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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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52/313

アムスタス迷宮#51 エム-10

「さて、間も無く夜を迎えるわけだが明日の方針にを固めたい。お前らは『洞窟の探索』を続行すべきと考えるか?」

 食事後、イグムがそうメンバーに問いかけていた。

「えっと、わたしは続けるべきだと考えます」

「私も同じくだ」

 その問いに対して即座にコウカとシロシルが賛同していた。他にも、シークは消極的賛成を示していた。

「一度やめるべきでは?」

「同じく。現有戦力で次『蜥蜴人』と相対した時同じように生き残れるとは限らない」

 一方で、ワーサとイオリフソは反対意見を示していた。

イグムはまとめ役という立場から意見を述べず、アルカは『決まった方針に従う』とでも言うかのうように少し離れた位置で洞窟の奥を見張っていた。現状ではやや続行派が有利に見られた。

「お前はどう考えている?」

 その議論の流れを眺めていると、突然エムに話題が振られた。エムはまさか奴隷である自分に意見が求められるとは考えていなかったため、少し慌てた。

「えっと、わたしも、探索を続けた方がいいと思います」

「理由は?」

「なんとなくなんですけど、あの人は私たちに会わないようにするんじゃないかって、そんな気がします。ただの勘ですみません」

 謝るエムの様子を気にせず、イグムは話を続けた。

「さて、これで賛成が多数派となったわけだがーー。アルカ、お前は?」

「……アレの気配は覚えた。遭遇しないようにできる」

「探索に関しては?」

「…………………、どちらかといえば続行。まだわたしたちは中の構造を知らなすぎる。けれど、今日見た限りでも範囲は多岐にわたっている。人手が足りなすぎる。ただし、わたしは命令に従うのみ」

「アルカの言う通りだが、仮にもしエムの言う『通り道』が洞窟の奥にあるのなら調べないわけにはいかないだろう」

 シロシルが肯定するように続けた。しかし、アルカの意見は根拠を持つ者の中で中道に近いため賛成派と反対派で議論が生じた。それらの意見を聞き、イグムは目を瞑っていた。そして目を開くと一言言った。

「続行する。ただし、警戒監視を厳に。不穏な気配を感じたら即撤退。気配の判断に関してはアルカに一任する。これでいいか」

「……警戒監視について意見。わたしが先導することになると思うけど、その場合は後方にエムを控えさせて襲撃に備えるべき。エムの警戒範囲もなかなかのもの」

 その意見に対し、アルカが修正を求めたが、概ねその方向性で固まった。

「よし、それでは各人明日に備えること。以上、解散」

 イグムがそう言って方針会議は終わりを迎えた。


*************************


 会議の後、エムはアルカに近寄って話しかけた。

「あの、アルカさん。大丈夫ですか? 食事もほとんど召し上がっていなかったようですけど……」

「……わたしはへいき。気にしないで」

「でも、その……。こんなことを言うと怒るかもしれませんが、アルカさん、今の雰囲気はなんと言うか……」

「……なに」

「……死にそうな気配が、あります」

「……なにを、根拠に」

 そう問いかける彼女の顔は、一見いつもと変わらないように見えた。気配も、少しピリピリしているように感じるが奇襲を警戒しているならばおかしなことでは無いだろう。そう思わせられた。しかし、その裏に秘められていた気配をエムは感じていた。

「だって、今のアルカさん、わたしの地元にいた頃働きすぎて倒れてしまった人に気配がそっくりなんです。しかも、倒れる直前の。なので、アルカさんが今にも倒れてしまうんじゃ無いかって心配で……」

「……そう。でも、わたしはヘイキ。戦う存在。だから、気にしなくていい」

 そう言うと、アルカは話すことなどないと言うかのように踵を返してエムから離れた。その背中をエムはただ見つめることしかできなかった。

「エム、今いいかい?」

 その背中を見送っていると、後ろからシロシルが話しかけてきた。

「どうかされましたか? シロシルさん」

「いや、今紋様はどのようになっているか気になってね。何せあの『氷柱』を受けて何かしら活性化していたようだし。何か不都合があったら困るだろう」

「わかりました」

 そう言うと、エムは以前シロシルに紋様を見せた時と同じように服を脱ごうと手をかけた。その手をシロシルが抑えた。

「……えっと」

「君は露出狂の気でもある……訳でもなさそうだな。だが、ここは人目が多い。無理に脱がなくてもいい」

「でも、それだと研究に支障が……」

「ん? ああ。しかし私は君の主人ではないし、君に命令する権限もない。さらに言えば、ここで奴隷という肩書きに何の意味がある? もし明日の調査で君しか生き残らなかった時、君は奴隷と言う立場だけで皆の後を追い自殺するのか?」

「……」

 その問いに、エムは応えなかった。迂闊なことを口走ればどのような目に合うかわからない。目の前のシロシルはそのような事は気にしない正確に見えるが、他の人が全員そうとは限らない。さらに奴隷という存在は経済奴隷であっても被差別の対象なる。言い換えればそれまでの人生がどのような者であったかにかかわらず、圧倒的弱者へと成り下がる。その生殺与奪は自分の手にない以上、迂闊な事は言えなかった。

「……まあいい。この問いは私も悪かった。しかし、覚えておいてくれ。君は自分自身を買い戻した後でも他人の顔色を伺い続けながら生きる気か? そのことを考えてくれ」

 そう言うと、シロシルは上着の裾を軽く捲る以上のことはせず、後は袖を肩まで捲り上げさせた他は見える範囲で観察を行っていた。その間、エムはシロシルから言われたことについて考えていた。

(わたしが自由になったらどう生きるか)

 幼い頃はずっと家族といられたらいいと考えていた。成長するにつれ現実を知り、小作人か奴隷となるのだろうと漠然と考えていた。そんな中でもしも、自分が思うように生きられるとしたら。わたしはどんな路を歩きたいのだろうーー?


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