気な雰囲気。
――――そんなこんなで、10か国滅亡ショーと〝賢者〟再召喚が決まったのであった。




