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迷宮探索黎明期  作者: 南風月 庚
アムスタス迷宮編
21/233

アムスタス迷宮#20 コウカ-1

 昼食に関しては一悶着あったものの、昼過ぎにとりあえずの方針をまとめる話し合いが行われた。昼までにここに辿り着いた人のうち、兵士や騎士は約6割程で、あとは学者や魔術師、錬金術師たちとなる。そして、兵站隊として雇われていた奴隷の姿はほとんどなく、わずかに17、8名ほどだった。この時点でここにいる全体の人数は四阿に入った時の4割以下となる。これはまだ戻ってきていない探索隊もあるため、実際はまだ増えるかもしれないが。

 その話し合いを遠くで眺めながら、新米錬金術師のコウカは医者の真似事をしていた。話し合いの様子は兄弟子が聞いているはずなのでそちらに任せ、薬の作成を手伝ったり手当てをしたりしていた。少し離れた場所では魔術師の1人が治癒術式を持ち込んでいたらしく、重傷者の手当てに当たっていた。

「ふぅ……。やっと一息つける」

 手当の甲斐もあり、だいぶ落ち着いてきたため、コウカは魔術師の手伝いに赴いた。彼女が手当てをしている患者は見るからに重傷だった。手当のために包帯が外されていたが、その包帯は少女の血で真っ赤に染まり、手足だけでなく胴体にも酷い傷跡があった。

「よく、こんな大怪我で耐えていますね」

「そうね……」

 そう言いながら術にかなり集中しているように見えた。たしかにコウカが知る限り、治癒魔術というのはせいぜい深い切り傷を浅くしたり、打撲のあとが残り辛くなるような程度しかなく、重症者を治療できている点で驚嘆に値するものだった。

「っとーー。ひとまずこれで骨折もつながったし傷口も塞がったはず。マナも多少分け与えたからあとは彼女次第かな。それにしても、ここの空間マナ量には助けられました」

 そう言って魔術師が一息ついていた。

「お疲れ様です」

 そう言って白湯を差し出すと、彼女はゆっくり口をつけた。

「それにしてもすごい腕前ですね。魔術でこんなことが出来るとは。あ、申し遅れました。自分はコウカと言います」

「ありがとう。わたしはアラコム。一応今回の調査隊の魔術師達の副隊長をしています。こちらこそよろしくお願いします」

 アラコムとはすぐに打ち解けることができた。話し合いの様子を伺うと、おおよそ議論は終結に向かっているようだった。

「では、そろそろあちらに向かいましょうか」

「そうですね。ですが負傷者の世話は……」

「私がみておきますよ。幸い、あなた方魔術師や錬金術師のおかげで負傷者も峠を越えたようです」

 そう言われ、2人は負傷者の世話を薬師に任せてたちあがった。

 

***********************


「来たか」

 近づくと、兄弟子のギムトハが気づき声をかけてきた。

「結果はどうなりましたか?」

「全体で1個小隊規模の人数を丘の上まで派遣。荷物の回収及び調査を済ませたら下山。別に2個小隊規模の人数を昨日探索隊の一つが見つけた湖まで派遣して水の確保。それ以外の人員は麓で待機しつつまだ合流していないものたちの合流を待つ、だと」

 ギムトハがすぐに答えた。

「そんなに人数を絞る理由はどうしてですか?」

「山頂は再び襲われないとも限らないが、これ以上目標無く部隊を分散させると集合できずに行方不明者の数が増える。昨日設営隊を襲った化物は逃げたやつは追わなかったらしい。だからこそ少人数で機動力を重視して調査する、と」

「じゃあ、ワタシは麓で待機ですか?」

「いや、山頂組に推薦しておいた」

 兄弟子の発言に吹き出した。

「何故自分をっ!?」

「ここにいる錬金術師の中で体力が比較的あって好奇心旺盛な割に危険に対して鼻がきくからに決まってるだろ」

「で、でも、1番若輩者ですし……」

 そうしり込みしているとギムトハが続けた。

「あのなぁ、お前はもう独り立ちの許可を師匠からもらってる上に、皇国の認定試験も合格してるじゃねえか。あれ、師匠の下だと分からねえかも知れねえが合格者は平均で5人もないとか言われてる試験だからな」

「でも、それはギムトハさんも同じーー」

「それに、昨日の探索の時、お前は誰も見向きもしなかったような石ころまで拾ってたけど、解析したら誰も知らない鉱石だってわかったじゃねえか」

 だから推薦したんだ。それに、魔術師とも仲良くなってるみたいだしな。

 ギムトハはそう付け加えた。

 確かに、錬金術師と魔術師は組織的に仲がいいとはいえない。その理由として最大のものは錬金術師は“この世にある、目に見えるもの”を利用するのに対し、魔術師は『マナ』とか『魔力』とか呼称する“目に見えないモノ”を利用しているからに他ならない。

「わかりました。ですが、その間ギムトハさんは何をしてるんですか? 体力はワタシよりありますよね」

「周辺の草を解析して薬の作成に挑戦するか、水汲みのどちらかだろうな。因みに、時間にもよるが早ければ夕方、遅くても明日の朝には一度入ってきた場所に戻るそうだ」

 確かに、この人数で物資もほとんどない今、水の確保は急務と言える。

「じゃ、頑張れよ」

 そう言われてコウカは送り出された。

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