アムスタス迷宮#69 ウズナ-15/エム-13
「見苦しいものをお見せしました」
その後ウズナは日中の疲労もまだ残っていたのだろう。泣きつかれて、眠ってしまった。
目を覚ますと既に地平線の向こうが白み始めていた。身体に何かがひっついているような感覚がして隣を見ると、アラコムが寄り添う様にして眠っていた。腕はウズナの身体にしっかり回され、それはまるで『もう二度とウズナを1人にさせない』と言う意思を示している様だった。
そこから視線を反対側にずらすと、エムが寄り添う様にして眠っていた。彼女は特にウズナの身体に抱きつくと言った様な行動は示していなかったが、ウズナの隣が最も安心できるとでも言うかのように安らかな顔をして眠っていた。
2人を起こさないように慎重に抜け出し、身体を起こして周りを見渡すと、周囲に比較的皆まとまった状況で眠っていた。遠くの方には不寝番を務めていたのかアルカが1人で立っていた。
しかし、不寝番は最低でも2人一組では?
そう不審に感じて辺りを見渡すと、アルカがいたところとは別の方角にーーと言うよりも皆が寝ているところの近くで眠そうにしながら辺りを警戒しているイガリフたちを見つけた。おそらく彼らが正規の不寝番だろう。さらに辺りを見渡すと、丁度焚き火を弄っていたノイスと目が合った。
「やっと起きたか」
そう優しげに言われてウズナは昨晩のことを思い出した。皆の前で子供の様に泣くという醜態を晒していたことを思い出し、途端に今更ながら羞恥心が込み上げてきた。ノイスは何も言ってこないが、目の腫れぼったさや覚えている限りの記憶を省みても、昨晩は酷かったに違いない。そのため、真っ先に口をついて出た言葉はあいさつではなく昨晩の謝罪となってしまったのも致し方のないことだろう。と言うかそう思わなければウズナは今穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。
「いやはや、戻ってきてからずっと張り詰めた空気を漂わせていて、普段通りじゃなかったからな。こっちも何が原因でそうなっていたのか警戒しながら接していた分お前にとっても落ち着ける環境じゃなかっただろう。その点では悪かった」
「そう言われてしまうと・・・・・・・」
「ま、感謝はアラコムにすべきだな。あいつはずっとお前のことを信じていた」
「・・・・・・・はい。そうですね」
パチパチと木が爆ぜる音が辺りを満たした。背後の方では何人か身じろぎしている気配がする。もう間も無く皆起き出すだろう。だが、こんな落ち着いた時間を過ごせることが、今は何よりも嬉しかった。
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朝食を終えて、昨日の続きが始まった。
「それで、昨日暴走した原因は何だと考える?」
「おそらく、この部分は急所なのだと思います」
そう言ってウズナは自身の喉を指差していた。その部分を見ているうちにエムはあることに気がついた。
(昨日はよくわからなかったけれど・・・・・・・。そこの3枚だけ色が他と違う?)
ぱっと見は確かに他の鱗と変わらず、ただそこだけが僅かに盛り上がっている様にしか見えない。しかし、こうして明るいところでまじまじと見ると、鱗の色が微かに異なって見えた。
正面から見ると正三角形を描く様にして盛り上がっている鱗のうち、正面から見て右側に見える1枚は鱗の縁が微かに紅く色づいており、薄い青色から微かな赤までの色調の変化があった。一方で左側に見える鱗は薄い緑へと色が変化している様に見えた。また、1番下に見える鱗は縁に近づくにつれて色が抜けている様に見えた。
(そう言えば、昨日コウカさんが触っていたのは・・・・・・・)
彼女は右手を挙げて触れていた。よく見えなかったが、あのまま触りに行ったら真っ先に触れるのはおそらく赤い鱗だろう。ウズナの言う急所が赤い鱗ならば、他の鱗はどうなんだろう? そう思って眺めていると、ウズナがエムの視線に気がついた。
「あの、どうかしましたか?」
「え、えっと、その・・・・・・・」
自信はなかったが、ウズナは恐る恐るその考えを口にした。鱗によって色が異なること。もしかしたら、その3枚の鱗はそれぞれ違う役割があるのではないか?
そう頑張って話したものの、反応はあまり芳しいものではなかった。
「色、違いますか?」
「同じじゃないか?」
「光の反射具合でそう輝いて見えているだけだろ」
口々に否定されたが、ウズナやアラコム、シロシルはその考察に関心を示した。
ウズナが速やかに鏡を創り出し、自分の喉を確認していた。その際、瞳孔がスッと縦に細長くなり、エムはそのことに少し驚いた。しかし、それ以上に不思議だったのはウズナが目を細めた瞬間にウズナの眼がキラキラと光出したように見えた。そのことに驚いて顔を振り眼を擦って改めて見てみると、特に変化はなかった。
今のは錯覚だったのかな?
そう思っているうちにウズナが感嘆の息を漏らした。
「エムさん、凄いです。こんな微かな魔力の流れの違いに気がつくなんて・・・・・・・」
「やはり魔力の流れが異なることによる見え方の違いだったか」
「ここから出られたら皇都の魔術学校に入学させてもいいくらいの観察眼ね」
くちぐちにそうほめられてエムは気恥ずかしくなり、居心地悪そうに頰を掻くことしかできなかった。




