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第5話 でっけぇなおい

 この世界の事情や魔法の存在を見聞きしてウキウキしていると、不意にミューレンさんが垂れ幕の外を見た。



「どうかしたんですか?」

「いえ……少し、蒸すと思いまして」



 あー、確かに。密閉された幕で覆われてるからか、かなり暑い。俺でも暑いんだ。全身鎧を着ている彼女は、もっと暑いに決まってる。



「この中でくらい、鎧を脱いでもいいのでは?」

「そ、そ、そう、ですかっ?」



 急に食いついてきた。しかも頬を紅潮させている。相当暑いらしい。俺も気が利かないな。だから彼女ができな……いや今は関係ないだろう、それは。



「そ、それでは、お言葉に甘えまして……」



 各パーツを繋いでいる留め具を外し、鎧を脱いでいく。

 と──むわあぁっ。うおっ、全身から湯気が……!? どんだけ暑かった……って。うっ……い、一気に湿った女性の匂いが充満して……!?

 上半身、腰、腕、脚の鎧を外し、更に内側に着込んでいる鎖帷子にも手を掛けた。

 にしてもでっかいな。鎖帷子越しにこんだけでか……って、待っ……!



「んっ、しょっ……」



 ──ぶるんっぼろんっ。



「弾んだ……!?」

「え?」

「あ、いやなんでも」



 全力で首を逸らすが、目がめちゃめちゃ吸い寄せられてしまう。いや吸い寄せられるなんてもんじゃない。これはもう引力。全てを吸い寄せて離さない、絶対無敵のブラックホール。馬鹿な、地上にここまで強力な引力物質が存在するとはあああああああ布うっすてかそれ固定されてませんよね呼吸する度に揺れるし零れそうになるしてか大事な部分が出っ張ってる気がするのは気の所為でしょうか気の所為ではないですねそれもうずるいよ誘ってるんですか俺俺俺俺ああああああああああ。



「い、イブキ様、どうかしたんですか? 何やら挙動がおかしい様な……?」

「どっ、どうしたはこっちのセリフです! な、なんですか、その格好……! お、男が少ないからって、下着くらいは着けた方がいいんじゃ……!」

「え? 着けていますよ?」



 それは! 下着じゃ!なくて! 布!! ただの!! 布です!!!!

 ゆ、油断した。そりゃそうだ。この世界は極端に男がいない。つまり、日常生活で男の目を気にする必要がない。だから下着という文化も衰退してるんだ……!



「……もしやイブキ様、私の胸に興味が……? こんなだらしのない駄肉、無意味で邪魔なだけなのですが」

「ちょっ、変に揉まないでください。本当……いやでっけぇなおい」



 あ、やべ。つい素の声が。



「こ、この世界の価値観とかはわかりませんけど、地球の男は基本的に、女の胸が好きなんです。だから目に毒というか、眼福というか……とにかく、もうやめて……」



 思わず三角座りになる俺。だってしょうがないじゃん、男の子なんだもん。男子高校生なんだもん。



「なんと……イブキ様の世界には、そんなに男がいるのですか?」

「え? まあ、正確な数字はわかりませんが……男女半々くらいはいますね。多分40億人くらいかな」

「よんじゅっ……!?」



 まさかの数に、目を丸くするミューレンさん。そりゃそうだよな。男が3万人。女が6千万人の世界だ。文字通り桁違いってやつだ。



「そんな……それだけ男女がいたら、皆様男女の仲になれる、幸せな世界なのでしょうね」

「やめてくれ……その言葉は大半の男を傷付ける。俺も含めて」



 本当に、なんで俺、彼女いない歴=年齢なんでしょうね。ハハハ……はぁ。



「……イブキ様にも、妻や妾や性処理女性の5人や10人いるのでは?」

「んなにいてたまるか!?」



 てか今の発言、この世界の男はそれが普通だってことか!? ずるいぞ男共!!



「とにかく、俺のいた地球はそういった文化がないんです。だから俺は童て……ピュアなんですよ」

「な、なるほど」



 ようやく納得してくれた。やれやれ……文化が違う世界っていうのも、大変だな。

 ……まだ治まりそうにないから、しばらく膝を立てさせてもらおう。



「イブキ様、お聞きしてもよいですか?」

「なんですか?」

「イブキ様は、胸の大きな女性が好きなのですか?」



 いきなりぶっ込んできたな。



「ま、まあ、比較的大きなというか、あったら嬉しいというか、むしろ男の中ではむしろ好きな人類といいますか……はい、好きです」



 ここまできたら誤魔化せない。というか、男が近くにいるのにこんなさらけ出す人の前では、誤魔化す必要がなさそうだ。



「そうですか。……そ、それでは、その……私で、興奮するのですか……?」

「…………ん??」



 え、今なんて?

 まさかの言葉に、目を向けてしまった。

 ミューレンさんは自身の巨大な胸を鷲掴みにし、熱の篭った吐息を漏らす。汗ばんだ体と潤んだ瞳が、ランタンの灯りに照らされて妖艶に輝いていた。



「私の体で……できますか……?」

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