脱出
「っ待て!!」
「ここにあるのは全て我が主君前田玄以の荷!其方らに止められる覚えは御座らん!!」
「城から人と物の出が禁じられている事御存知であろう!!」
「……何を騒がしい。如何した?」
「あっ!これは前田様!!」
前田玄以「ここにあるのは全て私が手配した。行き先は亀山城。倅から依頼された物である。別に中を改めていただいても問題は無いのだが……。この中には名物と言われた茶器もある。もしそれらに瑕を付けられてしまった場合……其方の食い扶持では到底弁済する事は出来ぬ。……それでも良ければ……。」
「いえ、結構であります。どうぞ出立して下さい。」
津軽信建「具足箱の中に重成を。でありますか?」
前田玄以「大き目の箱があって良かった。もしもの時も考えて重成を下の段に収める事が出来た。」
津軽信建「しかし良く通る事が出来ましたね。この緊急事態に城を出る事はほとんど不可能でありますのに。」
前田玄以「私にせよ三成にせよ。勿論増田に長束。そして浅野にせよ役目が役目である故、秘密裏にやりとりする必要がある。それ故、警護の者共を介さずに人と物の出し入れをする事が認められている。今回、それを利用する事も可能ではあった。しかし状況が状況である。もし見つかった場合、改めを避ける事は出来ない。例え私であったとしてもだ。ならば堂々と。それもきちんと許可を得た形であれば、誰も文句を言う事は出来ない。その権限を私は持っている。それを活用したまでの事。」
津軽信建「しかし良かったですね……。」
前田玄以「重成の事か?」
津軽信建「勿論それもありますが。もし改められ、重成が見つけられてしまった場合……。」
他の荷はぞんざいに扱われた事でありましょうね。
前田玄以「その時はその時だ。別に茶器なぞ他にもある。」
津軽信建「もしあの時、重成が発見されていたら前田様に危害が及ぶ恐れがあった中……御礼申し上げます。」
前田玄以「其方が重成の事を思っているように、私も重成の行く末を案じておる。同じ事は三成にも言える事なのだが、こればかりは私の力でどうこうする事は出来ぬ。今、私が三成に出来る最大限の支援がそれだった。それだけの事である。」
津軽信建「もし重成が見つかっていましたら……。」
前田玄以「そのために私が立ち会ったのだ。
『この悪戯坊主!何処に隠れておった!!』
と一芝居打つためにな。」
津軽信建「ありがとうございます。」
前田玄以「しかしまだ城を出ただけに過ぎぬ。私の本当の役目は、ここからかも知れぬ。」