第9話 洗いっこ
オメガさんのおかげで揉みくちゃにされずに済み、ようやく一息つけた。まあ、これから温泉に浸かるんだけど。しかも1対数十人の混浴。
けど、それ以上に……ミューレンさんとの関係が、気まずい。彼女も同じなのか、忙しなく前髪を弄っていた。
「おい、何してんだ2人とも。さっさと脱げよ。じゃねぇと、アタイがひん剥くぞ」
「だ、大丈夫です、自分で脱げます」
チラチラと見られてる気がするけど……気にしすぎてると、いつまでも脱げない。ええい、ままよ……!
学ラン、ワイシャツ、スラックスを脱ぎ、最後の防御壁は腰に布を巻いてから取る。これで良し。
「イブキ様、何故腰に布を巻いているのですか? 巨人族の血筋でもないのに……?」
「え? ……ッ!?!?」
えっ、ぜん……え!? タオルは!? 大事なところ隠さないの!?
全力で顔を逸らすと、真上から豪快な笑い声が聞こえてきた。見上げると、そこには腰布すら外したオメガさんがいて……。
ギュンッ。首がもげるんじゃないかってくらいの速さで、今度は床を見た。いや、ちょ、がっつり……がっつりでしたが……!?
「ガハハハハ! おーおーイブキ、それじゃあ裸の付き合いにならんだろ! 温泉は布を巻かずに入るもんだぜ!」
「ち、ちちち乳、地球ではこういう物なんです……!」
嘘です。日本ではタオルをお湯に漬けるのは許されてません。けど、今だけは許してくれ。俺も隠したいお年頃なんだ。
なんとかミューレンさんとオメガさんに納得してもらい、脱衣所を出る。一瞬、太陽の光で目が眩んだが、直ぐに視界が元に戻り……思わず、目を見開いた。
「……すっげぇ……」
高さ10数メートルから落ちる、四本の滝。その下に四つの滝壺と広大な温泉があり、多種多様な美女たちが優雅に寛いでいた。
周囲は大自然に囲まれ、小鳥たちがさえずりを上げている。
正に楽園……いや、天国そのものだった。
「イブキ様、まずはお体を洗いましょう。こちらです」
ミューレンさんに連れられ、少し離れた場所に移動する。その間も、裸の美女たちが妖艶な仕草で誘ってきた。本当、心臓に悪いのでやめてください……。
温泉から少しだけ遠ざかると、無数に枝分かれしている細い滝が現れた。水圧も強くない。少し温めのシャワーみたいだった。
「ここで体を洗ってから、温泉に浸かります。決して、洗う前に入らないように」
「それはもちろん、大丈夫です」
日本人として、そんな真似は絶対にしない。ちゃんと洗ってから入りますとも。
まずは滝に打たれて、全身を濡らす。
落ち着く……異世界に決まり、走ったり、襲われたりしたけど、お湯の気持ちよさは変わらないな。
「えーっと……ミューレンさん、シャンプーとかあります? それかボディソープとか」
「しゃんぷー……ぼでぃ……というのはわかりませんが、石鹸はこちらに」
と差し出してきたのは、なんとも宝石のように綺麗な石鹸だった。光の反射で、七色に輝いている。
「めちゃくちゃ綺麗ですね」
「この山で採掘される、天然の石鹸です。人にはもちろん、獣人族にも問題なく使えます」
また、便利なものがあるんだなぁ。
受け取ろうと手を伸ばすと、ひょい。遠ざけられた。意地悪されてる?
「イブキ様、どうかそのままで。私がお体を洗いますので」
「え」
まさかの提案。硬直していると、一瞬でモコモコと泡立てていた。
断ろうとするが、時すでに遅し。背中に回り込んだミューレンさんが、頭に泡を乗せて洗ってきた。
これがまぁ……素晴らしい力加減。一瞬、お互い全裸なことを忘れた。
「痒いところはないですか?」
「最高に気持ちいいです」
「ふふ。私たちはよく、お互いの体を洗っていますからね。ほら、あんな風に」
ミューレンさんが指さした先には、胡座をかいているオメガさんがいた。その大きな体にまとわりつく、6人の美女たち。頭はもちろん、胴や腕、脚に至るまで、隅々まで洗っていた。
……美女たちがくんずほぐれつしてるから、まじまじとは見れないけど。
「これも、騎士の絆を深めるコミュニケーションの1つです。お互いの事を知り、お互いを自身の体の一部と考え、どんな危機が訪れようとも、必ず護り抜く。それが六華隊の理念なんです」
「……いいですね、そういうの」
心から信じられる、本当の仲間って感じがする。……俺には、そういう奴がいたのかな。友達はいたけど、そんな必死になって守るって間柄じゃなかった気がする。
「という訳で……貴方様の事を知るため、隅々まで洗わせてもらいます」
…………ん?
「いやいや、流石に体は自分で洗いますよっ。それに男女であの洗い方はまずいかと……!」
「絆を深めるのに、男も女も関係ありません。大丈夫、私に任せてください」
もっこもこの泡を全身に塗りたくり、目を輝かせるミューレンさん。
あ、待って目に泡が! 染みる! 目に染みる!
ちょっ……あ……。
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