タイムマシン 【SF】
ずんずん歩く。私だけのタイムマシンに向かって。小学校の裏庭の花壇、左から13番目のレンガブロックの下に、それは埋まっている。
ぎゅっとかみしめた奥歯から、それでも涙がこぼれてくる。荒れる心を慰めるように、あの日のことを思い出す。
まだ私が現役小学生だったとき、初めてのバレンタインチョコに失敗したあげくに、いじめが起きた。毎日が最低で、裏庭に逃げ込んだ私は、校舎の工事にきていたあんちゃんと仲良くなった。あんちゃんはこっそり飴玉をくれ、私を慰めてくれた。そして、工期が終わる日、私に向かってタイムマシンをプレゼントしてくれたのだ。
「まー、戻ったからってチョコが上手くいくってことはねーけどよ。いまよりマシにはなるかもしんねーし。あ、でも三回しか使えねーかんな。使いどころ間違えんなよ」
慰めてくれてるんだなあ、子供騙しだなあ、と思いながら私はあんちゃんと別れることが辛くて泣いた。困ったら、レンガを八回ノックすれば電話がつながる、といってあんちゃんは私の頭をぐしぐしと撫でた。
タイムマシンなんて、と思いながら私は辛くなると13番目のレンガをじっとみつめて毎日を乗り切った。 初めてタイムマシンを使ったのは、中学に入ってからだった。またも告白に敗れた私は、思い出に浸るようにレンガを見に来た。そして、昨日に戻して、と呟いた。そしたら、戻った。本当に。本当だった。
泣くもんか、という気合いをぱらぱら落としながら、13番目のレンガを八回ノックする。
「よぉ。久しぶりじゃん。どうしたー?」
あんちゃんの呑気な声が答える。
「聞いてよっ」
小一時間かけて、私は六年つきあった彼が浮気して出て行った悲しみをぶちまけた。絶対結婚するって思ってたのに、こんな裏切りにあうとは。
「そりゃーつれーなぁ。じゃあ何、半年前まで戻すか。それともいっそ六年前まで戻しちゃうか」
あんちゃんの言葉の軽さに私は、慰められる。
でも、捨てられるってわかってる彼とやりなおせるだろうか。かといって、六年分の生活をやり直すのも、さすがにシンドイ。
「ううん、やっぱり止めとく」
うじうじ考えたあげくに、私はそう言った。
「またかよー。それでいーならいいけどよー。使えるうちに使わないと意味ないんだからなー」
ははは、と笑う。
最後まで使えなくったって良い。あと二回チャンスが残ってると思うだけで、私はずいぶん元気になれた。