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アムスタス迷宮#2 クリム-1

 あと半日ほど馬車を走らせれば皇都に着く場所まで来た時、クリムは未だにエムをどの様に取り扱うか決めかねていた。普段ならば適当に途中の大きな街で顔馴染みの奴隷商人に引き渡すなり自身で買い手を見つけるなりするのだが、今回に関しては考えがまとまらずに皇都まで連れてきてしまった。開拓村の子供にはよく見られる大人びた雰囲気が年に見合わない長身と相まってそう思わせるのか、それとも少なくない受け答えの中で感じさせる知性の一端がそう思わせるのか。それとも・・・・・・・。

 そこまで考えた時、クリムは頭を振って余計な考えを追い出した。エムがいくら過去の自身の境遇に似ているからと言って同情を与える理由にはならない。第一、似た様な境遇の子供なら今まで大勢商品の一つとして取り扱ってきた。だから今更彼女を特別視する理由にはならない。

 クリムもかつては経済奴隷として売られ、売られた先の商家で自身も知らなかった鑑定の才が認められ、商人として身を立てる事に成功した。その経験から見れば、エムは今のままでも十分に売れるが、少し手間をかければさらに値段が化けるだろうと言うことだ。

 開拓村では食生活が悪かった事もあり、商品として買った際には痩せこけ泥に塗れ見窄らしい貧相な風体だったが、容貌に関してはまだ幼さが残りながらも切れ長の眼、すっと通った鼻など非常に整った顔立ちをしていた。また、上質な琥珀のように透き通った瞳に南国の夜空を思わせる青みがかった黒髪はこの国では珍しく、整った顔立ちと相まって人目を引くと思われた。さらにこの三ヶ月の間しっかり食事を摂らせたことで痩身ながらも均整のとれた風体となり、何も言わなければ14、5歳でも通用すると思われた。

 これだけでも、皇都で売るならば金貨50枚は降らないと考えられた。これは小さな町で慎ましく暮らすなら生涯働かなくてもいいほどの大金であり、皇都における平民の平均的な月収が金貨一枚に満たないことから考えても破格の値だと言える。

 しかし、彼女はそれだけでなく(生活上迫られて覚えたのかもしれないが)途中立ち寄った町で商品を仕入れる際に毒草と野草、薬草の区別をクリムよりも早くつけたり、野犬や熊などの野生動物をいち早く察知したりする能力に長けていた。また、立ち居振る舞いもしっかりしたものがあり、礼儀作法を仕込めば貴族を相手に取引する事ができそうだとさえ感じられた。

 それだけに、少し前に立ち寄った街で聞いた話が気になった。

 曰く、約三月前に皇都の中心の広場に不可解な四阿が一晩で立ったが、不思議なことに中の様子がわからない。

 曰く、皇帝の命により皇都警羅隊一個小隊が調査のため立ち入ったが全員姿が掻き消え、誰も見つかっていない。

 一月ほど前、皇都守備隊を中核とした50名規模の調査隊が送り込まれたが、誰も帰ってきていない。

 皇帝はなんとしても中の状況を探るために人手を欲しているらしいーーと。

 そこから考えるに、今の皇都は不安定であるが、そこ以外でエムを取引できそうな場所はよほど大きな町でなければない。また、クリム自身が皇都以北を主に活動拠点としていたため、他の街に伝手が少ない。そして、エム以外の商品ーーヒト、物問わずーーに関しても捌く必要がある。そのため、クリムとしては気が進まないながらも皇都へ歩みを進めるほかなかった。

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