第3話 よろしくの意味
ミューレンさんにこの世界の事情を聞いていると、クレンさんが駆け足で近付き、敬礼をした。
本当、美人が並ぶと絵になるなぁ。死と隣り合わせの世界だからか、種を存続させるためにこういう進化をしたのだろうか。
「隊長、馬車の準備が整いました。いつでも出発できます」
「ご苦労。私は車内で、イブキ様の護衛をやろう。皆は周囲を警戒するのだ」
「えっ、ズルくないですか!? 女を怖がらない男と、密室で2人きりなんて……! そんなのスケベ物語じゃないですか!」
言い方、言い方。てか、この世界にもあるのか、エロ同人みたいなものが。
でも確かに、気持ちはわかる。俺も逆の立場だったら、同じこと思いそう。
「しっ、仕方ないだろう。私は彼の事情を把握し、報告書をまとめるという仕事があるのだ。仕事だ、仕事。決して私情を挟んでは………………いないから、安心しろ」
「間」
クレンさんがジト目でミューレンさんを見る。他の女騎士たちも、ジトーっと見ていた。なんか、緩いなぁ。騎士ってもっと規律がしっかりしてるイメージがあった。
「ええいっ、うるさいうるさい! ほら準備しろ! 総員、移動開始!」
「「「はっ!!」」」
こういうのを鶴の一声と言うのだろうか。ミューレンさんの号令に、今まで緩んでいた空気が一気に引き締まり、各々が配置についた。
一糸乱れぬ隊列……地球では、なかなかお目にかかれるものではない。
「イブキ様、どうぞこちらへ」
「あ。は、はい」
ミューレンさんに案内され、布で覆われた馬車へ案内される。リアル馬車なんて、初めて見た。
左右に控えていた女騎士が、恭しく垂れ幕を開ける。と……な、なんだ? 中から、むせかえるような濃厚な匂いが……?
若干怯みつつ、馬車の中を覗く。床に赤い絨毯が敷かれ、くつろぐ為なのか一ヶ所にクッションが積まれている。頭上にはランタンがあるが、それ以外の灯りはなく、どこか妖しい雰囲気を漂わせていた。
それにしても……この匂い、もしかして女性の匂い……か? 作られてから今まで女性しか触れてこなかったからか、床や天井、布にまで濃い匂いが染みついてる気がする。
あ、やば。一気に体温が……俺、まだ女性と付き合ったことがないから、こういうのに慣れてないんだよ。
一向に入ろうとしない俺を見て、ミューレンさんは頭を下げた。
「申し訳ありません、イブキ様。急遽準備した馬車故、このようなみすぼらしいものしか用意できず……」
「あ、いやっ、そうじゃないです……! むしろこんな立派な馬車、ありがとうございます」
俺としては、馬車ってだけでテンションが上がるんだ。ただ、匂いに慣れてないだけで。
が……周りのリアクションがおかしい。なぜか俺を見て、ざわついている。
「え……待って。男って、みんなこんな優しい方なの……?」
「私が聞いた噂では、もっと自分勝手で暴力的だって……」
「私、昔見たことあるけど、もっと粗暴な感じだったわ」
「でもイブキ様って、そんな感じしないわよね」
「むしろ優しいというか……」
「こんなスケベ物語から出てきたような男が実在するなんて……!?」
え、何? ぼ、暴力的? 粗暴? いやいや、待ってくれ。こっちの男性たちがどういう人かは知らないし、確かに地球にも一定のそういう層はいるけど、優しい人も多いぞ。
ここはしっかりと挨拶をして、地球人男性代表の地位を下げないようにしなければ。
「あ~……こほん。み、皆さん、安心してください。俺はそんな野蛮な男じゃないですし、女性は守る存在だと親父にこっぴどく言われてきましたから。あと……いきなり俺みたいな男が現れて、困惑していると思いますが、これからよろしくお願いします」
深々~。とにかく深く頭を下げる。もしここで粗相をして置いて行かれたら、マジで死んでします。これも、この世界を生き抜くための処世術だ(多分)。
「よ、よろしく……? よろしくできるの……!?」
「ふっ……私も遂に、添い遂げる方が見つかったようね」
「んなわけないでしょ。添い遂げるのは私よ」
「せ、先輩たちずるいですっ。私もよろしくしたいです……!」
「まあまあ、落ち着きなさい。時間はあるのだし……ね?」
ん……? あれ、おかしいな。よろしくの意味が歪曲して伝わってるような気が……?
「やれやれ……私語は慎め。イブキ様、早く中へ。皆が落ち着きませんので」
「あ、はい」
これが地球と異世界の分かの違いなのか……? 早く、この世界にも慣れないとな。
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