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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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アムスタス迷宮#57 ノイス-10

 その日から数日間の間は基本的に食料調達と警衛に立つ者以外は体内時計の回復及び体力の回復に努めた。その成果はここの時間で二、三日過ぎる頃には目に見えて改善されていた。

 それまでは日中でも常に気だるげにしていたり、あくびの絶えない姿が多く見られていた。また、怪我をした際にも回復があまり進んでいなかった。しかし、生活リズムを皇都にいた頃と揃え、昼間に睡眠時間を確保しなければならない時は厚手の布で作られた天幕の中に入り夜の環境に近づけるだけで、すぐに元通りとなった。

 また、食料確保や警備に関してもそれまで被害が絶えず、いつ壊滅してもおかしくないような状況だった。それが今では頭もきちんと回るようになり、体も十分に動くようになったことで目に見えて被害が減少した。

 一方で、アルカはなかなか回復しなかった。常につきっきりで世話を行えるのがエムだけと言うのもあり、エムが一番彼女の容体に詳しかったが、芳しくはなかった。コウカやシロシルを筆頭に医療班が手を尽くした結果、一時期生命の危機まで危ぶまれていたマナ不足についてはなんとか回復させることが出来ていた。しかし、彼女の自意識は戻らず、何も知らなければ精巧な人形と勘違いしてもおかしくはなかった。ただし、ある程度体に染み付いている動作は反射的に出来るようで、弓矢を持たせて飛んできた鳥を射るように指示したところ、以前のような精度で射撃を行っていた。しかし、指示されたことが終わるとまた脱力し、人形のような状況に戻ってしまっていた。

「……と、ここまでが本日までの隊全体の状況だ。それらを鑑みて、洞窟に向かうべきか否か、向かうならばどれほどの戦力で向かうべきか」

 そうノイスが定時報告の際に問いかけると、各班代表者は悩ましげな雰囲気を醸し出した。

「理想としては数を増やしたいが、遠い上に後方拠点となるここを守る人員を残しておく必要がある。さらに学者などの専門知識を有する人間も必要だが数を増やしすぎると機動性などに難が生まれる。どうしたものか」

「前回の探索時においては洞窟内に危険な生物は『蜥蜴人』を除き出現しなかったそうだ。ならば学者は含まずに魔術師を集中させるべきでは?」

「魔術師としては紋様の解析に注力したいところだ。人員を出したいのは山々だがあまりそういった余裕もない」

「前回の探索の際には『蜥蜴人』を振り切るのに錬金術が有効だったという話もあるが」

「話を聞く限りだと正確性と速度が求められる高速錬成が必要だが、それを何を対象にしても行える術者となるとなかなかいないです。精鋭中の精鋭を一気に失う可能性があるところに行かせるというのは……」

 会議はなかなかまとまる気配が見えなかった。しかし、全員考えていることは同じだった。いかにリスクを減らし、生存確率を上げるか。現状では自給自足はなんとか回っているものの、突入時と比較すると稼働できる人数は2割を下回っている。その状態で戦力が追加されるような見込みもなく、先細りが見えている状況だからこそ、迂闊な行動は取れなかった。

「特別任務部隊を全員動かすとしたら人数はどれくらいになりますか?」

「ここにいる全員と言う意味ならば13人。しかし、怪我人などを除外すると出せて8人か9人だろう」

「では、その人数を基準に考えてみたらどうですか?」

「次は特別任務部隊を全員動かすと?」

「ここの防衛に関しては軍や騎士団で間に合います。さらに洞窟内での戦闘となれば制約が大きく大量の戦力投射が行いづらい。ならば、特別任務部隊を全力投入し、それで護衛できる人数だけ魔術師や錬金術師を随行させれば良いのではないですか?」

 結局、それ以上に良い案は生まれず、その方向性で話はまとまった。


**************************


「まさか、アルカやネルまで連れて行くことになるとはな」

 出発の日の朝、そう呟きながらノイスは集団を眺めた。今回の探索に関して当初は怪我人は置いていく予定だった。しかし、怪我をしていたものに関しても全員が一応戦闘行動が可能な程度には回復したため、全員連れて行くことになった。だが、本調子とはいかず、慎重な運用が求められた。

 それ以外の人員に関しては錬金術師からはコウカを含めて3人が、魔術師からはシロシルとアラコムの2人が参加していた。また、前回同様に見張り兼荷運びとしてエムが加わっていた。

 出発して道中は何事もなく洞窟まで辿り着くことが出来た。しかし、いざ洞窟に突入しようとした時だった。

「待ってください」

 エムが警告を発した。その言葉に驚き歩を止めてエムの方を見ると、彼女は洞窟の入り口を一直線に見つめていた。また、アルカも同じ方向をじっと見つめていた。

「何かあるのか」

「『彼女』が、出てきます」

 そう言うのと時を前後して、洞窟の入り口あたりから言いようのない気配を感じた。戦闘準備を下令して洞窟の入り口に眼を戻した時だった。

 それは洞窟の奥からゆっくりと姿を見せた。

 全身を透き通る水色の鱗に覆われた長身の女性が現れた。髪は地面を撫でるほど長く、手足には鋭い爪があり、

側頭部付近からツノが生えていた。

 報告にあった通りの姿で、『蜥蜴人』が洞窟の入り口に現れた。

「うそ、でしょう……?」

 その姿を見てアラコムが驚愕した声を上げた。

「ウズナ、あなたなの……?」

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