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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編

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アムスタス迷宮#30 シロシル-4

「魔術に関しては、こう言う考えになる」

 そう言いながらシロシルは『錬金術』の絵の下に新たな絵を描いた。

「まず、この世に存在するものは全て『マナ』と呼ばれるものを持っている」

 シロシルは描き足された『水』や『具材』、『火』、『鍋』といったものにモヤの様なものを描きたした。

「ゆえに、この『マナ』を一度経由させればその場にないものの代わりを務めさせることができる。例えばこのスープについてだ。本来ならばこの様に色々な要素が必要になる」

 エムの顔を覗いて、彼女が話についてきていることを確認しながらシロシルは話を続けた。

「しかし、ここでうっかりしていて火を起こすのを忘れていた。しかも不幸な事に火を起こす道具が近くに無い」

 そう言って火の絵にバツを付けた。

「この様な場合に、先ほども言った通り『マナ』は全てのものに宿っている。水や風、空気、地面、食べ物、人間にすらも、だ。なのでここでは空気から『マナ』を取り出すことにしよう。『マナ』はそのままでは何の性質ーー特徴も持っていない。ただそこにあるだけの高エネルギー体ーーパンの様なものだと考えてくれ。パンは食べることもできれば魚を釣るときの餌にもなるし、細かく千切って畑に撒けば少しは肥料の足しになるだろう。ーーああ、そんな微妙な顔をしないでくれ。パンを肥料がわりに畑に巻くバカがいないことぐらいわたしもわかっている。この瞬間では他に適切な例えが思い浮かばなかったんだ。ーー話を続けよう。魔術的にみれば、この段階でこの『マナ』は『空気』であり、『炎』であると言える。先程の錬金術の話と同じさ」

 この説明は絶対後でコウカが文句を言ってくるに違いない。と言うか現に既にこちらを非難めいた目で見ている。流石に話の腰を折ろうとはしていないが、流石に自分でも、わかりやすく説明するためとはいえ、間違っていると言わざるを得ない様な説明は、していると頭を掻きむしりたくなる。そう考えながらシロシルは新たな絵を描き加えた。

「このように、『空気』=『マナ』、『炎』=『マナ』が成り立つと考えるため、魔術師は『空気』=『マナ』=『炎』と言うようにマナをいじっているのさ。大抵は自分のマナを使う方が、それは『マナ』=『炎』の形に手順を省けるからそうしているだけだ」

「えっと、なんとなくわかるような……、やっぱりわからないような……。すみません」

 そういってエムは謝ってきた。こちらとしても、もう少し上手な説明はできなかっただろうかと反省する。そもそも、錬金術にせよ魔術にせよ、その道を志すものは初等教育どころか高等教育の門を叩いている。だからバンバン数式も使えば『言葉の意味がわからなければ辞書をひけ』と言った丸投げもできる。しかし、ここにはそのどちらも無い。こういった要素が不審がられることの一因か。シロシルはその考えをまとめながら話を続けた。

「いや、本来ならば、君が学舎で10年いろいろなことを学んだ上で私たちの様な存在から学ぶ様な内容だ。こちらとしても至らなさに気がついた。それで、話を戻す。先ほど君は『錬金術で元に戻す事はできるのか』と聞いてきたな。それは『出来るものもあれば出来ないものもある』と言った方が正しい」

 そう言ってスープとは少し離れた場所に金属と卵の絵を描いた。

「これはそれぞれ『鉄』と『卵』だ。これらに熱を加えると『剣』と『卵料理』となる」

 それらの図の下に矢印を引きながらそれぞれ金属と目玉焼きの絵を描いた。

「『剣』は『金属』に戻すことが出来るが、『卵料理』は『卵』には戻らない」

「はい」

「これがなぜ全てのものに適用できないのかを考えているのが錬金術師だ。そしてそれは魔術にも言える」

 そういうと、シロシルは新たな矢印を付け加えた。

「さっきの話通りに言うならば、『剣』=『マナ』=『卵』の等式が成り立つ。しかし、エム、君は『今日の食事だ』と言って剣を渡されたらどうだ? あるいは騎士のお二方、『これで戦え』と言われて卵で敵を殺せるか?」

「えっと、ちょっと何言っているのかわからないって思います」

「それなら卵を食って素手で戦った方がマシだな」

「……相手の喉に詰まらせれば殺せる」

 一人物騒な答えが返ってきた。それについて深く考えない様にしながらシロシルは話を続けた。

「どちらも今できることに限界はある。その限界の範囲内で色々やっているのさ」


***********************


「それに対し、『魔法』は違う」

 そう言うとスープの図を手で示した。

「『魔法』は言うなれば、何も無いところに『ここにスープがあると言うことにしてしまおう』と言って、それを現実にしてしまう様なものだ」

「えっと……。何でも思う通りって事ですか?」

「ああ、それにこれだけじゃない。さっきの図に戻そう。料理人がスープを作ったところで客がこう言ったとしよう。『スープじゃなくて生魚が食いたい』と。料理人にはもちろん無理だ。魔術師や錬金術師も『スープ』を『原料』に戻すくらいは出来るかもしれない。しかし魔法は『そうですか、ではこうですね』と言ってスープをカルパッチョに変えることもできる」

「てぇことはなんだ。怪我を負った時にその瞬間に『治ったことにしてしまおう』って思って、本当に治してしまう様なもんか」

「いや? 『怪我なんて無かった事にしてしまおう』だと思うが。まあどちらにせよ大した違いじゃ無いだろう」

 エムの様子を伺うと、まだ図を見ながら首を傾げていた。どうやら、『錬金術』や『魔術』についてはなんとなくそう言うものだと認識した様だが、魔法についてはまだまだ認識が追いつかないらしい。

「とにかく、もういい時間だ。エムは戻って寝るといい」

「……あっ、はい。そうさせてもらいます。ありがとうございました」

「また気になったら聞くといい。こちらも可能な限り丁寧に説明できる様に努力しよう」

 そう言ってシロシルはアルカに連れられて行くエムを見送った。

「さて、アルカが戻ってきたらあなた方が聞きたい『本題』に入ろうか」


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