大義
前田玄以「重成を引き取りたい!?」
津軽信建「はい。」
前田玄以「それをしてしまったら其方の家がどうなるのか……。」
津軽信建「存じ上げています。」
前田玄以「折角勝者の側に立っているのをみすみす失う事になり兼ねぬぞ。」
津軽信建「はい。しかしこのまま重成を見殺しにするわけにはいきません。」
前田玄以「故に恭順の意を表す他無いと……。」
津軽信建「それでは重成は死んでしまいます。私は重成は勿論の事でありますが、重成の才を惜しんでいるのであります。このまま僧籍に入ってしまいましたら、これを活かす場を失う事になってしまいます。それを私は容認する事は出来ません。」
前田玄以「私は豊臣の奉行。奉行の持つ権限が権限である故、個人の思いで動く事はせぬ。因って其方の考えに私は賛同する事は出来ない。」
津軽信建「……はい。」
前田玄以「しかし私にも血は通っている。重成の働きぶりは知っている。重成の父三成がこれまで私利私欲を排除し、豊臣のため。大名から民に至る全ての方々のためだけに働いて来た事も知っている。此度のいくさが徳川様の意向によって進められた事も重々承知している。誰に大義があるのかぐらいわかっている。
しかしいくさは徳川様が勝った。三成は敗れた。私は徳川様に勝つ事は出来ないし、三成を救う事も出来ない。これも重々承知してる。」
津軽信建「……はい。」
前田玄以「斯様な非力な私でも出来る事がある事を今、其方から教えられた。不利である事を承知の上で、徳川様に立ち向かった三成に私が出来る事を其方に教えられた。重成を助ける事。重成の才を活かす場を作る事にある。」
津軽信建「前田様……。」
前田玄以「ただ其方の家に迷惑が及ぶ恐れがあるのだが。」
津軽信建「覚悟の上であります。」
前田玄以「……わかった。重成を呼んで来い。」
「石田重成参りました。」
前田玄以「信建の話。聞いておるか?」
石田重成「私は父と最後まで戦い抜く覚悟に。」
前田玄以「ならぬ!!」
石田重成「しかし……。」
前田玄以「ならぬと言ったらならぬ。其方では家康に勝つ事は出来ぬ。現実を見よ。」
石田重成「……。」
前田玄以「今は自分が生きる事のみを考えよ。其方が生きれば家を残す事が出来る。その可能性が残されているのは其方しかおらぬ。それが現実だ。」
石田重成「……。」
前田玄以「納得出来ぬと思う。詳しいと思う。そして辛いと思う。しかしこれが現実だ。とにかく今は、自分が生き残る事だけを考えよ。逃げる事は決して恥ずべき事では無い。信長様も何度も逃げている。心配するな。」
石田重成「……わかりました。」
石田重成退室。
前田玄以「信建。」
津軽信建「はい。」
前田玄以「ここからの問題は……。」
石田重成をどうやって逃がすのか?




