平民の花屋に恋をした伯爵様は、今日も不器用に愛を育てる
短編17作目になります。今回は久しぶりの男性主人公です。男性の繊細な部分も描きたいなと思って書いてみました。成り行きを最後まで見守ってやって頂けると嬉しいです(♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
花屋で花を買った時だった。
会計をしようとしてコインを落とした時に手が触れた。
「大丈夫でしょうか?」
そう声を出した君はとても美しくて。ドキリとした。
いつも、母が花を好きだからという理由をつけて花を購入していた。
………アルフォンスはゲルルフ伯爵家の嫡男である。彼は、アカデミー時代から商会を起ち上げていて、街に出て歩くのが日課となっていた。
そこで、たまたま彼女が店頭先に花を並べているのを見かけたのだ。商売人は平民が多いから彼女も平民だろうと思ったが、彼女にはなんとも言えないオーラがあって輝いて見えた。
アルフォンスには、アカデミーを主席で卒業するほどの頭脳があって商才もあったが、思い通りにならないことがあった。
それは、“恋”である。
ちなみに、彼は見た目も良く伯爵令息であったから、アカデミーで寄って来る女性は多かった。でも、自分の関心を引く女性に巡り合えなかった。
自分を巡って女性が争いをしているところも見たこともある。だけど、関心を持てるだけのものを彼女たちは持っていなかった。
(僕はなにかに懸命になれるものがある人がいい)
自分が商売をしているからこそ、相手にも同じように高い志を求めてしまうのだ。
街で見かけた彼女は、見た限り1人で店を切り盛りしているように見えた。大変そうなのに、笑顔で丁寧に接客する彼女は素朴なのに美しい。
(これは、一目惚れなのかな)
自分は理論的で冷静な男だと思っている。だけど、こう理論では説明できない現象が突然、起きるのだと理解した。
(彼女の名前はなんというのだろう?どこに住んでいるのだろう?)
彼女に惹かれてフラフラと花屋に足を踏み入れた。彼女がこちらに笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ」
「…あ、その花は詳しくないんだが、母が花を好きでね。適当に見繕って欲しい」
「かしこまりました。お母様はどんな色がお好きですか?」
彼女の話し方も声も全てが美しく思えた。
「母はやさしいピンクが好きだな」
(名前を……名前を聞きたいが、軽い男だと思われてしまうだろうか)
「それでは、こちらでどうでしょう?」
差し出された花束は、ホワイトを基調に薄いピンクの可憐な花がアクセントになる可愛らしい花束だった。
「これは美しい。気に入った」
「気に入ってもらえて良かったです」
なにか言わねば、と思ううちに支払いが済んで店の外に出るしかない雰囲気になった。
彼女ともっと話したくて花屋に通うことが習慣になった。
多くても、二言三言しか話せなかった。
だが、本日はたまたまコインを落としたことで、いつもとは違った会話をするチャンスが巡って来たのだ。
「……あ、きちんと受け取らなかった僕が悪い。だから、気にしないで。それよりも、君にコインが当たらなかったかな?」
「いえ、私は大丈夫です」
「僕の不注意だ。おわびにお茶でもご馳走させてもらいたいんだけど」
頑張って話した。女性に人気だという恋愛小説を何冊も読んで、どんなことを言えばいいか勉強した。勉強なら得意だ。
「もしかして、私のことを口説かれてます?」
「え!?そういうふうに聞こえましたか?」
「ええ。よく同じ方法で誘われるんです」
彼女に言われてドキリとした。恥ずかしい。
「そ、そうだったのですか。コインを落としたのはワザとではありません。……参ったな。そんなふうに思われたとは」
「違うならば、私の勘違いですね。こちらこそすみません」
彼女がペコリと頭を下げる。
「頭を上げて下さい!僕はその……よく花を買うようになって、純粋にあなたともう少し話してみたいとは思っていましたが。......あ、これでは口説いているのと同じですね」
「ふふ、あなたはいい人みたいですから、お茶をご馳走してもらおうかなと思います」
彼女がニコリとして言う。
「ほ、本当ですか?僕はアルフォンス・ゲルルフと言います。あなたの名前は?」
「私はカミラです」
名前は予想通り、名前だけだった。
(やはり、彼女は平民だな。まあ、そうだろう)
「お茶の約束はいつにしましょうか?」
なるべくがっついているように思われないように聞いた。
「明日にしませんか?ちょうど、花の仕入れにちょっと行きたい所があるんです。
お時間が空いているなら、朝から付き合ってもらえると嬉しいのですけれど」
「え?」
驚いた。ただ、お茶をするだけだと思ったら、まさか朝からと言われた。店に通い続けていたから、それなりに信用を得たのだろうか。
「もともと、明日は店を1日休むつもりでいたんです。ですから、1日を有効に使いたくて。お茶込みでどうですか?お忙しいかもしれませんから無理にとは言いませんが」
「いえいえ!時間はありますから。ぜひ、ご一緒させていただきます」
思わぬ展開にアルフォンスは喜んだのだった。
次の日は言われた時間よりも30分も早く着いてしまったぐらいである。
「おはようございます。もういらして頂いたんですね」
「遅れたらいけないと思ったら早く来てしまいまして……。急がせてしまったようで、すみません」
「いえ、さっそく行きましょう」
カミラは店の裏から荷馬車をひいてきた。
「荷馬車をお持ちだったのですか?荷馬車をお持ちだとは知りませんでした」
「荷馬車は隣に借りたのです」
彼女は御者席に慣れたように座っていた。隣の席をポンポンと叩く。
「こちらにお座り下さい。ちょっと狭いけれど、2人分座れます」
言われるがまま座ると、彼女の身体と触れ合う部分が多くてドキドキした。
「僕が手綱を持ちましょう。馬には乗れますから」
「では、お願いします」
直接、馬に乗って手綱をさばくのとは調子が違ったが、彼女の前でいい格好をしようと頑張った。
彼女の知り合いだという花農家に行くと、花の苗をいくつも購入する。アルフォンスは率先して苗を荷馬車に乗せた。結構、体力を使う作業だった。
アルフォンスは、これでは彼女が大変だと心配になって言った。
「カミラさんは、いつも一人で仕入れに?」
「手伝ってもらう時もありますが、基本は私でなんとかするようにしています」
「……大変ではないですか?体力が必要だ」
「仕方ありません」
こんな細い身体でなにもかも一人でやるなんて見てられない、と強く思った。
「実は、僕は商会を運営しています。僕のところから人を手配しましょう。力仕事はその者にやらせればいい」
「……私にはお支払いするお金がありません。だから、気にしないで下さい」
「費用など気になさらずに.......。ああそうだ、ならば僕がお手伝いしましょう。ならば、問題ないですよね?」
「でも……」
カミラは気にしたが、強引にアルフォンスが言うと彼女は了解してくれた。
………それからは、アルフォンスはカミラと一緒に毎月仕入れに行くようになった。
本日もカミラと仕入れのために荷馬車に乗っていた。荷馬車の手綱を握るのもすっかり板についた。
「こうして仕入れに一緒に同行するようになって、早くも半年が経つのですね」
「そうですね。あっと言う間です」
アルフォンスは慎重に慎重を重ねて、カミラと親睦を深めていた。
ただでさえ、身分差がある。彼女には自分がゲルルフ伯爵家の嫡男だと正直に伝えていた。
「私とこうして出掛けることを、咎められはしないのですか?」
何度目かの同じ質問をされる。彼女は身分差を気にして度々、聞いてくるのだ。
「誰にもなにも言わせはしないですよ」
「義理堅い方なのですね」
「それは………あなただからです」
今日こそはと、いつも言えない言葉を口にする。
「私だから?……私は哀れに見えましたか?」
「そういうことではありません。あの、伝え方が足りなかったようですが、その」
あれだけ恋愛小説を読んで勉強したのに、気の利いたセリフが浮かばずに頭が真っ白になる。
「あなたは優しい方ですから、私が一人でやろうとすることを放っておけないのでしょう?分かっています」
「違います。いえ、違うとは言えませんが.......」
アルフォンスは道の端に荷馬車を停めた。
「どうしました?」
「私は……。私は、あなたが好きなのです。だから、あなたの助けに少しでもなりたいと思うのです」
アルフォンスは一生懸命、自分の気持ちを伝えた。
「……ありがとうございます。私、本当はあなたの気持ちに薄々、気付いていました」
「やはりそうですか……。ではなぜ、あなたは“哀れに見えたのか”と、言ったのでしょう?僕の気持ちが迷惑なのでしょうか?」
おそるおそる聞く。
「そういうわけではありません。私たちには大きな身分の差があります。だからです」
「もし、それが問題というならば、僕がなんとか解決します。だから、僕にチャンスを下さい」
アルフォンスはカッコ悪いと思いながらも、懇願するようにカミラに言った。
(こんな情けない告白を受け入れてもらえるだろうか?)
ドキドキしながらカミラの返事を待つ。
その時だ。道端の木の影から刃物を持った男たちが突然、出て来てこちらに襲いかかってきた。
「なんだ、お前たちは!」
アルフォンスは、いつも携帯してた剣をさやから出すと構えた。いつも用心のために剣を持ち歩いている。剣の腕は勉強と共に自信があった。
「カミラは荷馬車を動かして!その間に僕が対処する!」
カミラは震えながら手綱を掴むと、馬を必死に走らせようとする。アルフォンスは荷馬車から降りると、賊を打ち据えていった。
賊は黒づくめだった。どこの何者か分からない。
ある程度、ダメージを敵に与えると馬車に飛び乗って、カミラが握っていた手綱を自分が握る。
「速度を上げる!しっかりつかまって!」
安全な大通りまで馬を走らせた。
後ろを振り返ると、賊は追って来ないようだった。
大きな街道に出ると、ほかにも馬車が走っていてのどかな様子だった。
「ふう、ここまで来れば深追いもしてこないでしょう。いや、賊が出るなど驚きました。大丈夫ですか?」
「ええ……。心臓がまだバクバクしています。あなたのおかげで助かりました」
「役に立てて良かった」
震えるカミラの手を握る。
「あ、勝手に握ってすみません。震えていたので」
「気にしないで下さい。嬉しいです」
賊の襲来で告白がうやむやなままになっていた。
気になって店の前で別れる時、思い切って聞いてみた。
「あの、日を改めて言うべきだと思うのですが、どうしても言いたくて........。あなたが心配だから余計に言いたいのです。僕とお付き合いしてもらえませんか?どうか、あなたを守らせてください」
賊を撃退した時よりも緊張した。
「アルフォンス様……。あなたはとても素敵な方です」
カミラはアルフォンスに手を伸ばすと、彼の顔を両手で包んだ。
「屈んでいただけますか?」
「はい」
不思議に思いながら屈むと、彼女のくちびるが近づいてくる。
まさか、と思った瞬間にはアルフォンスのくちびるに彼女のくちびるが重なっていた。
「……私も焦ってしまったようです」
くちびるを離したカミラが恥ずかしそうに微笑んでいた。
「いえ、とても素敵な…素敵なプレゼントです。僕からもしてもいいですか?」
アルフォンスが言うとカミラがうなずいた。
再び、くちびるが重なるとお互いを見つめて微笑んだ。
「明日……、明日も会えませんか?」
本当はこのままカミラの元にいたかったが、さすがに急ぎ過ぎだと思って明日のことを聞いた。
「ええ」
「では、明日に!」
………約束してその日は帰宅した。明日が来るのが楽しみだった。
だが、翌日、アルフォンスが店に来ると、店の様子が変わっていた。
「店が閉まっていて看板が無くなっている。カミラもいないようだ……」
店は荒らされた様子もなく、空き家になっていた。
アルフォンスは起きたことが理解できず、茫然とした。
「隣の店も無くなっている……」
ふと隣の建物を見ると、靴屋だったのにそれも無くなっていた。周囲で店を営んでいる者に聞いてみると、意外なことを聞いた。
「……あの店は突然、できたんですよ。カミラちゃんにどこから来たのか聞いてみたんだけど、あんまり言いたくないみたいで。ただ、隣の靴屋さんとは知り合いみたいだったから、見守っていたんだけど……」
あまり彼女について詳しく知る人物はいなかった。
「ウソだろう……」
分かったのは、たまに立派な馬車が店の前に停まっていたということだ。荷馬車ではなく、馬車だという。
「立派な馬車?カミラが突然、失踪したことと関係あるのか?彼女は攫われたのか?」
賊に襲われたのは偶然ではないのかもしれないと考えた。
アルフォンスは気が気でなくて、持ち得るツテを使って必死にカミラを探した。……だけど、彼女の情報は全く入ってこなかった。
カミラを思うと、酒の量も増えてあれほど大事な商売も手につかない。
………そんなある日、国を騒がせるニュースが報じられた。
「亡命してきた美しき王女だってさ。とてもキレイな方だね」
その日、カミラの姿を探し疲れて街のカフェで休憩していた。すると、隣のカップルの話が耳に入ってきた。2人は新聞を広げている。
「我が国のエッカルト王子もすっかり王女の虜になっているってさ」
「男って、美人に弱いわね」
「オレは君が一番だよ」
「そうでなくちゃ困るわ」
男が新聞をテーブルの端に追いやり、女性の手を握って2人の世界に入る。
新聞を見ると、王子とうわさの王女の姿が載っていた。
間違いかもしれないと思った。
上質な布地のドレスを着て、優雅に髪を結い、宝石を身につけているが、女性には見覚えがあった。
(信じられないが、カミラにそっくりだ......)
亡命してきた王女の名前はカミラではなく、ディートリンデという名だった。
(ディートリンデ王女と言えば、エルマー王国の王女だったはずだ)
エルマー王国はここから離れた場所にある国で、確か覇権争いでモメていたはずだ。
(まさか、カミラがディートリンデ王女だったというのか......!?)
でも、彼女は一人で生活をしている様子に見えた。隣の靴屋に扮した者が手助けしていたのかもしれないが、そんな姿の女性を誰が王女だと思うだろうか。
(彼女が気にした身分差とは、こちらのことだったのだ)
自分は伯爵家の嫡男であって、彼女は平民であると思っていた。だが、実際は彼女が王女でこちらは伯爵の息子だったのだ。
(そんな……。彼女を愛しているのに)
彼女を思い続けて半年、ようやく気持ちが通じたのにと、アルフォンスは胸が引き裂かれる思いだった。
(僕はどうすればいい?やっと、彼女のいる場所が分かったのに、このまま諦めるのか……?)
アルフォンスは考えた末、行動を起こした。
………数日後、父のゲルルフ伯爵について王城へと向かっていた。
「お前が政治に積極的に関わりたいと言うようになるとは。商売の方に夢中だと思っていたが」
「商会は部下に任せました。今の僕は、力が欲しいのです。商売だけでは得られない権力を持つためには政治の力が必要だ」
「ふむ。そうであって良かった。私もいずれは引退する。お前が野心的であれば安心だ」
ゲルルフ伯爵は政治の世界で権力を持つ人物だった。
王城に入ると、王と共にエッカルト王子が現れた。
会議の最中、王子は人の意見を聞いて、自ら意見も述べる優れた人物だった。
(なかなかやる人のようだ)
会議が終わると、王子が部屋を出て行く。行先が気になって目で追っていると、中庭に向かっていた。
中庭には………ディートリンデがいた。エッカルト王子が近づくと、笑顔で話している。
(カミラ……。もう、僕のことは忘れたのか?)
胸がしめつけられる。
「お前、ディートリンデ王女に興味があるのか?」
振り返ると、父がいた。
「知り合いに似ているのです。とても美しい知り合いに」
「お前が誰に興味を持ってもとやかく言わないが、あの王女が気に入ったなら、お前はもっとがんばらねばならん」
「わかってます」
アルフォンスは、必死に政治を勉強した。勉強は得意である。だが、政治は根回しや人と人とのつながりが関係してくるから大変だった。
…………何度目かの会議後、なんとなしに中庭にやって来た。
ディートリンデは中庭に姿を現すこともあればそうでない時もあった。姿があったとしても、いつも隣にはエッカルト王子がいて話しかけることはできない。遠くから見つめるだけだった。
(姿を見られたら……)
期待せずにやってくると、人影がない。ガッカリしてベンチに腰を降ろした。
すると、ふと視線を感じた。顔を上げてそちらを見ると目が合う。
こちらを驚いたような目で見る、ディートリンデだった。
「あ………!カミラ!」
思わず声に出した。
ディートリンデはどうしようかと迷っている様子だった。立ちすくんでいる。
すると、ディートリンデの後ろからエッカルト王子が姿を現した。
「今、気になる名前が聞こえた気がしたが」
王子が自分を見ると、側に来るように言う。すぐに側に寄ると、頭を垂れた。
「楽にしてくれ。今、彼女をなんと呼んだ?」
「………カミラと」
答えると、王子がディートリンデに問う。
「この者が、あなたが話していた者か?」
「………はい、そうですわ」
思わず頭を上げて、ディートリンデを見た。やはりカミラだった。目が合う。
「こちらを見てよいとは言っていない」
王子が言う。
「失礼いたしました。………ですが、とても知り合いに似てらっしゃいます」
王子は顔をしかめた。
「知り合いだと?……顔を上げろ。ディートリンデを助けていた者がいたと、彼女に聞いている。お前だったのだな」
アルフォンスはうなずいた。
「おそらく間違いありません」
ディートリンデを見ると、彼女は瞳を潤ませていた。
「......殿下とディートリンデ様は、人生を一緒に歩まれるのでしょうか?」
「なにを聞くのだ」
「殿下、私は彼には恩があります。私が答えますわ」
久しぶりに聞いた彼女の声がとても懐かしかった。
「私は亡命した身でありながら、こうして良くして頂いています。とても、殿下と人生を歩む立場ではありません。......それに、私は誰も危険にさらしたくないと思っています」
「危険………」
賊に襲われたのは彼女が王女だったからで、彼女が自分の元から姿を消したのは、彼女が自分に被害を及ばせないためだったのだと、はっきりと理解した。
「私は危険など気にしません」
「誰がお前に自由に話していいと言った?」
王子にピシャリと言われる。王子は明らかに彼女を気に入っていた。
「私は彼女を手元に置きたいと考えている。だが、彼女はその気がないと言う。理由の1つは、彼女の立場だ。これは理解できる。私はこの国の王子だから、メリットがない結婚は認められない」
王子が言うと、ディートリンデがうなずいている。彼女は追いやられてこの国に来ているから、彼女には力がない。
だが……と言うと、王子はディートリンデの手を取った。
「私の側に置くのは、なにも妃ではなくともいい。側妃にすればいいのだから」
ディートリンデが下を向く。
「ディートリンデ様はそれを望んでいらっしゃるのでしょうか?」
口から出ていた。どうしても聞かずにはいられなかった。
「お前が口を出すことではない。控えろ」
頭を下げる。悔しかった。
「もう1つの理由は、おそらくお前だ。忌々しいやつめ」
王子の言葉は強い言い方な割に、どこか穏やかさが混じっていた。
.........アルフォンスは、それから政治をさらに必死に勉強した。アカデミーにいた時よりも必死に。
会議でも発言が増え、それなりに認められるようになってきた。王の反応も良い。王子はニヤリとしていた。
ある日、王子に呼び出された。
「お前、なにを考えている?」
急に言われて、なんと答えるべきかと頭を巡らせた。この王子はこうして人を試すところがある。
「この国のために尽力しております」
「国に尽くすのは当たり前だ。お前は我が国の貴族なのだから」
「おっしゃられる通りです」
王子はまだ言うことがあるようで、背を向けて立っている。
「......お前、ディートリンデについてどう思っている?」
(どう、と言われて正直に答えるべきか……。下手をしたら、罪に問われるかもしれない)
「......大切な方です。国にとっても」
守りに入った言い方をした。
「国にとっても、なんて言い訳するな」
王子がこちらを向く。
「お前はディートリンデを想って、政治に関わるようになったのだろう?分かっているぞ」
「なんとお答えするべきなのでしょうか?」
「認めろ」
冷や汗が背中に伝わる。自分の答えで一族が危機にさらされるかもしれない。
「殿下のおっしゃられることならば間違いはありません。だから、そうです」
王子がハハハと笑った。
「こざかしいな。だが、お前はなかなか役に立つ男だ。私がいずれ王妃として迎える女性の候補を挙げてこい。細かく調査してな」
王子の言葉に、顔をハッとして上げた。
「それは………」
「私は用事がある。あとは2人で話し合え」
そう言って踵を返した王子だが、ふいに立ち止まるとボソリとつぶやくように言った。
「ディートリンデを手放すつもりはなかった。……大切にする自信が無ければさっさと去れ」
「……いえ、お言葉ですが、それはあり得ません」
王子の背が一瞬、ピクリと反応したように見えたが、王子はそのまま去って行った。
それを見届けるようにして、ディートリンデが姿を現した。
「アルフォンス……」
「カミラ……いや、ディートリンデ様」
2人は姿を消した後のことから長々と語り合った。
「今、こうして目の前にあなたがいる。夢みたいだ」
「私もよ。あの時は言えないことばかりだった。だけど、こうしてまたあなたが私の元にやって来てくれた」
「僕は、あなたを忘れた日など1日もありません。あなたは、どうだったのでしょうか?」
「私もあなたのことを忘れられませんでした。だから、こうして客人のまま、申し訳ないと思いながらも殿下のお世話になっていたのです」
王子は、ディートリンデの気持ちを優先してくれていたのだ。
「殿下は2人で話し合うように言われました。あなたが良ければ、私との未来を考えていただけませんか?」
「ええ。そうしましょう」
控えめに手を重ね合わせた。
………現在、アルフォンスは積極的に国の政策を打ち出し、全身全霊で王と王子を支えている。
「ただいま。今日はなにをしていた?」
「カタログを見ていたわ」
「カタログ?服を買うのか?」
「そうよ。ベビーウェアをね」
「え!?」
アルフォンスはディートリンデを抱きしめ、感激の涙を流したのだった。
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現在、『公爵令嬢の憧れは冴えない男爵令息様!!』を連載中です。とある公爵令嬢とややぽっちゃり男爵令息のチェリストとのお話です。音楽に興味がある方も無い方も読みやすい内容になっております。ぜひともお読み頂ければ幸いです(o_ _)o
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