陸上競技舐めるなよ
ジョグ:もともとは「ゆっくり歩く」という意味だが、ゆっくり走ることを指し「ジョギング」ともいう。トレーニングとしての他、ウォーミングアップやクーリングダウン時、走練習のつなぎにも用いられる。
君をスカウトしに来ました。」
冗談だろうと思った。タイムも平均より少し下。駅伝では下から数えた方が早いっていうのに。
「本当ですか!最次先生の元で練習できるなんて幸せ者だぞ!」
顧問が言う。いやいや知らないよ、こんな先生。しかも田原高校ってヤンキー多めって聞くんだけど。大会で目立った記録出しているように感じなかったけれど。
「まあまあ、ゆっくり考えてみてね。まだ君のタイムと実績では校長に推薦したいって言えないから次の駅伝での結果楽しみにしているよ」
普通に行こうと思ってないんですけど。なんでそんなに自信満々なんだ?
「パァァン!!」
号砲がなった。
「お、5000メートル決勝が始まったね。田原高校の選手は四人走ってるよ。」
決勝に四人とは結構進出している。やはり中学生と違って高校生との走りはレベルが違う。脚が流れておらず、まるで競走馬を見ているように感じる。スタンドの応援も桁違いだ。各校の考え抜かれた伝統を引き継いだ応援歌が鳴り響く。
「どうだい?高校生の走りは」
最次が自分に聞く。
「かっこいいです。なんというかただただ見とれてしまいます。」
正直に思ったことを話した。
「そうでしょ。でももっとかっこいいのはここからだよ。」
4000メートルを過ぎた辺りから田原高校の四人が先頭へと躍り出た。鳥肌が立った。計算された作戦。思い通りだったかのような最次の表情。
「す、すごい、、、」
思わず声に出てしまった。
「走るってただただ自分のために走っている訳じゃないんだよ。応援してくれる仲間、一緒に走ってくれている他校の選手、親、関わってくれた人たち全員と走っているんだ。走るってとても有難いことなんだ。だから陸上競技は尊くて、美しくて、魅力があるんだ。陸上競技舐めるなよ。」
心に刺さった。これまでなんとなく走って偶然ここまで来たから。とても言葉に重みを感じる。この一瞬でこの人がすごい人なのを感じ取れた。
「さあ、ラストスパートだ。」
打鐘が鳴り響く。先頭は田原高校独占している。こんな無名校が上位独占なんて見たことがない。ただただかっこよく自分もこうなりたいと心が動いた。全員ゴールしてから最次が言う。
「それじゃ、そろそろ行くね」
そう言ってスタンドを降りようとする。勝手に口が開いた。
「最次先生!僕もあんな選手になりたいです!田原高校に行きたいです!」
なぜかわからないけどこんな言葉が出てきた。最次は振り向き口角を上げ
「まずは実績。あと1か月半で結果を創れ。期待してる。」
そう言って監督室へ行った。絶対に結果を創る。そう心に誓い1ヵ月半練習に打ち込んだ。