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異世界勇者は〝調律者〟に勝てない  作者: tanahiro2010


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12/12

Epilogue

「――やぁ、久しぶり」


 突如、緊張感の漂うこの空間にその一言が響いた。


 ◆


 結城にとって、刺客――ミニステルアリスというのは、わかりやすい脅威だった。


 最初は自分と同じぐらいの実力だと思っていた。

 それがどうしてか、いきなり圧倒されるようになっていた。


 ミニステルアリスは禍々しいオーラをまとっている。

 禁術――【淵の奔流】を使用している証だ。

 結城はその禁術について学んでいたから、目の前の相手がどれだけヤバいか理解できた。


 だからこそ、ミニステルアリスを脅威だと認識することができたのだ。


 ――しかし、今はそうではない。


 目の前にいるのは、まるで天使のような純白の翼を広げた元クラスメート――清水彼方。

 オーラなどない。

 生きていれば感じ取れるはずの気配も、全くしない。


 結城の師匠――アドルフは、気配を隠す術を持っている。

 剣聖として戦っていくうちに身についたと本人は言っていたが、それでも結城が集中すれば存在の残滓くらいは感じ取ることができた。


 けれど、目の前の清水からはそれを感じない。


 そう。

 そこに確かに存在するのに、存在しないかのように結城には感じられたのだ。


 ◆


「お前は……何だ?」


 一方で、ミニステルアリスもまた、彼方に疑問を抱いていた。


 現在禁術使用中のミニステルアリスは、周囲に自身の魔力を無駄に振りまいている。

 これは禁術のデメリットでもあり、メリットでもあった。


 デメリットは、外に無駄に魔力を振りまくため魔力の消費が大きいこと。

 メリットは、魔力に触れた物をすべて読み取れること。


 振りまいている魔力は元は自身の魔力。

 だから、魔力に触れたものがどこにあるかは感覚的に読み取れる。


 ――しかし、今はそれに当てはまらない。


 彼方は確かにミニステルアリスの魔力領域内に存在している。

 というのに、ミニステルアリス自身は彼方の存在を魔力から知覚できないのだ。


 視界、聴覚からは彼方を認識できる。

 しかし、魔力からの情報は「そこには誰もいない」と言っている。


 脳が理解を拒否するような、この状況。


 だからこそ、ミニステルアリスは目の前に現れた彼方が、いかにありえない存在であるか――異常な存在であるかという事実に気付いた。


 まるで幽霊のような彼方に、ミニステルアリスの本能が警鐘を鳴らす。


 ――怖い。

 ――逃げろ。

 ――殺される。


 しかし、恐怖で逃げ出せるほど、ミニステルアリスの覚悟は柔ではなかった。


 ◆


「何、だって?」


 彼方が反応する。


「僕は……そうだね」


 顎に手を当てながらゆっくりと降下してくる彼方の姿に、ミニステルアリスの視線は釘付けになる。


 ――近づいたら、殺られる……!


 そのことで、ミニステルアリスの脳内はいっぱいだった。


「元、結城くんのクラスメートで――」


 そう答えながら、彼方がミニステルアリスへと一歩踏み出す。


「――今は、この世界の調整役、といったところかな」


 次の瞬間。


 濃密な魔力が、吹き荒れた。

 彼方の開放した魔力が、あたりを支配する。

 ミニステルアリスの魔力をも、塗りつぶす勢いで。


「んな……ッ?!」


 結城と、ミニステルアリス。

 ともに、驚きの声を上げる。


 しかし、その事実にうろたえた、次の瞬間――


 彼方は、ミニステルアリスの後ろに位置する建物の天井に現れていた。


 ――そして、ミニステルアリスの右腕は綺麗に切断されていた。


「うわああああ!」


 血しぶきが舞い、近くにいた結城が紅に染まる。


「――言っただろう? 僕はこの世界の調整役なんだ」


 ストンッ、と。

 そんな音を響かせながら、彼方は地面に飛び降りる。


「そんな僕が――この世界に必要な勇者の抹殺を、許すはずがないじゃないか」


 冷ややかな殺気に当てられ、結城が怯みを見せる。

 恐る恐る覗いた彼方の顔は――恐ろしいほど、嗤っていた。


 ◆ ◆ ◆


 ――うーん、これからどうしようか。


 笑いながら屋根から飛び降りたはいいものの、僕はこれからどうしようか迷っていた。


 この人たち――刺客さんたちを全員殺すのはすでに決まっている。

 なんか刺客やってる理由とかがあるみたいなんだけど、正直僕には関係ないしね。


 これでもし過去でも聞いて重い過去だったりを暴露されたらめんどうったらありゃしない。別にそれで結論が変わることはないけどね?


 ...はぁ。名乗りとか、そんなの考えてくればよかったな。

 いや、名乗り自体はすでに済ませたんだけども。もっとこう、どんな風にふるまうかとかの設定を練っといた方がかっこよかったと思う。


「...どうしたんだい? そんなだんまりして。もしかして、僕みたいな勇者を守る存在がいないとでも思っていたのかい?」


 あまりにもだんまりすぎるから、取り敢えずなんかそれっぽいことを言っておく。

 別に勇者だけを守るわけじゃないしね。魔王を守ったりもする。たぶん。


「あ、あああァァ」


「ちょっとうるさいんだけど」

 

「にゃァ?!」


 魔力をなんの加工もせずそのまま刺客さんに向けて放出し、吹き飛ばす。


 あ、やりすぎた。ちょっと壁にめり込んじゃってるじゃん。

 別にそのまま放置して死んでもらっても構わないけど、できれば国に対する情報とかほしいし。ほら、この国の王城とかにいるスパイさんとかの国に関してはわかってるけど、それ以外の国は特に知らないから。たぶん僕よりかは世界情勢とか詳しいだろうしそれだけは聞いときたいんだよね。


 足を引っ張り、刺客さんを引っ張り出す。

 ...あれ? 反応しない。


「もしかして、気絶してる?」


 あれ? おかしいな。

 これくらいの衝撃で気絶するの?


「...弱いね、この人」


 もうちょっと強いと思ってたな、レベルXXVって。


 ―――そんな感じで、まさかの僕の初〝調律者〟デビューは終了するのだった。


 ◆


 取り敢えず、なんか微妙な顔して立ち尽くしていた結城くんに関しては無視して、刺客さんたちをかかえ、僕は再びダンジョンへ来ていた。

 この世界に来てから大部分をこのダンジョンで過ごしていたからか、このダンジョンにいるとなんか安心すらしてくるんだよね。たぶん、もう僕の中ではこのダンジョンがマイホームみたいな認識にすらなりつつある。


 この世界にもRPGのごとく冒険者は存在する。

 冒険者は魔物だったり魔族だったりを相手して戦うし、ダンジョンにだって潜る。これはさっき冒険者ギルドを確認したから確実だ。ちなみに僕の魔法の実験相手はそこでからんできたガラの悪かったお兄さん。もうこの世界には存在しないけど感謝しないとね。


 ――と、そうじゃなかった。

 そんな冒険者が存在するというのに、僕のこのダンジョンにはいまだに誰もたどり着いていない。僕も【転移】で移動しているからこの場所が具体的にどこにあるかはわからないけど、少なくとも入口のまわりは草原。たぶん、王都とは遠い場所にあるんだろう。


 そんな、この場所だからこそできることがある。

 人が来ないということは、何をしてもバレないということで、だからこそ僕はここで非人道的なことでもなんでもできるのだ。さすがに僕の倫理観が邪魔したりはするけどね、相手は僕以上の屑...なんだろうしそこまで心が痛んだりはしない。

 情報を引き出すついでに、僕の実験台にもなってもらおうじゃないか。


 ――そんなことを考えながら、僕の背後に浮かせていた〝勇者〟を襲った刺客たちを地面に放る。

 きれいに...はならんでないけど、ある程度の間隔があいていることを確認したら――地面を数度、足先でつつく。


 僕の創った闇魔法――【拘束】。

 その名前の通り、対象を闇が拘束する魔法だ。影があるところでしか使えないなんて言う欠点もあるけれど、その代わり影のある場所だと絶大な効果を発揮する。具体的には、レベルXCくらいにならないと倒せない敵でも簡単に動きを止めさせるくらいには。


 故に、もうこの人たちは動くことができない。

 いくらでも、尋問し放題だ。


「さて、起きてくれるかな?」


 刺客たちに向けて、そう一言。ついでに【拘束】の闇をちょっとだけ操作して頬をつんつんさせておく。


「...ん? あぁ、俺は負けたのか」


 最初に起きたのは、僕が魔力放射して気絶させちゃった悲しき刺客リーダーさん。


「うん、そうだね。君たちを殺すことには変わりないけど、その前に情報をもらおうかなって」


「そうか...敗者は勝者に従う、だっけか? お前の世界ではそんなのが広まってるんだってな」


「そうかな? まぁ時々本で読んだりはするからそうかもね」


「だったら、俺も従ってやるよ。これも運命だ、神が俺を死ぬと定めたんなら、抗う気はねぇ。ただ――――絶対に、アレスト帝国は、滅ぼしてくれ」


 そんな、衝撃的な一言を残しながら。


 ――そうして、僕の初めての尋問は始まった。

 そしてなぜか、この暗殺者の人たちは僕の仲間になることになった。


 ◆


「え、えぇ...?」


「まじか...よわっ」


「あんなので〝勇者〟殺そうとしてたの? なんか私腹が立ってきたんだけど」


 ――神界、某所。

 そこでは、今もまた〝調律者〟――彼方の活躍を見守る神々の姿があった。


「ねぇ、これ彼方くん動かす必要なかったんじゃない?」


「そうだなぁ...一応、あいつが動かなきゃ悲しき主人公君が死んでしまう、なんてことがあったかもしれんからなぁ...」


「――え、でも〝剣聖〟来てるし殺されることはなかったんじゃない?」


 一斉に、神々は黙った。どこからともなく表れた少年神に正論を浴びせられ、反論の余地もなく撃退された。


 しかし――意気消沈とした雰囲気の混じる中、何とか一柱の神が言い返す。


「か、彼方君だって頑張ってるんだい! 僕らから見たら面白いし楽しいからいいけど人間から見たら痛くてしょうがないような言動を、がんばってやってるんだい!」


 それはまるで、擁護とも非難ともいえないような反論で――彼方は一人、どこかでけなされたと感じてうずくまったという。


「いや、うん。どしたん? 話聞こか? そんなけなすこと言わんでも...」


 まさかの反論した少年神が、擁護(?)した神をなだめる。

 対し、他の神々は――


「あ、彼方君うずくまってる。かわいそーに。やーい、なーかしたーなかしたー」


「わーるいなーわーるいなー、創造神にーいってやろー」


「先生! ワイくんが彼方くんを泣かせました!」


 ――まるで2チャンネルのような反応をしていた。


 まぁ、神々にとっての娯楽というのは下界を眺めるか、こっそり地球の掲示板サイトなどにアクセスし書き込むくらいしかないのだからしょうがないといえばしょうがないのだが、それでも子供が過ぎる。


 ―――ちなみに、その性格のせいで〝勇魔戦争〟なんていう悪趣味な遊戯ができてしまったのだが、それはおいておくよしよう。


「とにかく、彼方くんがやったことに一応は意味があると思うんだ、僕」


 非難していたはずの少年神が語る。


「〝剣聖〟――アドルフの所属する国に対する牽制にもなったし、これを機に邪魔な国も消せる」


「何それダジャレ? 剣聖と牽制をかけてるの? さむー」


 揶揄った神をヘッドロックしながら、少年神は続ける。


「〝勇者〟を狙っていた国はもちろん、やけに魔族に敵対的な――戦争が始まる前に〝魔大陸〟に侵攻してしまうような国も消せる。今ここで出る必要はなかったとは思うけど...まぁ早いか遅いかの違いだしね」


「...結局お前は何が言いたいんだよ。否定したかと思えば肯定、そのあとまた否定なんて何が言いたいかさすがに理解できんぞ??」


 そんな、神の問いかけに返し、少年神は――


「――とりあえず、僕も下界に降りようかなって」


 そう、答えた。


あとがき――――

なんか微妙な初デビューですが、これで一章完結です!

連載再開は次の章の展開を詳細に決めたらですね

一応次章のイメージとしてはいっぱい国を亡ぼす予定


コメントとか星評価、いいねやフォローよろしくお願いします!

作者が嬉しくなって早めに次章を再開するかも???


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