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アムスタス迷宮#7 ウズナ-3

「隊長、それにしても四阿から跳んだ先にこのような広大な草原が広がっているとは想像もしませんでしたね」

「ああ、調査隊の連中が帰って来れなかったって言うのもこれだと納得が行く。だが跳んだ先がまだ俺たちの生活環境に似ていて助かったな」

「ええ、仮に跳んだ先が火口の中とか湖の底なら即死でしたね」

 ウズナが四阿内部の魔力の流れおよび術式を可能な限り書き留めてから跳ぶと、先に跳んでいた人達が周囲を見渡して口々に感想を漏らしていた。ひとまず隊全体が揃わない事には方針の立てようがないとのことで一時待機となった。

 補給隊のいざこざを終え、後は学者たちが来るのを待つのみとなったところでウズナはノイスに呼び止められた。

「ウズナ。お前からみて外と中に魔術的な違いはあるか」

「隊長。あの四阿を除いてという話なら空間に含まれるマナの量が比べ物にならないほど大きいです」

「具体的には」

「見ていてください」

 そういうと、ウズナは地面に普段ならばありえないほど小さく簡略化した魔法陣を描いた。

「これは……?」

「実家の古い書物に書かれていた魔法陣です。言い伝えによると現在魔術師たちが使う火球の原型になった陣だそうです」

「俺も陣について詳しいわけじゃないが今の陣はもっと色々書き込むだろ」

「はい、その理由としてこれはあまりにも単純すぎるーー言い換えれば何故そうなるかの手がかりがつかめなかった陣です。私たちに馴染み深い剣術に置き換えていうならば、これは達人の絶技、入神の域と言われるものです。それに対し現在の陣はその技を模倣しようとしている農民のようなものと考えていただければ」

「そんなに隔絶した差があるのか」

「ただし、ここの空間魔力量なら強引にーー」

 そう言ってウズナは陣に手を翳した。それだけで彼女の手のひらの上に握り拳大の火球が作られた。それをみてウズナは内心衝撃を受けていた。

(出来るだろうとは予測していたけれど、精度と術発動までの時間がこんなに短いなんてーー)

 それはまるで神話や伝説に語られる魔術の一端のようであった。 

「この様に周囲の魔力を利用すればこのようなことも可能です」

 そう言ってウズナは火を消した。

「そうか。イガリフ、そっちはどうだ。ここら辺の土地に何か特徴は見られるか」

「ここら辺の植生は皇都近辺の高原に近いけど詳しいことはまだ何も」

「そうか。ってするとどうしたものか……」

 ノイスの様子から隊分けが決まらないのだろう。現状ウズナ達が持ちうる情報は何もかもが不足している事に加え、学者の側面を持つ魔術師団や錬金術師たちと異なり兵士たちでそこまで深く考えているものは少なく、さらに指揮系統がバラバラであるため一歩間違えればすぐに調査隊が瓦解する可能性すらあった。

 最終的にここから3エミツ(約16km)離れたところに見える小高い丘の上を野営地とする事に決め、ここから野営地を作る設営隊と学者や薬師などを中心とした調査隊とで部隊を分ける事になった。


 結局兵站隊長を任せられていた兵士は見当たらず、皇軍の兵士も指揮を取ることを拒否したため暫定的に兵站隊はウズナが指揮をとることになった。

「そっちも気をつけろよ。何があるかわからんぞ」

「隊長こそ気をつけてください。何があるかわからないのはそちらも同じです」

 ノイスと副隊長がそう言葉を交わしているのが聞こえた。そして調査隊を見送ったのち、設営隊も移動を始めた。

 設営隊には兵站隊の他騎士団の二割と兵の五割となかなかに大所帯であった。

(約3エミツ、成人間近とはいえ子どもがいることや荷物の重量を考えると3ルオ(約6時間)で着けば御の字かな)

 兵站隊の先頭を歩きながら到着予想時刻を算出しているとそこで疑問が生じた。

「……ついたところで日没までに設営する余裕はあると思いますか」

「多分あるだろ」

 出発までにだいぶ時間がかかったことを気にして隣を歩いていたイグムに声をかけると、彼は普段と変わらない気楽そうな雰囲気でそう断じた。それに驚いた様子を見せるとイグムは「だって」と続けた。

「まず、俺らが四阿に入ったのは昼前といってもいい時間だった。さらに全軍が揃ったのはそこから1ルオはかかっている。つまりとっくに昼過ぎだ。だけどこっちではどんどん影が短くなっていった。さらに、陽が上がる速さから言えばここの1日は俺たちの2.5日に相当している」

 だから間に合うだろうよ。尤もここの陽の動きが俺たちのところと一緒ならな。そうイグムは締め括った。

 

 時間が経つにつれ案の定兵站隊が間延びし始めた。また、設営隊の指揮をとっている隊長はこちらの様子を気にかける様子もなく兵站隊をおいて行くように隊列を進めていった。その結果、兵站隊が麓に全員到着した時には既に護衛するはずの軍や騎士団のほとんどは丘の上にいると言う状況となってしまった。頂上までは標高が目測で60〜70ラツ(108〜126m)ほどに見えるが、登り切るには半ルオほど掛かると見込まれた。

 最後を歩いていた少女を支えながら登り切ると、先についていた兵站隊から荷解きを始め、設営を始めていた。丘の上は思っていた以上に広く、遠くの方には山羊や牛らしき生き物がいるのが見えた。

「遅い。何をしていた、兵站隊長代理」

「そちらがこちらを顧みなかったのではないですか、設営隊長」

 ウズナは内心うんざりしながら設営隊長に向き直った。

「そもそも、どこの世界に護衛対象を放って先に行進する護衛がいるんですか」

「貴様らがついて来れていないだけだろう。そのような有様では物の役にもたたん」

「それは正当化する理由にはなっていないかと」

「そもそも、今回の兵站隊は奴隷だろう。奴隷ならば主人の命令に沿わせるようにさせろ」

 設営隊長は言いたいことだけ言うとさっさと監督しろと手で示し立ち去った。近くにいた少女の様子を伺うと、しっかりとした様子だったが、疲労のために足が震えていた。

(この子が抱えている荷物は……、医薬品の類ね。設営場所はここからだと遠いか)

「疲れてるところ悪いけれど、その荷物はあそこ、今ちょうど天幕や柱が置かれているあたりね。そこまで運んで。そうしたらそのあとは別命あるまで休んでいいから」

そう少女に伝えると、彼女はこくりと頷き重い足取りで荷物を運び始めた。手伝いたいのはやまやまであったが、すぐに次々と指揮を取る必要が出てきたためウズナはその背中を見送ることしかできなかった。

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