第7話 本部案内
オメガさんが組んでいた脚を解き、ミシミシ音を立てながら立ち上がる。
で……っか……身長、3メートル以上あるぞ。軽く俺の倍はありそうだ。こんだけデカかったら、この建物の全部がデカイのにも納得だな。
てか、あの……お願いします、隠してください……。
なんていう俺の心の声は届かず、腰を曲げて顔を近づけてきた。間近で見ると顔もでかいな……下手な事すると、頭から食われそうだ。
「お前、名前は?」
「く、久我一颯です」
「イブキか、いい名だな!」
「は、はは、どうも……うわっ!?」
いっ、いきなり持ち上げないでくれ、しかも片手で。びっくりするから……!
オメガさんにつままれ、地上から数メートルの高さまで持ち上げられる。アトラクション以外でこう言った経験がないから、ちょっと怖い。
そのまま、自身の肩に俺を乗せるオメガさん。いくらガタイが良くて巨人族の筋力があるとは言え、こんな風に子供扱いされるとは思わなかった。
思わず、彼女のグレーの髪にしがみついてしまう。あ、やば、超いい匂い。強力な雌臭に加えて、意外と甘めの匂いもする。やべ、せっかく治まってきたのに、またマイサンが……。
「どれ、せっかくこの本部に滞在するんだ。六華隊総隊長であるアタイ直々に、本部の案内をしてやろう。ミューレン、お前もついてこい」
「はっ、総隊長」
総隊長の言うことには逆らえないのか、黙ってついてくる三番隊隊長。助けて欲しくて視線を向けるが、苦笑いを浮かべるだけだった。こうなったオメガさんは、誰も止められないらしい。
仕方なく、揺れる肩に乗せられていると、さっきの広場とは反対側へ出た。一瞬、外の明るさで目を細めたが、それにも直ぐ慣れた。
さっきの広場以上に広がる、広大な草原だ。あちこちで筋力トレーニングやランニング、剣の素振りをしている。……皆さん、超薄着で。うわぁ、発育がいい人ばかり。男の目が無いと、こういう感じになるんだなぁ。
「ここは鍛錬場だ。アタイらは魔物や山賊専門の騎士だからな。常日頃から、体を鍛えているんだ」
「へぇ……え、魔物? 魔物がいるんですか?」
「ん? 聞いてねーのか?」
聞いてねーですよ!?
思わずミューレンさんを見ると、あからさまに目を逸らされた。ちょ、マジすか、それ……!?
「ま、魔物って言うのは、熊とか狼みたいな形をしていたり……?」
「なんだそりゃ。そいつはただの動物だ。魔物ってのは……まあ、いずれ目にすることもあるだろう。今は気にすんな」
気になることだらけなんですが……!?
でも、そうだよなぁ。魔法があるんだ。魔物の1匹や2匹、存在するよなぁ。……1人でいる時に出くわしませんように。
「あれぇ? 総隊長、どうしたんですかぁ、こんな所にぃ?」
と、急に目の前に幼女が現れた。
……え、ん? ……飛んでる?
思わず目を擦って、もう一度見る。間違いなく、飛んでいた。
「おー、ラーフ。男を保護したんでな。今は本部の案内中だ」
「ほぉ~。彼が噂の野良男ですかぁ」
幼女はふわふわと浮遊しながら、オメガさんの顔の周りを飛ぶ。
これも魔法の1つ……なんだろうか。馬車が浮いていたことにも驚いたけど、まさか人が飛ぶ魔法もあるなんて……。
「イブキ様。彼女は治癒専門の四番隊隊長、妖精族のラーフです。こう見えても立派な大人で、実年齢は600歳ですよ」
「600歳の妖精族……」
言われてみれば、体格は立派な大人だ。大人の形のまま、小さくなった印象。こんな亜人もいるんだな。
「ラーフ。イブキ様は今、顔に傷を負っている。治してやってくれないか?」
「ミューレンちゃんの頼みなら、いいわよぉ」
ラーフさんが俺の目の前止まり……チュッ。ほんの少し、鼻先に触れるだけのキスをしてきた。
途端に、体全体が淡い光に包まれる。待つこと数秒。チリチリ傷んでいた矢の傷や、鼻の痛みが綺麗さっぱりなくなった。本当に治っちまった。さすが、治癒専門の部隊だ。
「あ、ありがとうございます、ラーフさん」
「うふふ、男の子を治すなんて、数百年ぶりかもぉ。お姉さん、ちょっと興奮しちゃった♡」
じゃあねぇ〜、と手を振り、去っていくラーフさん。お姉さんというには小さくて、子供が背伸びしているようにしか見えないが……。
オメガさんが鍛錬場を歩き、話しかけてくる女騎士たちにも挨拶をしていく。俺もジロジロと見られて……動物園に放り込まれたみたいだ。
「イブキ、もし体を動かしたくなったら、ここはいつでも使っていいからな。夜でも、基本夜行性の亜人がいるから、無人にはならないはずだ」
「夜行性の亜人もいるんですね」
「そりゃあな。だが、アタイやミューレンは普通に寝てる。もし襲われたとしても、助けてやれねーからな」
「わ、わかりました」
夜は俺も寝てるし、襲われる心配はないだろう。……多分。
「んじゃ、次行くか。向こうに温泉があんだ。体の汚れを落とそうや」
「へぇ、温泉まであるんですね」
………………………………え、温泉??
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