第1話 初手、襲われます
「男! 男男男ォ!!」
「きえああああああああぁぁぁ!!」
「捕まえろッ、ぜってー逃がすなァ!!!!」
背景 親父様、お袋様。
灼熱の夏の中、いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。元気なのですが……見知らぬ土地で、女山賊に追いかけられています。
「待て待て待て、話せばわかる!」
「おぉぉぉぉとぉぉぉぉこぉぉおおおお!!」
「ヤらせろォォオオ!!!!」
ダメだこれ、言葉は通じるのに話が全く通じねぇ! てかここ、日本じゃねーの!? なんで日本に山賊がいるんだよ!
森の中を走るけど、全然逃げられない。むしろ距離がある狭まってる気がする。
当たり前だ。俺はまだ高校生な上に、運動部にも所属していない生粋の帰宅部。対して相手は、アマゾネスを彷彿させるレベルの肉体派。逃げ切るなんて無理か……!
「矢ァ放てィ!」
「いぃっ!?」
矢!? 矢って、弓矢か!?
思わず振り向くと、木の上でこっちに向けて弓矢を構える2人の女性が……って、お姉さん方! その体勢だと大切な部分が見えて──ピュンッ!
「…………」
視認できない何かが、顔の真横を抜けた。火傷のような熱を帯びた傷から、生温い血が滴り落ちる。
あぁ……ガチだ、これ。夢でもなんでもない。……本気で、ヤバいやつだ。
「あ。がべっ……!?」
脚がもつれて、思い切りすっ転んだ。顔面強打。超痛ぇ……!
鼻血の不快感と痛みで涙が溢れる。なんでこんな……ぁ……?
目の前に足がある。周りにも、ゾロゾロと集まってきてる。それも1人や2人じゃない。10人? いや、もっと大勢かも。
喉を鳴らして、唾を飲み込む。これ、まさか囲まれて……?
ゆっくり、慎重に顔を上げると……そこには、数十人のお姉様方が、発情した笑みを浮かべていた。
よだれを垂らし、舌なめずりをし、自身の乳房を鷲掴みにし……正に獲物を狙う、獣の目をしている。
「男……男ォ……!」
「アタイ、男なんて初めてだよ!」
「私も数年ぶりだァ」
「疼くぜ、濡れるぜッ……!」
あ……ダメだ、詰んだ。
親父様、お袋様。不出来な息子で申し訳ありませんが……知らない土地で、私は男になるようです。嬉しいような、嫌なような。
全方向から、腕が伸びてくる。
せめて……優しくお願いします。
「総員ッ、掛かれェ!!」
「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」」」」
ッ!? え。な、なんだ!?
今の気合いに、女山賊たちは蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出した。
その後を追うのは、馬に跨る、白銀の鎧を纏った女騎士たち。まるで映画……いや、映画よりリアルな戦闘が、あちこちで繰り広げられていた。
訳がわからず呆然としていると、近くに白馬が立ち、1人の女騎士が飛び降りた。俺の前に跪き、フルフェイスの兜を脱ぐと──絶世という言葉では足りない程の、美女が現れた。
白銀に青が混じったようなロングヘアに、燃えるような深紅の瞳。人間離れした容姿に、思わず見とれてしまった。
「大丈夫ですか?」
「……え、あ……はい。大丈夫、です……」
思わず、差し出された手を取ってしまった。逆だろう、そこは。なんで俺がエスコートされてるの。って、うわめっちゃいい匂い。女山賊たちは雌って感じの匂いだったけど、この人は気品を感じる。
女性は俺の鼻血を見ると、懐から純白のハンカチを取り出し、躊躇なく拭いてきた。
「だ、大丈夫ですって。ハンカチ、汚れちゃいますよ……!」
「何を言いますか。ハンカチは消耗品。しかし貴方様は、この世で数少ない存在なのです。もっとお体を大事になさってください」
大袈裟すぎん? そんなこと、一度も考えたことないぞ。
そこかしこで、女山賊たちが捕まっていく。いつの間にか縄で縛られ、全員檻の馬車へと連れていかれた。
「チッキショー! せっかくの男がァ!」
「もう準備万端だったのによぉ!」
「おいクソ騎士共! テメェらアタシらの獲物を横取りして、自分たちだけで楽しむんじゃねーぞ!!」
「希少な男を横取りして、何が騎士だ! 卑怯モンが!」
ギャーギャー、ワーワーと喚き散らし、去っていく女山賊たち。
……ちょっと待て。今、とんでもない言葉が聞こえた気がしたんだけど。
「あの、聞いても?」
「はい、なんでしょうか」
「……希少な男って、どういう意味ですか?」
俺の問に、女騎士さんは首を傾げる。
「どういう意味……というのが、何を指しているのかはわかりませんが、文字通りの意味です。──貴方様はこの世で最も珍しい、『男』の性別なのですから」
…………へぁ????
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