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異世界勇者は〝調律者〟に勝てない  作者: tanahiro2010


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3/11

〝異世界勇者〟は洗脳から逃げれない


「さて、そなたらを召喚したのには一つの理由がある」


 彼方がこの場から転移して数分後。

 周りに彼方が潜んでいないか一通り確認し終えた兵士たちは、王とともに召喚の趣旨について話し始めた。


 この転移に巻き込まれたものたちというのは、あらかじめ神様から〝勇者〟として転移してもらうということは聞いていたものの、それ以外に関しては何も聞かされていない。

 ラノベなどをよく読むオタクたちはある程度何が起こっているのか予想はできているだろうが、それ以外のクラスメートたちは何が起こっているのか一切理解できていないはずなのだ。


 といっても、まぁ。

 神様からのアドバイスとして戦闘に有利なスキルを選べと言われていたため、皆戦闘があることは予想しているのだろう。

 しかし、それ以外の何の情報もないのが事実だ。


「端的に言うと――――そなたらには、〝魔王〟を打ち倒してもらいたい」


 王の一言に、あらかじめこの展開を予想していたオタクたちは「俺らの時代だ!」と沸き、何も予想していなかったものたちは恐怖に震える。

 当たり前のことだろう。これまで平穏に生きてきた学生が悪いイメージしかない〝魔王〟を倒せと言われたら、パニックになるなんて決まってる。


 ――しかし、そんな喧騒は絶えない中、王はまるで「聞かなかった人が悪いだろう?」といった顔で淡々と話を続ける。


「我々にはやつを倒すことはできぬ。しかし、神に選ばれし――〝勇者因子〟を与えられたお主たちなら、奴を討つことができるのじゃ」


 〝因子〟――それは、ステータスの職業とは違う、その人の在りかたを表す。

 例えば、彼方の〝現人神因子〟。

 これは、彼方の深層心理――世界を物語として形作りたい、そしてその世界で踊りたいという欲を表す。

 力がなければ何もすることができないため、成長限界を取り払い、そしていずれは神としての〝権能〟行使さえ許されるようになるだろう〝因子〟だ。


 じゃあ、果たして〝勇者因子〟とは?

 それは――神の選んだ〝魔王因子〟を持つものを倒すことのできるようになる唯一の因子である。

 〝現人神因子〟のように成長限界をなくす効果も、〝権能〟の行使を可能にする効果もないが、ただただ〝魔王因子〟所持者に対しての特攻を得るための因子なのだ。


 人の持つ〝因子〟には何かしらの効果――例えば、ここにいる王の因子〝王因子〟なら軽い洗脳効果――があるが、〝勇者因子〟のように効果の少ない〝因子〟はない。

 それはまるで――〝因子〟というよりも、神から与えられた〝称号〟を表しているように見えた。


 転移者の集まる群の中から、一人の少年――クラスカーストトップに立つであろう者が前に出る。


「お、俺らは戦いなんてない世界で生きてきたんだ。戦いなんてできねぇよ!」


「結城...そうだ!俺らに戦う力なんてねぇ!」


「そうよ!私たちに戦えと言われたところで何もできないわ!!」


 少年――結城に影響され、何人もの少年が前に出て王に反抗する。

 しかし、転移させた側とは言え一国の王がそんな無礼を許すはずもなく——王の目配せにより、周りの兵が槍を突き出し場が一気に静かになった。


「安心しろ、神からお告げでそなたらが戦いの場に身を置いていなかったのは理解している」


「じゃ、じゃあどうするっていうんだよ...」


「そなたらには、我が国の騎士団長――〝剣聖因子〟を持つ”アドルフ スターリン”に修行をつけてもらう」


 その言葉に反応し、王の後ろにたたずむ男性が前に歩み出る。


「私がアドルフ スターリンだ。これからお前たちの修行を担当する」


 あまりにも、いきなりすぎる展開。

 考える時間もなく勝手に進む話にあらがおうと、このクラス代表のような雰囲気を出し始めていた結城が前に出ようとした瞬間—―


「――〝問題ないな?勇者たちよ〟」


 まだ誰も知らぬれっきとした〝力〟のこもった王の声。

 それを聞いた転移者たちの目が一瞬虚ろになる。

 そして――皆、違和感を持つことなくうなずくことしかできないのだった。


 ◆


「さて、アドルフよ」


 勇者のいなくなった部屋で、王とアドルフが向き合っていた。


「なんでしょう、王よ」


「そなたは最初に出てきたあの少年、どう思う?」


 二人が話しているのは、消えた彼方に関して。


「あれはおそらく――【転移】スキル持ちでしょう」


「探しても出てこなかったのじゃ、そなたも同じ結論に至るか」


 この世界において、【転移】スキルというのは重要な役割を持つ。

 生半可な〝因子〟では覚えられるようなスキルで、そのスキルを扱えるということは――勇者や魔王よりも強い、もしくは強くなれる余地が存分にあることを意味する。

 そもそも、【転移】スキルとは空間と空間を一度切り裂き、そして再接合する術があるが故、空間に対するアクセス権をを持っていないと使うことができないのだ。

 先ほど〝因子〟とは人の「在りかた」だと説明したが、それに加えて世界への〝アクセス権限〟を表すロールともなっているのだろう。

 まがいなりにも〝神〟の名を名乗る〝因子〟だからこそ、彼方は空間へのアクセス権を最初から得ているのだ。


「やはり...彼らと同じくあの少年は転移者なのでしょうか?」


「そうなのであろうな...おそらく、神に何か特別な役割を渡されて転移してきたといったところだろうか」


「ッ......?!ということは、彼に失望されたであろう私たちは――」


「...最悪の事態を避けるためにも、彼に我々を再認識してもらわねばならぬな...」


 ――実際に、神から特別な役割を与えられたというのは事実だ。

 それが必ずしも〝人間種〟に有利になるとは限らぬ役割だが。


 しかし、彼の役割を。職業を。〝因子〟を知るものは、この世界に彼自身以外に存在しない。

 もし誰かが知ってしまったとしても、それが彼方の得になるであろう人物でなければ、〝勇者陣営〟と〝魔王陣営〟のパワーバランスの崩壊を、神々の〝遊戯〟の崩壊を危機した神が迷わずにその者の記憶を消しに行くだろう。


 ――ゆえに、彼らは勘違いしたまま話を進める。


「...ほかによく別な〝因子〟を持った転移者はいたのでしょうか?」


「いや、いなかった。皆もれなく【鑑定】させたが、全員〝勇者因子〟の持ち主でしかなかったな...」


「それを喜べばいいのか嘆けばいいのか...他国では〝賢者因子〟の持ち主を呼び寄せたという報告も出ているからな...」


「そういえば、協会側は独自の召喚儀式で〝聖女因子〟の持ち主を召喚したとも...」


 王とアドルフの顔が曇る。

 〝勇者因子〟に〝魔王〟を倒すことができるという力以外がないことから、彼ら〝勇者〟の戦闘能力は〝固有スキル〟と〝職業〟に頼る他ない。

 しかし、今挙げられたような〝賢者因子〟や〝聖女因子〟は、〝魔王〟を倒す手伝い以外にも——〝因子〟特有の力を使い、戦争兵器として扱うことができるのだ。


「やはり――〝魔王〟を倒したとしても、戦争が始まるのは確実なのでしょうか」


「そうであろうな。周辺諸国の怪しい動きをから推測するだけでも、すでに〝魔王〟討伐後の未来を見据えて戦争の準備をしている国が何個か見える」


「もしかすると...あの少年はそんな我々に裁きを加えるために神から役割を与えられたのかもしれませんね」


「なんとしてでも、こちら側に引き入れなければな。兵に捜索の命令を出しておけ、下手に刺激してくれるなとも付け加えてな」


「はっ」


 たとえ勘違いをしていたとしても。

 彼方が強力なのは変わらない。

 もう少し彼方の性格が良かったのならその一手は正解と言えたが———彼の性格のせいで、盛大に反撃を喰らうのはまだ先の話である。


あとがき――――――

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