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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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アムスタス迷宮#93 エム-18


「それで、今後の方針についてだがーー」

 久しぶりに全員が揃ったと言うことで、ノイスが今後の方針を策定しようとしていた。その場に合流したアルカは何か言おうとしていたが、話を遮るまでは至らなかったようで後ろの方に静かに合流していた。

「まず、イグム達が発見した地底湖についてだが、ウズナは何か知っているか?」

「えっと、恐らくは。まだ場所を聞いていないのでわたしの知る『地底湖』とイグムの班が見つけた『地底湖』が一致するかどうかは分かりませんが・・・・・・」

「そこでいい。先ずはウズナが知っていることについて話してもらう」

「分かりました。ではーー」

 そしてウズナが語り始めた内容はある種の理想郷のような話だった。

 危害を及ぼす生物がいない。野営に十分な広さが存在している。生えている植物や果実は毒もなく、瑞々しいものばかりだった。地底湖の水も澄んで冷たい水であり、そのまま飲んでも大丈夫なものだった。地底湖に住んでいた魚も様々な種類がいたが、どれも毒などなくそのまま食べても十分に美味しいものだった。

 ウズナの口ぶりは淡々としていたが、聞いているだけで理想郷か何かと勘違いするような内容だった。

 そこまで聞いたところでノイスが一度遮った。そしてイグムに話を振っていた。

「それで、イグム。お前達が見つけた地底湖はどうだ」

「おそらく同一地点だと思います。我々が発見した場所も同様の状況が観測できました」

「ふむ。だとすると十中八九どういつちてん。そうでなくても繋がっている可能性が高い、か」

 そう呟くと、ノイスはイグムとウズナに会議ののちその地点を地図に起こすように指示していた。

 続いての議題は最初の探索時に見つけた最深部についてだった。

「最深部までの道のりがはっきりしないことには今回の探索の目的は果たせない。その道についてはどうだ」

「地図があるから辿り着けない場所では無いと思います」

「あと、わたしなら場所を把握しているのですぐに案内できると思います」

 イグムとウズナの口ぶりにより、すぐにその方針は定まった。他にもいくつか話し合いが行われていたが、エムにとっては聞いてもどうにもならなそうだった。探索時ならば今までの経験と勘でどうにかなる部分もあるが、今回のように軍議のような形となるとエムは思うように自分の思考や状況の説明などの言語化が思うようにできない。また、一方でノイスやウズナ、イグム、アラコムにコウカといった人たちが話している内容は皇国の言葉にも関わらずエムにとってみれば呪文に等しいものだった。

 そのため、一応話を聞いてはいたもののエムは8割がた内容を理解できていなかった。だが、最後にノイスが定めた方針については理解できた。

 ーー最深部への道を確立させる。

 ここから生還するためには最深部にあるという紋様の調査が不可欠だった。そのために、紋様がある場所までの道のりに危険がないか、どういった道順ならば安全に通れるかなどを調べる必要があることは十分に理解できた。

「ーー。まぁ、場所がわかっていると言うならば、わざわざ人員を分散させる必要もあるまい。それに、洞窟内に危険な生物は痕跡を含め、いなかったのだろう?」

「はい。それに関しては今まで一度でも探索に出たことがある人は全員が首肯するかと」

「ならば、次の出発の際に拠点を地底湖に移す。皆準備しておくように」

「「「了解」」」

 その言葉で合議は終わった。

 移動する必要があるとのことで、エムも早速荷造りに取り掛かった。と言っても、大抵の荷物は皆各自で持ってしまうためエムが持つ量は、探索を始めてからの間で比較的持たない方ではあったが。

 そうして準備していると、アルカが何事かノイスに話している場面を見た。こちらからでは何を言っているのかわからず、またノイスの顔は見えなかったが、アルカの表情から、かなり深刻な内容のことを話しているのだろうことは容易に想像がついた。

 その内容が気にならなかったかといえば嘘になる。しかし、それ以上にアルカの表情から今聞き耳を立てる気にはならなかった。それほど、アルカの顔は隠しきれないほどの恐怖や怯懦の感情が窺えた。

 ある意味追い詰められている人に、これ以上追い詰めるようなことをしてはどうなるかわからない。だからこそ、エムは好奇心から聞き耳を立てたい衝動に駆られたものの、理性でそれを封印し、作業を続けた。

 あらかた荷物をまとめ終わり、二人の様子を伺うと、いまだに何か話していた。アルカの表情はまだ先ほどの色が色濃く残っていたが、一方でどこか胸の支えが降りたような感情が滲んでいた。

 そのままアルカは二、三ノイスと話していたが、要件が済んだようで一礼して離れていった。

 それにしても、今言うと言うことはかなり重要な話なのでしょう。例えば、先ほどアルカから感じたドス黒い嫌な気配や、アルカの心の中で見たもう一人のアルカなど可能性を考えれば枚挙にいとまがなかった。

 そう考えながら作業を続けようとしていると、アルカがこちらに歩いてくるのが見えた。会釈して作業に戻ろうとした。その時だった。

「・・・・・・エム。わたしが迷惑をかけた。あと、後でいつか、きちんと話す」

 そう言って彼女は離れていった。

 突然のことに少し呆気に取られた。その呆けている間にアルカはさっさとどこかへ歩き去ってしまった。エムにできたのはそれをただ見送ることだけだった。

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