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異世界勇者は〝調律者〟に勝てない  作者: tanahiro2010


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7/12

〝異世界勇者〟は訓練から逃げれない


 彼方らが転移した王国——リバース王国。

 その王城で今、さっそく〝勇者〟たちの訓練が行われようとしていた。


「お前らにはみな、〝勇者因子〟の所持が確認されている。つまり〝勇者〟となり〝魔王〟を討てるのは確実だが......もちろん、その人の得意不得意があるはずだ」


 この世界に転移した勇者たち。その勇者たちには、彼方を除きみな平等に〝勇者因子〟が埋め込まれている。

 それは、〝魔王因子〟所持者——つまりは〝魔王〟を討てるようにするためのものだ。


 では、みなはどうやって戦うのか。この世界はRPG風に作られている故、様々な職業がある。

 『剣士』しかり、『魔術師』しかり、『治癒師』しかり。

 勇者たちはみな、そういう職業を持っている。


「――ステータスを見れば、自身の職業に関してわかるはずだ。じゃあ、その職業とは、その効果とは何か」


 彼方の『調律者』はそのすべての職業効果を持ち、さらにはパワーバランス〝調律〟時身体能力を上げるという職業という範疇を超えた効果があるのだが、それはさておいておくととしよう。

 普通の職業には、その職業に関連するもののレベルアップ速度が高いという効果があるのだ。


 ――例えば、『魔術師』。

 この職業を持つものはみな魔法を使うたびに増える魔力量が増え、さらに自然回復量も増える。

 『魔術師』の職業を持っている人が放つ魔法は、ほかの職業を持つものよりも当然威力が上がるし、最後には魔法、魔術関連のスキルが得られやすくなる。


 ――例えば、『剣士』。

 『魔術師』と同じく、この職業を持つものは剣の上達速度が早くなり、剣使用時の多少の身体能力アップという効果がある。

 近距離専用職業と思うことなかれ。神々は人間のロマンを理解している故に、練習すればいずれ飛ぶ斬撃さえ放てるようになる。

 そして、『魔術師』と同じく剣関連のスキルが得られやすくなるのだ。


「――ということで、今から私に職業を申告してもらう。それに合った武器を与えるから、嘘はつかないほうがいいぞ」


 勇者たちがうなずき、みな自身のステータスを開く。

 「「ステータス!」」という声が響く中、結城がアドルフのもとに進み出た。


「あの...アドルフさん」


「なんだ...確か結城だったか」


「俺の職業、ちょっとおかしいんですけど...」


 そういいながら、結城がステータスを見せようとする。

 しかし、この世界で誰かのステータスを見るには、ステータス可視化の魔道具を使う以外にはない。

 ゆえに、アドルフは断り、魔道具を取りに行こうとしたのだが――


「――〝ステータス可視化〟」


 結城がその言葉を放つと同時に、アドルフは結城のステータスボードが見れるようになった。


「...なんだ、その力は」


「わかりません。ただ、俺の職業に関連する力なのは確かだと思います」


 ――主人公補正。それは、彼を取り巻くなぞの力。

 基本周りに興味のない彼方でさえ認めるほどの主人公適正のある彼は、またもやその力を発揮する。


「ふむ。じゃあ見てみようではないか」


 アドルフが、結城のステータスボードを覗く。そこには――


――――――――――

名前: 結城 雷

種族: 人間

年齢: 16

レベル: I

因子: 勇者

職業: 謔イ蜉??荳サ莠コ蜈ャ

スキル: 自動翻訳 言霊Lv1

――――――――――


 ――そんな、文字化けした職業があった。


「...なんだこれは」


「お、俺に聞かれてもわかりませんよ。そもそも読めないのに」


 困惑するアドルフ。うろたえる結城。

 それを眺める佐藤をはじめとしたクラスメートたち。


 膠着状態が10秒ほど続いたところで、アドルフが折れる。


「はぁ、わからないものはもういい。この国の研究者にでも投げておくから訓練後ついてこい。とりあえず、お前にはいったん剣を使ってもらうとする」


「あっ、ハイ」


 そうして、アドルフは再びほかの勇者たちの職業聞き取りに戻った。

 なお、この謎の職業のせいで結城が研究者たちにモルモットにされかけるのはまた別の話である。


 ◆


「はっ!」


 慣れた手つきで結城が木刀をふるう。

 対し、アドルフはそれを軽く受け流し――脇腹に蹴りを放つ。


 飛ばされながらも、結城は地面に木刀をたたきつける。

 ザザーッ!という音を鳴らしながらも、見事に着地。

 即座に地面を蹴り、アドルフに肉薄。


 木刀を構え――ずに、結城は至近距離から木刀を投げた。


「――んなっ?!」


 木刀での攻撃が来ると思っていたのだろう。アドルフが驚きの声を上げる。

 そのすきを突き、結城は拳を叩き込もうとするが――しかし、腕をつかまれ地面に投げられた。

 背中を地面にたたきつけられ、咳が出ながらもなんとか体を起こそうとするも、思ったほかダメージが大きいのか起きることができない結城。


 アドルフが、そんな結城に手を差し出した。


「あ、ありがとうございま――ッ?!」


 その手をつかみ、起き上がろうとした瞬間——結城は、またもやも投げられた。


「痛...ッ!な、なにするんですか!!」


 だまされた、と思っている結城が叫ぶ。

 しかし、アドルフは何食わぬ顔で答える。


「油断するな、といっただろう?」


「で、ですが...!今のはひどいと――」


「――ひどい、が通じるほど戦場は甘くない。それでなくともお前は異常なのだ。ほかの勇者よりも早く強くならねば...死ぬぞ?」


 ――職業申告の日からすでに、5日が経っている。

 あれからというもの、勇者たちはみな自身の職業に合った訓練を続けているのだが――結城だけは、アドルフに超特急で鍛えられていた。


 それはなぜか。それは、結城の異常な成長速度によるものだ。

 なぞの職業——『謔イ蜉??荳サ莠コ蜈ャ』によるものなのか、それとも結城が天才なのか。どちらなのかはわからないが、結城は剣に関しても、魔法に関しても。どちらも異常な成長速度を有していた。

 それもそうだろう。たったの5日で荒事とは全く縁のなかった結城がアドルフ――この世界での〝剣聖〟との模擬戦中に相手を驚かすに至ったのだから。


 ほかの勇者たちは、アドルフと模擬戦をしても5秒もかからず気絶させられるだろう。

 しかし、結城はすでに剣、拳、そのどちらもを使うことで約5分は絶えることができるのだ。これができるものは、この国にもなかなかいない。このことから、結城がすでに人類上位の技術を持っているともいえるだろう。

 それこそ、魔族ともなれば人間よりも基本性能が上のため対処できる人はいるかもしれないが、この国でそれができる人といえば王の親衛騎士団の隊長格の人たちだけだろう。


 ――ゆえに、結城は狙われている。

 王城の中にスパイでも紛れ込んでいたのか、他国に結城の情報が流れてしまったのだ。

 〝魔王〟との戦争ではなく、勝利後の戦争を重視している周辺諸国から見れば、結城はまさに邪魔というものなのだろう。今でさえ、一般兵よりも強いものがこれからさらに成長してしまえば戦争で優位に立てないことがよくわかるのだから。


「お前に入っているはずだ。この城の中にもお前の首を狙うものがいると。少なくとも、そういう者たちには勝てるようになってもらわんと困るのだ」


「くっ...」


「おおよそ、そういうものは暗殺者だろう。手を伸ばされたからって、お前は暗殺者の手を取るのか?」


「い、いや...」


「まだ、この世界をよく知らないのは知っている。この世界の事情に付き合わせて申し訳ないとも思っている。だが、まずはお前に強くなってもらわんとこちらとしてもなにもできんのだ」


 〝魔王〟を倒す。それができないと、礼をすることもままならない。

 そして、〝魔王〟を倒すには、少なくとも王城に潜む暗殺者くらいからは身を守れるようにならねばならない。


 ――厳しいだろうが、それがこの世界の現実なのだ。


 ◆


「なぁ、まだ〝勇者〟と〝魔王〟の戦争すら始まってないのに〝勇者〟を狙う不届き者がいるんだが」


 ――これもまた、白い世界。

 今日もまた、神々は世界を観察していた。しかし、今日観察している対象は彼方ではない。ダンジョンにこもりっぱなしの彼方を見ていても、特に面白みがないと感じた彼ら神々は、久々に転移させた〝勇者〟たちを眺めていた。


「んあ?〝勇者〟以外〝魔王〟は倒せないのにそんな馬鹿なことする奴がいるのか?」


「あぁ、なるほど。彼らは戦争のために厄介な〝勇者〟を排除しようとしているようですね...なんと愚かなんでしょう」


「まじ?...てか排除しようとしてる対象アレじゃん」


「あぁ、あの...なんかめっちゃ主人公っぽかったやつ」


 勇者の職業というのは、基本的に神々が気分で決める。

 相手を見た時の第一印象だったり自分が新たに作った職業のテスト用としての役割だったり、とにかく適当に決められている。


 ――そして、結城も。


「なんかめっちゃ主人公っぽい気配醸し出してたし――『悲劇の主人公』っていう職業、その場で作って付与しておいたのよね」


 もれなく、神々の実験対象であった。


「え、なにその職業」


「主人公ってついてるしなかなかにいい職業ってことは予想できるけど悲劇?なんかあるの??」


 神々が興味津々といった様子で女神に尋ねる。


「彼方、いるじゃない?」


「あぁ、いるな」


「彼、絶対ゲームごちゃまぜにするじゃない?」


「すでにあの国のやつらからは探されてるしな」


「つまり、絶対ハッピーエンドにはならないの」


「「「あっ...」」」


 察したかのような声を神々が発する。まぁ、そうだろう。

 調整役なんていうゲームの運営側の彼方がいる限り、ちゃんとしたゲームを望めることなんてないことが確定しているのだから。

 〝魔王陣営〟からも〝勇者陣営〟からも。どちらもを敵に回すようなポジション。

 さらに、どちらもを超える力を持った存在。彼が暗躍する限り、ハッピーエンドが訪れることはないに等しいと、彼らはそう悟ったのだ。


「どちらにも被害は出るわ。死人は出なくても、再起不能レベルに痛めつけられる人は出てくるでしょうね」


「だからか...」


「ハッピーエンドになんてなるはずがないな...あいつがいるのに」


「というか、結城そのものが消される可能性もあるのでは?」


 納得と考察が広まる。


 神々は今日も、元気に神々していた―――


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