不味い事になった……
金信則「私は始末が残っていますので、堀越に戻ります。ご要望御座いましたら何なりとお申し付けください。」
石田三成「ご配慮痛み入ります。」
金信則退室。
石田三成「……。」
石田重成「……父上。如何為されましたか?」
石田三成「……わからぬ。」
津山甚内「……殿。」
石田三成「……ん!すまぬ。考え事をしていた所だ。」
石田重成「金様が仰いました件でありますか?」
石田三成「うむ。私が板垣らに、
『津軽様の留守を狙え!』
と檄文を飛ばしたのは事実。尤も私は当時、何の力も無い元奉行。私の裁量で動かす事が出来たのは佐和山近辺に過ぎぬ。例え彼らが津軽の乗っ取りに成功し。徳川を倒す事が出来たとしても、彼らの希望を実現させる事は出来ぬ。それ故毛利様や宇喜多様。更には秀頼様の名前を用い書状を認めた。」
津山甚内「殿の名前は?」
石田三成「浅野を除く他の奉行に連なる形で記している。これは秀頼様からの書状を確認した事を意味するだけ。
『徳川家康の本来の役目である秀頼様をお守りする義務を放棄し、会津に向かった動きに同調した津軽為信に制裁を加えよ。』
と。しかし……。」
石田重成「しかし?」
石田三成「真田や上杉。そして佐竹に対しては、直接やり取りをしている。今後、これらが明るみに出た時……。」
津軽為信がどう出るかわからぬ。
石田三成「信建殿が大坂で活動をされている。毛利様の出方次第では、大坂がいくさの舞台となってしまう恐れがある。そうなってしまった場合、いくさはどうなるかわからぬ。大坂の城を力で落とす事は容易な事では無い。加えて大坂城には秀頼様がいらっしゃる。その城に福島らが刃を向ける事等出来ぬ。しかしまだそれなら良い。問題は……。」
徳川家康が大坂城を攻め落とした時。
石田三成「大坂城に残された信建殿を救うべく、為信様が私を使う恐れがある。私の生死がはっきりしない限り、家康は安心する事は出来ぬ。
『また事を起こすかも知れない。』
『数万にも及ぶ兵を動かすやも知れない。』
と……。」
津山甚内「殿を引き渡す事により、家康を安堵させることが出来る。家康に抵抗を試みている方々を諦めさせる事が出来る。でありますか?」
石田三成「うむ。……重成。」
石田重成「はい。」
石田三成「其方は問題無い。其方は信建殿の手配でここに来ている。為信様も了承されての事故心配致すな。」
石田重成「しかし……。」
石田三成「私はまだは敗将としての責を負ってはいない。ただ……今ここで自害はしない。理由は……。」
津軽に石田三成が居る事。その事自体が問題なのであるから。