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第16話 ケツで『ピーーー』

「ええいっ、お前ら下がれ! イブキ様が怖がっているだろう! さっさと自分の任務に取り掛かれ!」



 ミューレンさんが前に出て、皆さんを下がらせる。が、それでも収まることはなく、逆にブーイングの嵐が起こった。



「えー!」

「アタシにもお零れください!」

「ミューレン様、総隊長命令だからってずりぃよ!」

「あれだろ、今日の夜にでも『ピーーー』するんだろ!」

「ケツで『ピーーー』すれば『ピーーー』じゃない理論で『ピーーー』しまくるつもりですわ!」

「キャーッ!!」

「ドスケベ隊長!」

「淫乱女騎士!」

「見損ないましたよ、ド変隊長!」

「貴様らァ! そこになおれッ、たたっ斬ってやる! あと誰だ、ド変態と隊長を掛け合わせたやつ!!」



 ブーイングが凄かったが、ミューレンさんの怒号ひとつで、蜘蛛の子を散らすように解散していった。

 締めるところは締めているというか……意外と怖いんですね、ミューレンさん。



「全く……申し訳ありません、イブキ様。気のいい奴らではあるんですが、悪ノリが過ぎるところがありまして」

「気にしてません。向こうでも、ああいう悪ノリはありましたから」



 特に陽キャやトップカースト集団が。俺? それを横で見てただけです。

 ……何も言うな、悲しくなる。

 周りから人集りが消え、ようやく隊舎の中に入れた。

 やっぱり綺麗にしてあるな。あれだけ悪ノリしていても、隊の規律はしっかりしているみたいだ。

 でも……やっぱり濃縮した女性の匂いがする。ここにいる以上、この匂いからは逃げられないんだろうな。

 ……ん? くんくん。おぉ……? 甘い女性の匂いに混じって、美味しそうな匂いが……。

 ──ぐるるるるるるる〜。ぐぅーーーーーー……。



「あ」

「ふふ、無理もありません。疲れていらっしゃるでしょうから。さあ、こちらです」



 めっちゃ聞かれたみたいだ。恥ずかしい。

 廊下を進み、何度か角を曲がる。奥から騒がしい声が聞こえてきた。喧嘩というより、仲良く盛り上がってるって感じの声だ。

 ミューレンさんが先に入り、続いて俺も入ると……思わず、足を止めた。



「う……おぉ……広い……!」



 天井は普通の部屋と同じくらいだけど、とにかく広さが桁違いだ。数百人の隊員が一斉に飯を食べられるようにしてるんだろうけど、まさかここまで広いとは……。

 先に来ていた隊員たちは、既に私服に着替えて夕食にありついていた。騎士の私服というより、むしろ水着に近いくらいラフで露出が多い。

 人って慣れるもんなんだなぁ……段々と、美女の肌を見ても乱されなくなってきた。



「イブキ様、何故前屈みに?」

「キニシナイデクダサイ」



 ……乱されてません。生理現象です。

 食堂のメニューは日替わりらしく、隊長や隊員関係なく、基本的に皆同じものを食べるらしい。唯一違うのは、オメガさんのみ。そりゃああの体格を維持するのに、隊員のみんなお同じ飯じゃ足りないよな。

 視線の大群に囲まれながら、俺も配給の列に並ぶ。

 どうやら今日は、ステーキとパンがメインらしい。他にも野菜、果物が付いていて、意外とバランスのいいメニューだった。

 美しく、芳ばしい焼き目には油が浮き出て、匂いだけで旨みが押し寄せてくる。和牛でも、ここまで暴力的に美味そうな匂いはしていない。



「おぉ……? これ、何の肉ですか?」

「ドラゴンです」

「へぇ、ドラゴンですか」



 …………………………ん?? ドラゴン????



「……ドラゴン、いるんですか? この世界に?」

「ええ、もちろん。イブキ様の世界にはいないので?」

「い、いませんよっ。むしろ伝説上の生物として、物語に出てくるくらいで……!」



 よく考えると、魔法があり、魔物がいる世界なんだ。ドラゴンくらいいても、不思議ではない。

 え、じゃあこの肉、ここにいる騎士の皆さんが討伐したの? ガチで?

 お、女だらけの世界だってことで、舐めてた……やっぱ死と隣り合わせの世界で生きてるだけあるわ……。

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