元気出していこう 【ファンタジー】【現代】
ぼわわわわん、と夢の中に仙人が現れて、白いケープと杖をくれた。「汝、愛のために力を尽くし、仲間を導かん」仙人はそう言うとぷかーっと浮き上がってどこかへ消える。私はなんじゃそりゃ、と空を見上げるが夢は夢らしく唐突にとぎれて終わる。目が覚めると枕元にケープと杖がそろえておいてあって、なかなか手の込んだいたずらだと関心。いつまでも子供にすり寄ろうとかマジうざい、パパに突っ返してやろうと私はそれを持ってぷりぷりとリビングに向かう。
だけどリビングではパパと弟が剣を手に素振りの練習中。パジャマにマントをつけてるのがかなりおかしい。ママは踊り子の扇子とすけすけのショールで社交ダンスのステップを踏み、あらおはよう、と笑顔を向ける。終わってる、と私は家族を見放すが、弟がとりなしてテレビをつけて見せる。「いま冒険が始まったのです」とかアナウンサーが絶叫し、マイクの変わりに竪琴を抱えてポロロン、と鳴らしてみせる。
は? 日本中が馬鹿になったわけ? 日本終わってる? 世界で? ニューヨークはこれから? お爺ちゃんとかどうなってるの? 疑問は次々浮かぶけれどテレビの中から流れてくる映像にもうなんだか全部言いくるめられてしまう。とにかく、仙人が現れてみんなに手に持つ物と布物、という二つのアイテムを授けていったらしい。それから仙人のひと言コメントもみんなバラバラで、弟は「時には感情を殺し、守るために立ち上がれ」とか。なにそれ。頭痛い。
スマホはメッセージで埋め尽くされていて、私は即行で返信するけど話がごちゃごちゃになって訳が分からなくなる。とりあえず学校で会おう、ってことで制服に着替えて、いってきまーす。電車の中で私は敦にメッセージを打つ。どうしてもにやにやと顔がゆるむから家ではできない。敦が剣士とかマジありえないけど、ちょっと格好いい、とか想像してると学校に着いてしまう。
教室はお祭り騒ぎでみんなそれぞれのジョブを披露してる。白ケープと杖の白魔道士は女子に多くて、七人もいる。男子には二人。被りすぎで残念だけど、ケープとか杖のデザインはちょっとずつ違っていて、なかなか仙人の仕事は細かい。男子は圧倒的に剣士が多くて、だけど級長の竹内君だけはやけに豪華なマントと幅広の剣で聖騎士っぽい。さすが剣道部部長、格が違うなー。ファンの女子増えそう。女子は帰国子女の安藤さんが賢者って感じのガウンと錫杖を持ってて、近寄りがたさアップ。女バレのエース美佳ちゃんは女剣士で赤いマントがよく似合ってる。仙人、ちゃんと人を見てジョブ選んでるなー。えらい。お調子者の斉藤が竪琴の吟遊詩人ってのはちょっといただけないけど。でも確かにカラオケも上手いからしょうがないか。
ところで私は白魔道士だけど、マジで魔法とか使えるわけ? 医者いらず? レベルあがったら人生き返らせたりもできるの? つーかレベル上げってなにする?
いつまでたっても先生は現れずにお喋りが続く。そのうち剣を掲げて遊んでいた男子が間違って黒ケープの男子をざくーっと傷つけてしまう。黒魔道士な中山の杖からはびっくりして炎がぼぼぼーっと吹き出す。すげー。教室のテンションは一気にあがるけど、中山は痛がるし机は燃え上がる。私は試しに中山に駆け寄って「痛いの痛いの飛んでいけー」と念じる。ぱあっと光が集まって中山の出血は止まり、私はものすごい疲れる。なんだこれ。後ろでは他の黒魔道士、山田、内山、脇本が水を呼び出して消火。拍手喝采が起こり、私は得意になる。どうせならもっと格好いい呪文にすれば良かった。反省。
教室のテンションが落ち着いたところで私は敦のクラスにこっそり向かう。
「敦! わ。マントとかマジ似合わない」
「うるせー。お前だって白魔道士とかゆー柄じゃねーだろ。バカ」
憎まれ口たたき合いながら私たちは廊下の隅で笑い合う。ちょっとしたことで胸がキュンとなるのが切ない。恋するのってほんと大変。気づかれない様に言葉を投げ合いながら、何とか私は敦と一緒のパーティを組むってことに話を落ち着ける。だけど敦のパーティにはもう早川が決定してて、ちょっとヤダ。早川は敦の友達だけど、私のことバカ女としか見てないから嫌い。私だってあんなひねくれ者は嫌いだけど、敦のために許してやってるのに。だけど黒魔道士の早川がいると、パーティとしてはバランスが良いからしょうがない。
と突然、ぱりーんとガラスの割れる音が響く。生徒指導室の窓ガラスが割れていて、盗賊ナイフをもった立川が狩人姿の熱血教師小川と校庭でにらみ合っている。「やっぱりお前がやったんだろう!」小川はびゅーんと弓を鳴らして矢を放つ。「うっせー。死ね!」万引きばかりしてる盗賊立川はナイフを構えて躍りかかる。小川危ない。きゃー。学校中が窓から楽しく観覧していると、学年主任の安達がやってきて賢者の錫杖を一振り。二人はくったりと力が抜けて倒れ込む。拍手が起こり、ちょっとした感動がよぎるけど問題はどんどん複雑化してる。その後長い長い職員会議があって結局学校は休みになった。
敦と駅前で会う約束をして、とりあえず私は家に戻る。弟もパパも帰ってきていて、町の混乱を映すテレビに釘付けになってた。「おかえりなさい」ママが出迎えてお互いに今日の出来事を言い合う。でも家族団欒も突然に破られて、庭先につながれたポチがうなり声を上げてモンスター化する。「あ、エサやるの忘れてたわ」ママは悠長に言うが、最近可愛がってなかったのがばれてたんだ。散歩とかさぼってホントごめん。私は心の中で懺悔するけどポチの不満は収まらず、リビングに乱入してまずはママをばくり。ぶしゅーっと血が飛び、パパが剣を手に立ち向かうけど、ビール腹がたぷたぷ揺れるだけで返り討ちにあう。私は腰が抜けて「痛いの痛いの飛んでいけ」なんて言える場合じゃない。そこに弟が立ち上がって剣を構え「ポチ、ごめんな!」と叫んで戦う。一番ポチを可愛がってた弟は泣きながらも何とか勝利して、モンスター化したポチが光に包まれて、中から元のポチが現れる。よかった、一件落着。するとどこからともなくエンドロールっぽい雰囲気が流れてきて、弟が剣を掲げる。ぱあっと光が飛び散って、弟の剣とマントは消え去り、変わりに変な紋章が残される。
「クリアしたぞー」
泣きながら弟が喜んで犬の足跡がついた紋章を握りしめる。そうか「時には感情を殺し、守るために立ち上がれ」って言葉はこのことだったんだ。納得しながら私はパパとママの治療に取りかかる。痛いの痛いの飛んでいけー。二人分の力を使っても中山の時より疲れなくて、ひょっとしたら今のでレベルあがったのかも、と思う。つけっぱなしのテレビでは弟と同じようにクリアした人の体験談とかをやり始めていた。半日で終わる冒険はたいした物じゃないけど、弟のは戦闘があったぶんすごい。私の冒険は何だろう。「愛のために」ってのが敦のことだと良いな、だけど「仲間を導かん」ってことは早川も助けなきゃいけないのかな。やだなー。
私は制服を着替えて白ケープを羽織り、可愛いコーディネイトを考える。鏡に向かいながら、人生は冒険だ、なんて安っぽい言葉を思いついてげんなり。仙人がどういうつもりかは知らないけど、私は敦に恋して楽しく毎日過ごしたいだけだ。いってきまーす。玄関を飛び出ると、かかとを鳴らして私は駅前に向かった。




