第4話 魔法のある生活
俺に続き、ミューレンさんも馬車に乗り込む。垂れ幕が閉じられて、2人だけの空間になってしまった。
外の音がくぐもって、よく聞こえない。だけど、クレンさんがミューレンさんに変わって、あちこちに指示を出しているみたいだ。あの人、副隊長みたいなポジションなのかな。
「イブキ様、そちらのクッションをお使いください。私共の私物故、少し座り心地は悪いと思いますが、どうかご容赦を」
「私物?」
脇に積まれているクッションの山に目をやる。
私物……美人揃いの女騎士さんたちの、私物か……きっとあれから、この濃密な匂いが漂ってるんだな。
……って。いやいや、何を考えているんだ、俺は。いくら思春期だからって……うん、ごめんなさい。めっちゃそわそわします。
なんとなく使うのは憚られ、床に座った。さすがにアレに飛び込む勇気はない。
が、ミューレンさんはクッションを使ってほしいのか、一番豪勢な花柄のものを渡してきた。
「イブキ様、そこでは腰を悪くしてしまいます。せめて、これをお尻の下に。私のもので恐縮ですが」
「え……さ、さすがにそれは……!」
会って少ししか経っていない美女のクッションを、ケツで踏むなんてできるか。そんな特殊性癖を持っている訳でもないし、単純にものすごく申し訳ないわ。
だけど彼女は引き下がらず、無理やり俺の腕の中にブツを押し付けてきた。うっ……すげぇ濃い匂い。
「どうぞ、遠慮なさらずに。道中、ゆるりとお楽しみくださいませ」
「……じゃ、じゃあ、気が向いたら……」
「ありがとうございます」
にこっ。超至近距離で微笑まれた。やっべぇ、美人が笑うと最強か……?
一先ず、クッションを軽く抱きしめて出発の時を待つ。ミューレンさんは俺が逃げないように警戒しているのか、垂れ幕の傍で仁王立ちしていた。
「ミューレンさん、座らないんですか?」
「現在は貴方様の警護任務中ですので、いつでも動けるようにしているんです」
「そ、そうですか」
女性を立たせて、俺だけ座ってるの、居心地が悪い。
でも、ようやく座れたからか、体の疲れが一気に噴き出してきた。ダメだ、いきなり眠気が……って、ダメだ、ダメだ。皆さんが起きてるのに、俺だけ眠るなんて。
とにかく、ミューレンさんと話をして、気を紛らわせよう。
「さっき、魔女がこの世界の男を少なくしたって言ってましたよね? ということは、魔法とか魔術みたいなものがあるんですか?」
「ええ、もちろんです」
おおっ。やっぱり魔法がある世界か……! いつか、俺も見せてもらいたいなぁ。
「イブキ様の世界には、魔法がないんですか?」
「はい。創作の中にはありますが、現実には存在しませんね」
「……では、いったいどうやって生活を? 魔法がなければ、日常生活に支障が出ると思うのですが」
「それは……科学技術とか、テクノロジーとか」
「……かが……てく……?」
「……気にしないでください。とにかく、地球には魔法と似たものが存在するんです」
聞きなれない言葉なのか、ミューレンさんは首を傾げた。
この世界は魔法が発展しているから、科学技術は存在しないのか。まあ、行きすぎた科学は魔法と同じと形容されるレベルだし、あながち存在しないわけではない……のかも?
「それより……この馬車、いつ出発するんですか?」
「もう動き出していますよ」
「え。でも揺れが……」
「ああ、そうか。魔法を使っているんですよ。馬に負担を掛けないように、浮かせているんです」
ミューレンさんが垂れ幕を開け、下を覗き込む。
お……おおっ!? すげぇ、車輪が下についてない! なるほど、だから全く揺れがないのか!
「まるでリニアですね」
「りにあ?」
詳しくは俺も知らないので、深堀しないでくれると嬉しいです。
馬車の中へ引っ込み、定位置に戻る。
これが、魔法のある生活か。騎士とか山賊のいる世界だから、ちょっと怖いと思ったけど……存外、楽しそうじゃないか。
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