第11話 運の男
魔晶空間とは、床や壁、天井に至るまで『魔晶』と呼ばれる鉱石で覆われた洞窟のことを言うらしい。
魔晶には不思議な力があり、その石に触れた者の身体能力を解析し、数値として出してくれるんだとか。いかにもファンタジーらしいというか……魔物がいて、魔法があり、死と隣り合わせの世界だからこそ、こういう能力を測るものがあるんだろうな。
温泉の滝の裏にある洞窟に入り、先に進む。意外と大きな洞窟で、オメガさんでも問題なく通れるくらい広かった。
「この先に魔晶空間っていうのがあるんですか?」
「はい。と言っても、その角を曲がると直ぐに見えますよ」
洞窟に入ってたった数メートル。曲がり角の向こうから、クラブやらディスコでしか見ないようなレインボーライトが点滅している。
言われた通りに曲がると……目を疑う光景が広がっていた。
床、壁、天井。全方位が七色のクリスタルで覆われている。いつかネットで見た、メキシコのクリスタル洞窟と似たような感じだ。
赤、青、緑、黄、桃、紫……様々な色に発光し、美しく輝いている。正直、ずっと見ていられる光景だった。
「人工的に作られたのか、自然にできた場所なのかはわかりません。ですが、一般的な魔晶と比べて量も質も桁違いです。ここで測った数値は、小さな魔晶程度で測ったものとは比べ物にならないくらい正確ですよ」
ミューレンさんが得意気に説明する。
得意になる気持ちもわかる。これは、知らない人には是非とも自慢したい場所だ。
自然とスマホに手が伸びて、一枚パシャリ。バッテリーも少ないから、大事に使わないと。
「ん? イブキ、何してんだ?」
「あぁ、写真を撮ったんです」
「……しゃしん?」
こてん、と首を傾げる2人。この世界、写真が無いのか? 魔法があったり、魔晶なんてものが存在する世界なのに?
「簡単に言うと、この光景を超リアルな絵にしてスマホに保存した……って感じです」
2人に、今撮った写真を見せると……目を輝かせて、それを見た。
「すげぇ! うっそだろ、異世界ってこんなことができるのか!?」
「これはもう魔法ですよ! しゃしんというものがあれば、どこでもこれを見ることができるのですから!」
そんな、大袈裟な。……とも言い切れないか。昔の日本人は、写真に撮られると魂を抜き取られるって言っていたくらいだし。知らない人から見たら、本当に不思議な技術なんだろうな。
バッテリーは70パーセント。モバイルバッテリーもあるとは言え、乱用はできないからな。使うタイミングは考えないと。
興奮している2人を落ち着かせ、スマホをしまう。
さて、ここからが本題だ。
「魔晶空間……ここに入るだけでいいんですか?」
「ああ。足元には気をつけろよ。ゴツゴツしてて、転ぶと怪我するぞ」
「わかりました」
言われた通り、地面の鉱石に注意して魔晶空間に足を踏み入れる。
全方位、煌びやかな鉱石に囲まれ、別空間に迷い込んだ感覚に陥った。
「イブキ様、そこでしばらく立っていてください」
「わ、わかりました」
待つこと十数秒。急に、魔晶の発光が強くなった。七色の光が線になり、俺の体のあちこちに触れてくる。まるでスキャンされてるみたいだ。
少し緊張しながら、そのまま待つ。どれくらいの時間が経ったのか、不意に光の線が目の前で渦を巻いた。
線が渦になり、渦が糸となり、光る布を編む。
瞬く間に帯となり、ゆらゆらと揺れながら俺の手に収まった。
「これが……?」
「はい。イブキ様の能力値です」
……当たり前だけど、全く読めないな。言葉がわかるから、文字も読めると思ったんだけど。
「すみません。読めないので、見てもらっていいですか?」
「わかりました。布をお貸しください」
ミューレンさんに渡し、オメガさんも覗き見る。
「これは……?」
「な、なんだぁこりゃ? こんなこと、ホントにあんのか?」
「わ、私も初めて見ます。ですが魔晶空間の測定は間違いありません」
な、なんだ? 何が書かれてたんだ?
「あの、俺の能力値は……?」
「ゴミです」
「カスだな」
「酷くない!?」
オメガさんは腕を組み、ふぅむと息を吐いた。
「こいつが異世界人だからなのか、それとも元から才能がないのか……基礎戦闘力も無い。体力も無い。武器術も無い。魔力も無い。魔法コントロール力も無い。全部無い」
そこまで言うことなくない??
藁をも掴む思いで、ミューレンさんに視線を向ける。が、逸らされた。
「あ、あはは……で、でも運だけは高いので……」
泣いた。
くそぅ……そりゃあ俺だってそこそこアニメを見て来た男の子ですよ。漫画だって読みますよ。そこではさ、こういう時はスゲーみたいな流れだったじゃん。
さめざめと涙を流していると、オメガさんに肩を叩かれた。
「まあ、あれだ……うん、えっと……いい事あるさ」
「もっと元気よく励ましてください……」
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