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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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92/313

アムスタス迷宮#91 ノイス-14

 異様な気配から逃れるように、ノイスは飛び退いた。そのままじっと見守っていると、その異様な雰囲気が気になったのか皆恐る恐ると近づいてきた。だが、一定の距離を保つとそれ以上近づこうとはしなかった。

「・・・・・・ウズナ」

「はい」

「アレに説明はつくか」

「・・・・・・はい」

 ウズナは重々しく答えた。その口ぶりは明らかに何かを知っていたが、説明するのを憚られる。そう言った雰囲気を醸し出していた。

「アレほど濃密な呪詛は初めて見たな」

「というか、アレは人が耐えられるものなんですか? 呪詛を扱える人が少ないとはいえ以前見たものはもっと何というか・・・・・・朧みたいな感じだったと思いますが」

 近くでシロシルとアラコムがそう話し合っていた。そこで彼女らの話している内容に引っ掛かりを覚えた。『以前見た』? 即ち、彼女らはアレに類する現象を知っていると言うことだ。

「以前見たと言うのは?」

「見たと言っても実験の中での話だ。その実験ではマナを呪詛に変換して呪いをかけるというモノだったが、呪詛に変換されると何かが変わるんだろう。魔術師ならば何となく見える」

 だが、その時見たのは陽炎ぐらいの薄さだったがな。

 シロシルがぼやきながらそう付け加えた。

「けれど、いまアルカさんから吹き出している呪詛は朧や霞といったモノではなく、もはや実態を持つほどの濃さを持っています」

 さらに補足するようにアラコムが付け加えた。

「凄いな。もう姿が見えない」

「アルカさん、本当に生きているんでしょうか」

 二人はそう言いながらアルカの様子を見つめていた。一方でエムは何かウズナに囁いていた。それに対し、ウズナも何事か答えている様子が見えた。

「別にアレはウズナが何かしたわけでもないんだろ?」

「・・・・・・ええ、そこに関しては天地神明に誓ってもいいです」

「では、アレはなんだ」

「あれは・・・・・・。説明する前に隊長、隊長は亜r塚のことをどの程度知っていますか?」

 突然の問いかけに驚いたものの、ノイスはすぐに答えた。

「そうだな・・・・・・。傭兵上がりの狙撃手。入隊動機は勧誘されたため。自身のことに関してはほとんど語らないが、体格や当初の訛り具合から考えると東方の遊牧民族かその近縁の出身だと推測される。それぐらいか」

「そうですか・・・・・・。では、詳しくはアルカが話すべきだと思うのでわたしの口からはあまり語りませんが・・・・・・。あれは彼女の過去の出来事が原因の後遺症だそうです」

「どこでそれを知ったんだ?」

「治療の際に、彼女の内面を知りました」

 そう言いつつもウズナの眼はアルカの様子に注がれていた。

 次の瞬間、アルカがゆっくりと立ち上がった。

 彼女の顔は生気が抜け落ちたような表情で、眼は空だった。しかし、こちらの存在を認めた瞬間、眼に光が宿った。だが、その光は明らかに正気を保っているようには見えなかった。

「あれ、本当に大丈夫なんだろうな」

「わたしが話してみます」

 そう言うと、ウズナが慎重にアルカに近づいていった。さらにその後ろに続くようにアラコムとシロシルがついていった。

 ウズナが近づいてくるのを認めると、アルカはその場に立ち止まった。そして言葉を交わせる距離までウズナが接近すると、アルカは何事か語りかけ始めた。しかし、その声は離れている上に小さく、そのため何をいっているのかがわからなかった。

「ここからじゃ何言っているのかわかりませんね」

「そうだな。だが、意思疎通に関しては問題なさそうだ」

 視線の先では、ウズナとアルカが身振り手振りを交えながら交流していた。そこに時たまシロシルやアラコムが混ざっていたが、アルカはその纏っている雰囲気とは異なり至って平穏に接してきていた。

 そのうち話がついたのか、ウズナに促されてアルカが歩いてきた。その二人を先導するようにシロシルとアラコムが歩いてきていたが、二人ともチラチラとアルカの様子を確認しながら近づいてきていた。そしてノイスたちから10歩ほど離れた位置で止まると、アルカに対してそこで止まるように求めていた。

「それで、アルカは大丈夫だったのか?」

「いまウズナが対応していますが、徐々に正気を取り戻しつつあるようです。ですが、依然として呪詛が強いため、アルカさんはあれ以上近づけるわけにはいきませんでした」

「その『呪詛』が強いと何か問題があるのか?」

「呪詛は言葉の通り『呪い』だ。弱い呪詛でも対抗策なしに接すると、それだけで全身が蝕まれる。アレほど強力な呪詛ならば、貴方方のような『非魔術師』はそこから一歩でも近づけば命の保証はできないぞ」

 そうシロシルが脅した時だった。

「隊長! 無事ですか!」

 伺える様子から警戒すべきではあるがそこまで神経質にならずとも良いと判断したのだろう。イグムたちが洞窟内からちょうど戻ってくるところだった。


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