アムスタス迷宮#27 エム-6
「何があった」
その異様な雰囲気を感じたのか、シロシルさんが近づいて微動だにしない男性を診察した。そして、共に帰ってきた人たちが抱えていた負傷さも同様に観察し始めた。
「俺たちも何が何やら……。ただ、昨日何処かの班が捕まえたうずらだと思う。そいつが鳴いたら動かなくなったんだ」
「取り敢えず私が預かる。君たちは手伝え」
その場を眺めていたエム、いまだに彼に縋り付いて声をかけているコウカに声をかけた。
彼らをシロシルに指示された場所まで運ぶと、彼女は躊躇いも見せずに彼等の上衣を剥ぎ取った。そして何事か呟きながら何か記された紙を取り出し、彼らにペタペタと貼り始めた。
「あの、何か手伝える事はありますか?」
「なら魔術師ーーいや、アラコムに信頼できる腕前のやつを4人連れてくるように伝えてくれ」
不安そうな顔で尋ねたコウカにシロシルはそう指示を飛ばしていた。その様子を眺めていると、シロシルはこちらを向いた。
「君は文字書けるか」
「すこしなら、書けます。」
「具体的に」
「数字と、作物の名前がいくつか、です」
「……話にならないな」
そう言うと、一瞬シロシルは考え込み、「では解体されていない『鳥』があるはずだから持ってきてくれ」と言ってきた。そんなものがあるのだろうか。エムはそう思いながらシロシルが指示した場所へ向かうと、確かに何羽か解体されていない鳥があった。どれも見たことがないほど大きく、どれがシロシルの求めている鳥かエムには判らなかった。
「……全部、持っていこう」
そう考え、エムは解体されていない鳥を一羽ずつ抱えて運び始めた。
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「君たちの言う『鳥』はこの中にいるか」
「ああ、こいつだ。模様や大きさがそっくりだな」
エムが何度目かの往復を果たした時、エムの手元を見て彼らはそういった。それを確認すると、シロシルはエムの手元からその鳥をひったくった。
「コウカ、アラコム、手を貸せ。エムは湯と可能な限り清潔な布、刃物の用意。今すぐ!」
そう言うと、シロシルは外部から『鳥』の喉や内臓を探り始めた。その様子が気になったが、エムは言われた通りに準備を始めた。
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「脳天を一撃で射抜いているから喉から下の構造がわかりやすいな」
「けど、発声器官の形状から推測される鳴き声が与える影響ならば学者の方が詳しいのでは?」
「いえ、彼らの症状はただ鳴き声を聞いただけには思えません」
「ああ、鳴いただけでマナが止まるものか」
言われたものを急いで用意して戻ると、彼女らは口々に意見を交わしながら鳥を観察していた。
「持ってきました」
「……それ、変な臓器がある。学者がそう言ってた」
荷物運びを手伝ってもらっていたアルカが、『鳥』を見た瞬間にそういった。
「なにっ? 場所はわかるか?」
「……喉から肺や胃に分かれる所の肺より」
その言葉を聞くと、シロシルは熟練の職人のような手つきで流れるように鳥を解体し始めた。そして当該と思われる臓器を取り出すと、また何やらぶつぶつ言いながら紙を貼り付け始めた。その作業を終えると、今度は別のところから黄緑色の何かを取り出すと、その臓器に当てた。
「それは何の意味があるんですか?」
「何か魔術的な儀式?」
それらの質問には答えず、シロシルはじっとそれを見ていた。すると、エムの見ている前でその何かの色が徐々に変わり始めた。
「これは、赤みがかった橙……。いや、橙に近い赤、か?」
シロシルは呟きながら手元の紙に何事か書き込んだ。そして、治療している人たちの方を向くと、「そっちはどうだ」と尋ねた。
「どうもこうも、この男はマナが止まってる。それしかわからん」
「ああ、呪詛の類なら俺たちの知らない魔術だな」
「それ以外のやつは……、こいつ以外は死んでる。いや、『マナが存在していない』」
「やはりそうか」
そう言うと、シロシルはコウカに向き直った。
「君が縋りついていた彼についてだが、錬金術師としての見解は君も錬金術師だからいらないだろう。故に、魔術師としての見解を述べると、彼は『マナが固定されている』が故に動かない。いいか。動けないんじゃない、動かないんだ」




