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第14話 強く生きていきます

 六つ並んでいる建物の、左から三つ目。シンプルながらも美しい花々で飾られている家の前に立つ。

 右隣は小さい家。多分、四番隊隊長のラーフさんの家だ。

 左隣は……随分とファンキーというか、所々壊れている。随分とヤンチャそうな感じだ……二番隊隊長、ちょっと怖いかも。



「イブキ様、どうぞ中へ」

「あ、はい」



 ミューレンさんに促され、いざお邪魔します。

 まず第一に、ミューレンさんの濃い匂いがする。彼女のスメルを凝縮した感じ。温泉の時は石鹸と混ざってたけど、ここは余計なものを感じない。むせ返るレベル。

 それ以外はミューレンさんのイメージ通り、小綺麗なリビングだ。家具もオシャレだし、小物や観葉植物も飾られている。

 ……よくよく考えると、一人暮らしの女性の家に上がるの、初めてだ。そわそわする。



「着替えてくるので、ソファでお寛ぎください」

「ありがとうございます」



 2階へ上がるミューレンさんを見送り、お言葉に甘えてソファに沈む。

 おぉぅ……やぁらけぇ……。実家のソファでも、こんなに柔らかくなかった。どんだけ高級品なんだろうか。

 …………っと、ぼーっとしてる場合じゃない。荷物の確認をしないと。

 床に置いたスクールバッグの中身を漁る。

 えーっと……勉強ノートが数冊と、物理、化学、英語、保健体育の教科書。筆記用具の入った筆箱。空になった弁当箱。体操服とジャージ。



「後はスマホと、モバイルバッテリーか……」



 うーむ……なんとも言えないライナップ。普通のスクールバッグだ。

 ゲームのひとつでも持ち運ぶんだったなぁ……あ、でも充電出来なかったら詰むか。

 教科書をパラパラ捲るが、どのページにもイタズラ書きばかり。我ながら、不真面目な生徒だこと。

 ……やる事もないし、真面目に勉強するか。この教科書だけでも完璧にマスターしたら、帰れた時の足しにはなるだろう。



「……帰れた時、か」



 俺、帰れるのかな……?

 そもそも、どうやってここに来たのかもわからない。ただ家の扉を開けたら、いつの間にか見知らぬ森にいたんだ。

 光に包まれたとか、召喚陣が現れたとか、そんなもんじゃない。ただ歩いて、こっちに来た。こんなノーヒントで帰る手段を見つけるなんて、不可能だ。

 ソファに体を預けて、天井を見上げる。

 その時。階段からミューレンさんが降りてきた。


 体のラインがピッチリ浮き出るくらい張り付くタンクトップに、ショートすぎるホットパンツ。上からはウールの上着を着ている。

 騎士として鍛えているからか、むっちりしながらもアウトラインのしっかりした生脚。

 そして……牛の獣人かサキュバスかと思うくらい張り出した乳、細いくびれ、巨大なケツ。鎧の下に隠していた秘密兵器が、歩く度にゆっさゆっさと揺れる。



「お待たせしました。今、お飲み物を準備しますね」

「……あ……はい、お願いします……」



 この格好でも全く恥ずかしがる様子はない。恐らくこれがミューレンさんの私服で、この世界では普通なのだろう。

 全裸の時は満足に見れなかったからわからなかったけど……こんなにも、蠱惑的な体をしてたのか。

 ごめん、親父殿、お袋殿。俺、ここで強く生きていきます。



「お飲み物は何になさいますか? 葡萄酒もありますよ」

「葡萄酒……ワインですか? 俺、未成年なんで飲めないんです。すみません」

「え、もう15歳を過ぎてますよね? この世界では、15歳で成人として扱われるんですよ」



 15歳……それなら、俺でも飲める。

 でもいいのだろうか。……いや、今の俺はこの世界の住人。郷に入っては郷に従えだ。



「じゃあ、夕飯の後に……今はお茶をお願いします」

「はい♪」



 聞き慣れない鼻歌を口ずさみながら、お湯を沸かす。コンロの下に赤い石があり、そこから炎が上がっていた。あれも、石鹸みたいに洞窟から採掘されるんだろうか。

 ミューレンさんはテンションが上がってきたのか、体をリズムに乗せて揺らす。

 お尻フリフリ、その度に胸が揺れる。ぷるん、ゆっさ、たぷん……目のやり場に困る。可愛いけど、凄くエッチです。

 ごめん父ちゃん、母ちゃん。俺、今もの凄く不健全なことを考えてます。



「あの、ミューレンさん。凄く申し上げにくいんですが……動画撮ってもいいですか?」

「……どーが?」

「い、いや、特に何をしようという訳ではなく、記念というか思い出というか……や、やましい事は決してしないと約束するので……!」



 本当です信じてください。ただ美しいものをカメラに残したいという一心なんです……!



「イブキ様……どーがとはなんですか?」



 ……あ、そうか。写真もない世界なんだ。動画なんてもっと存在しないだろう。



「えーっと、映像を保存するというか……とにかく見せた方が早いですね」



 カメラアプリを起動して、ミューレンさんに向ける。キョトンとした顔も、なんとも愛らしい。



「自己紹介をお願いします」

「じ、自己紹介ですか? 東レオデルト大陸六華隊三番隊隊長、ミューレン・バルドレットです」



 おお、さすが隊長。急に振っても、対応してくれた。

 一度撮影を止めて、映像を見直す。うんうん、さすが現代世界の先端技術。異世界に来ても、問題なく撮影できてる。



「えっ……!? わ、私がこの中にいます! ど、どうなっているんですか!? 魔法ですか!?」

「いえ、魔法ではなく科学技術です。これが動画……映像とも言えますね。俺たちの世界では、こうして思い出をスマホに残してるんです」

「……異世界、恐るべし……」



 俺からしたら、魔法のあるこっちの世界の方が恐ろしいよ。

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