序文・今日の迷宮探索に至るまで
なんとなく思い浮かんだ世界観を形にしてみようと思った次第です。長い目でお付き合い頂けると幸いです。
迷宮ーー。それはある時突然この世界に現れ、それ以降様々な場所に生まれてその数を増やしてきたと言われている。迷宮内は平原や森林、海、空など多種多様な環境にあふれており、その規模も千差万別である。小さなものは少し大きめの村程度の規模であるのに対し、大きなものになると小国がすっぽり入ってしまうような規模の空間が幾重にも存在し、それらは特定の階段や門、陣などで繋がっているものもある。一説によれば、現在確認されてる中で最大の迷宮では200以上の空間がつながっていると言われている。
また、迷宮自体も時間経過とともに内部の空間は拡大し、以前の探索で隅々まで調査したとしても次もそこで終わりとは限らない。特に、この世に初めて出現したとされる五大迷宮は未だ拡大を続け、複数の空間と多数の階層により詳細がわからない箇所は確認できるだけで数百を超えるという。そして時に迷宮は周囲の地形を飲み込むと言われており、近隣の街や村が一晩で消えた、似た様な町跡や集落跡と思われる土地を迷宮内部で見たという伝承も残されている。このような伝承は各地に残されている。そのため、その様な伝承の中では迷宮はある種の厄災や神々の試練、魔の悪戯などとして描かれていることが多い。
当初迷宮がこの世に現れた時、現れた国の対応はそれぞれ異なっていた。出現により村が一つ消えたことから周囲一帯を封鎖し立ち入りを禁止したり、不審なものとして入り口を封鎖したりとさまざまであった。現代でも語られるイサスム王国の悲劇は、国王が静観した結果迷宮から魔物が溢れ、周囲の村や街を飲み込んだ結果制圧できた頃には地図から県が消えたと言われているほどである。また、入り口の破壊を試みた人々は、破壊しようとした瞬間に姿が消えてしまったという。
一方で、果敢にも内部へ調査隊を派遣した国もあった。アムスタス皇国がその筆頭であった。アムスタス皇国も初めのうちは少数精鋭で調査隊を送り込んだものの、一カ月が経過しようとも誰一人として帰ってこなかった。
そのため、さらに準備を整えて人数を増やし送り込んだが、誰一人として帰って来ることはなかった。しかし、ある時調査隊の一部が帰還に成功したことで内部の様子が判明した。その結果、迷宮内には大きな危険が存在するが、それ以上に資源や未知のモノに溢れていることが判明した。
それ以降、各国はこぞって迷宮探索に乗り出し、時には多大な犠牲を払いながら、時には危険を持ち帰りながらも探索を進めて行った。
その結果、得られた資源や迷宮内の魔術理論の解析などから急速に武器や魔術が発展し、安全性が向上さらに連れさらに大きな成果を持ち帰るようになった。また、今日においては隣人の一つとして受け入れられている亜人も、元を正せば迷宮内から来たという。
現在においては迷宮内の探索を専門に行う職業である探索者は当たり前のものとなっている。内部の様子も判明するにつれて罠の解析や魔獣の生態についても調査が進められ、今では余程身の丈に合わない階層を探索したり、転移先が龍の眼前といったようなどうしようもないほどの不幸が起きたりしない限りは安全に探索を行う術が確立されている。
しかし、今回記して行くのは現在の迷宮探索の様子ではなく迷宮が出現した初期、いわゆる黎明期と言われる時代のことである。
様々な冒険譚や探索にまつわる手記などを読まれた各人に取っては当時の人々の行動や決心は愚かしく、またまどろっこしく感じる部分も多々あると思われる。しかし、これは紛れもなく当時未知の領域に文字通り生命を賭けて挑んだ人々の物語である。彼等彼女等がいたことで、情報を持ち帰って来たことで今日の探索者があることを心に留めて頂きたい。その上で何かが読者諸氏に響くものが有ればこの話を纏めた甲斐があると思う。
ーー序文に変えて
編者 ウオトゥネヘ