アムスタス迷宮#67 エム-12
エムは周りから離れたところに立っているウズナの様子をじっと見つめていた。
確かに、姿形どころか気配まであの時の騎士とは異なるものの、その奥から感じる雰囲気はあの騎士と同じだった。そのため、そこまでピリピリする必要はないのでは? と思っていた。
その時だった。
「君も彼女が気になるのかい?」
背後からそう声をかけられた。
振り返ると、アラコムとコウカがこちらに歩いてくるところだった。
「私たちは今から、彼女について外見状の特徴等を調べさせてもらうつもりです」
コウカがそう補足した。
「彼女の姿は確かに人のものからかけ離れています。どちらかといえば『蜥蜴』に近い。けれど、言葉は通じます。また、聞いた話では意識は元のままだと。ならば、今の姿を調べさせてもらうことで『蜥蜴』に対して立ち回る方法が分かるかもしれません。そう考えて私たちは今から彼女のもとに行きますが、ついてきますか?」
そう聞かれて、エムはこくりと頷いた。エムとしても、今の彼女は見ていて放っていてはおけないと感じていた。それこそ、放っておいたら本当に取り返しのつかない何かに変わってしまう様な気がしていた。
現在、ウズナに最も近いところにいるのはアルカだったが、彼女はいまだに特別な反応を示す様子もなかった。警戒しなくていいと言われたためか、構えは解いていたもののすぐに銃を構えられる状態は保っており、そのままウズナの方を感情のない眼で見つめていた。
そんなところに特に気配も隠そうとせずに3人で近づくとどうなるか。
すぐにウズナがこちらに顔を向け、こちらの姿を認めると少し意外そうな表情を浮かべた。そして何事か話しかけようとして、まだ距離があることに気がつくと口を閉じた。
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「こんな夜更けにどうしましたか?」
近づくと、彼女はそう話しかけてきた。
「なに、私たちは少し君について調べさせてもらえないかと思ってね。まあ彼女は違う様だが」
エムの方を眼で示しながらシロシルはそう答えた
「わたしは構いませんが・・・・・・。隊長は何と?」
「無論、ノイスから許可ももらっている」
「ならばわたしは構いません。わたし自身もわたしの身体について詳しく知っているわけではないので。よろしくお願いします、シロシルさん。それとそちらの方は・・・・・・?」
「初めまして。コウカと言います。新米の錬金術師ですがよろしくお願いします。それと・・・・・・」
「エムと言います。よろしくお願いします」
そう言って互いに紹介を済ませたのちシロシルとコウカはウズナの身体をペタペタ触ったり髪や爪、鱗といった部分を興味深そうに眺めたりしていた。時々くすぐったいらしく、ウズナが小さく吐息を漏らす以外は至って静かに調査は続いた。
それが変化したのはコウカが喉の一部分について調べている時だった。
「あの、ウズナさん。喉の・・・・・・・喉仏より少し下の方ですかね。そこに生えている鱗なんですが・・・・・・・」
「そこがどうかしましたか?」
「3枚だけ生えている向きが異なるんです」
そう言って、『ここです』と鏡を持ってウズナにその場所を示していた。エムも気になってその場所を見させてもらった。
確かに、喉にある鱗のうち3枚がそれぞれ重なり合う様にしてその部分だけ盛り上がっていた。その鱗からはそれぞれ何か異様な雰囲気を感じられた。その部分に関してはそれまで羽の方を調べていたシロシルも回り込んできてその場所を確認していた。
「ここだけ確かに三角錐状に盛り上がっているな」
「触ってみてもいいですか?」
「・・・・・・・はい、いいですよ」
そう許可をもらってコウカが鱗の一枚に触った瞬間だった。
一瞬で周囲から音が消えた。
気がつくとエムは頭を抱えて伏せていた。やけに地面が柔らかいと思っていると、コウカを体の下に敷いていた。
背後から敵意を感じ振り向くと、アルカが銃を構えてウズナを狙っていた。ウズナはというと、いつの間にか10ラツほど離れた場所にいて、全身を氷漬けにさせていた。彼女自身も何を起こしたのかがわかっていない様だった。
「どうした!?」
先ほどの異様な雰囲気を感じたのだろう。ノイスが油断なく剣を構えながらこちらに近づいてきていた。そこでこの様子を見たのだろう。ウズナに正対すると剣を構えた。
「あ、あの。待ってください」
いまだに震えている身体を引きずってノイスに縋りついた。
「何があった」
「ウズナさんは何もしていません」
「何もなければこの様な状況になるわけがないだろう」
確かにその通りだ。しかし、何が原因でそうなったのか。ウズナの方を見ると、彼女はやっと氷から抜け出し、両手をあげていた。
まだ身体の震えは止まらないが、先ほどよりは動ける様になった。その時やっとエムは先ほどウズナから強烈な殺気を浴びせられたのだと理解した。シロシルやコウカの様子を見てみると、2人とも気絶していた。呼吸を確認したところ、脈も止まっていたため慌ててそのことをノイスに伝え、その場は一時騒然となった。




