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 第七章 同窓会

 翌土曜日だ。ぼくは同窓会会場の中華料理店に足をはこんだ。レナの忠告にしたがったわけじゃなく陽子に勝手に話を進められてことわり切れなかっただけだった。

 ぼくはとにかく陽子に弱い。理屈を超越した泣きを突きつけられると頭がまっ白になってどうしていいのかわからなくなる。

 ぼくが女の子をエレベーター嬢に見るのは陽子のせいかもしれない。女はみんな理屈じゃなく感情のみで生きている対処しにくい生き物だと感じているんじゃ? さわらぬ陽子に祟りはない。寄って来る女の子は祟りがこわくてさわれない?

 同窓会幹事の森崎今日子は面倒見がいい学級委員長だった。小学生当時はノッポでふりわけおさげのいわゆるツインテールにしていた。赤いメガネの似合う女の子だと記憶にある。

 けど小学校卒業以後はまったく顔を合わせてない。公立小学校の同級生だから家も近いはずなのにぼくは中学高校大学とよそに行っていたせいで近所の友だちと交遊がない。就職後も自宅通勤じゃなく社員寮だし。

 森崎があいかわらずの赤いメガネのまま声をかけて来た。中華料理店の前で待ちかまえて十年以上も会わなかったぼくにひと目で。ぼくってそんなに変わってないのか。

「キャー岡野くん。ひさしぶりねえ。さあ行きましょうか」

 森崎がぼくの腕をがっちりつかまえて罪人を連行するみたいに店の中へ連れこむ。女の子を酔わせてラブホテルに引きずりこむナンパ師のようだ。

「ねえ森崎さん。逃げやしないからはなしてよ。はずかしいじゃない」

「あたしだってこんなまねはしたくないわよ。犯罪者を逮捕した刑事みたいだもの。でもあなた前科持ちだから」

 森崎が疑わしげにぼくを見た。

「前科あ? なにそれ?」

「えっ? おぼえてないの? うーむ。そういや岡野って昔っから忘れっぽかった気がするな。四年生の夏休みの宿題よ。あの夏。社会科の宿題で町内の史跡を調べるグループ研究があったよね? で。あたしたち六人。あなた・川口くん・アキラ・向井さん・目片さん・あたしの計六人で近くのご隠居さんのうちへ行った件があったよね?」

 森崎がつめ寄った。その迫力にぼくはハッとした。

「そ。そういえば」

「どうにか思い出せたなこいつ。あんた。あたしがあいさつをしてるあいだにいつの間にか逃げちゃったでしょう? 玄関先までついて来ながら。あたしあのとき六人ですって申告しておばあさんがジュースを六人ぶんをはこんでくれた場面をいまでもときどき夢に見るのよ。『森崎今日子が委員長なのをいいことにジュースをふたりぶん飲みたがって人数をサバ読んだ』そんな視線にさらされたあのはずかしさ。あたしってさ。お金持ちのお嬢さまだからそんないじましいふるまいにおよんだ経験はないわけよ。生涯で初めてだわ。どうだ岡野。これでもまだシラを切るか!」

「ご。ごめん委員長」

 すっかり思い出した。いきなり心細くなって逃げたんだっけ。ぼくって対人関係が苦手だから。

「クス。『ごめん委員長』か。あんたたち男子は悪さをしたときいつもそう手を合わせたわね。あたしに肩代わりばかりさせて職員室に行くのはあたしひとりだったわ。先生が当事者を呼んで来いって要求してもあたしだけだった。でね。あたしもひとつあなたに借りがあるの。あなたがおぼえてるかは知らないけど取りあえずあやまっとくわね。ごめんなさい」

 森崎が頭をさげた。けどぼくには心あたりがない。

「なんの話?」

「六年生の五月くらいかな? あのトイレ水びたし事件」

「ああ。あれ」

「そう。あれ。学校中を水びたしにしたあの大騒ぎの犯人をよく調べもしないであなただって報告しちゃったでしょ。あれさ。あとで聞いたらアキラが犯人じゃない。やっぱあんなろくでなしな所行は悪ガキのアキラだよねえ。あたしいつかあやまろうって思ってたの。ほんとにごめんね」

 森崎がまた深々と頭をさげた。

「いいよ。あやまらなくても。あのときさ。ぼくはほとんどおこられなかったもの」

「ええっ? そんなのあり? あんな大事件で?」

「うん。ぼくはそもそも犯人じゃないし無関係なわけよ。最初に先生たちは怒濤のごとくぼくをしかったんだ。けどぼくは先生たちがなんでおこってるのかすら見当がつかなくてさ。ただぼうぜんとするだけだったんだ。先生たち全員が『なにが起きたの?』状態のぼくを見て反省して涙ぐんでるってかんちがいしたみたいだよ。無実感のままずっと口をはさめなかったら猛省してるっていつしか決めつけられてた。ひと言も口をきけないほど罪悪感にさいなまれてる。だからこのくらいでゆるしてやろうってさ」

「そうなんだ」

「うん。学校に呼びつけられた両親が帰宅後ぼくを問いつめてさ。ぼくの説明を聞いて大笑いしたよ。ぼくはそのときやっと学校中を水びたしにした犯人にされたって知ったんだ。しかられた事実やえん罪より『お兄ちゃんトロすぎ』って陽子に笑われたほうがこたえたなあ」

 やっぱりぼくって自分と関係なくしかられる星の下に生まれたみたい。家や会社だけじゃなく学校でもだったんだ。

「なるほどねえ。よかった。あれは学校中をまきこんだ大騒ぎだったからあなたがひどくせめられたと思ってた。そのあとは誰もあの事件を口にしないしさ。同窓会をするようになってアキラが犯人だって知ってあたしずっと悩んでたんだ。でももういいね。あの四年生の夏休みの宿題。提出するときにあなたの名前も書いてあげたもの。ねっ?」

 そうそうとぼくは思い出した。森崎って責任感の強い女の子だったなと。

 森崎はその責任感と実用主義で一年生から六年生までぼくらの委員長をつとめた。ぼくらの小学校は高級住宅街と下町が学区の半々を占めていた。お金持ちの家は子どもを私立校へ通わせる競争を激化させていた。

 そのせいで公立に入学する児童数がすくなくてぼくらの年は一クラスしかできなかった。森崎の家は高級住宅地に建つ大邸宅だけど森崎ひとりが例外でぼくらの公立に来ていた。小学校しか天才と凡人が机をならべないという親の見解のせいで。

 いまから考えると貧乏人とバカをよく見ておけとの親心だろう。お金持ちは小学生のときしかその手の被差別民に接する機会がないから。

 ちなみにぼくらが卒業したあと下町に団地群が建って一学年が七クラスに増量された。当社比七倍だ。陽子はその七クラスすべてを支配下に置いたわが小学校初の覇王でぼくの作文の題名があやまりだったとはからずも立証した。『わが家の信長』ではなく『どこでも信長』が正解だったらしい。

 ぼくに作文を廃棄しろと忠告してくれた女先生が陽子の担任になって間もなく呼び出した母に『おたくの信長が』とやったそうだ。母はぼくの作文を読まなかったから『はあ?』と首をかしげたって。

 女先生はぼくの担任当時ぼくが妹像をわざと悪意あふれる描写にゆがめたとふんで忠告をしたらしい。同級生受けを狙った悪ふざけだと。

 つまり『書かなかったことにしろ』とは陽子の復讐からぼくを守るためじゃなく教育的配慮だったそうだ。陽子の実像に接した先生が母にぼくへの伝言を託した。『ごめんなさい。先生がまちがってました。あなたの作文は隅から隅まで事実のみしか書かれてませんでした』と。

 いまさらだった。ただぼくはそれを聞いて大人の考えを理解した。子どもをまったく信用しないのが大人らしさなんだと。

 子どもを信用すると大人にはなれないようだ。ぼくが小学校の先生になればきっと子どもの言いぶんをすべて鵜呑みにする悪い先生になってすぐクビだろう。

 そののち誰も陽子の偉業にならんだガキ大将はいないと聞いているから戦国の信長と同じくわが家の信長も不世出の偉人だと思う。陽子を織田信長になぞらえたぼくの着想自体は正しかったらしい。

 ぼくはすこしずつ自分が小学生時代にもどるのを感じた。幼かった日に彼らと飛びはねていた日々がよみがえった。ぼくの青春ってこんなところにしかなかったのかとがくぜんとしながら。

 ぼくがなつかしさに胸をあたためていると北島アキラが店の奥から顔をのぞかせた。小学生当時のままにやんちゃそうなどんぐりまなこを見ひらいて。

 アキラはぼくらの学年を代表する悪ガキで出席番号が六年間ずっと三番だった。一クラスしかなく転入も転出もなかったからだ。

「おおい委員長。早く来いよ。みんな待ってんだぜ」

 アッとぼくと森崎は同時にアキラの顔に人さし指を突きつけた。声がそろう。

「お前が悪いアキラ! なにもかもお前のせい!」

 トイレ水びたし事件だけじゃなくあのころぼくらがしかられる原因はたいていアキラだった。アキラが悪いは当時のぼくらに合い言葉化していた。

 誰かが『悪いやつがいてさ』と口に出せば別の誰かが『そりゃアキラだろ』と受ける。悪いやつと言えばアキラ。アキラは悪いやつ。そんな毎日をぼくらはすごしていた。

 逆にアキラに押しつければなんでもおさまるという風潮もあった。いまも本気でアキラが悪いと思ったんじゃない。一種の条件反射だ。アキラのきかん気な顔に出会うとついお前が悪いと口をつく。

 突然ぼくらふたりに糾弾されてアキラがポカンと口をあけた。

「な? なんだあ? あっ岡野。岡野じゃねえか。お前。生きてたのか?」

「生きてるぞ。『トイレ水びたし事件』のえん罪をきょう晴らしに来た。覚悟しろよアキラ!」

 ぼくは目一杯すごんでみせた。ここでやさしい対応をすると一生なめられっぱなしかもと。

 ぼくって顔に迫力がないみたいで夜の街で高校生にまちがわれて補導されかける経験もしばしばある。ネクタイ姿で得意先のハゲオヤジを接待中だってのに。

「えっ」

 アキラがぼくの剣幕に絶句した。見る見る青ざめるアキラの顔にアキラって実は気が弱かったんだとぼくはさとった。ガキ大将で恐いもの知らずだといままで信じて疑わなかったのに。小学生時代の視覚は大人になった現在の目とは別物だとぼくは知った。

 森崎が破顔しつつぼくとアキラを店奥の一室に引っ張ってぼくを十一人がけの円卓につけた。円卓は三つあった。三十一人学級だったから同窓生全員がそろっているらしい。先生は欠席だそうだ。

 森崎がとなりにすわらせたぼくに同意を求めた。

「さっきのアキラの顔みんなに見せてやりたかったわ。まっ青になっちゃってさ。ねえ岡野くん?」

「うん。アキラって意外と肝が小さいんだ」

 ぼくが相づちを打つと真向かいのアキラが口をとがらせた。

「バ。バッキャロー。そんなわけあるかい。おれはだな。ネクラの岡野が真剣に復讐に来たのかと思って。それでだな。その。そんなやつがマジになったら不気味だから。どうしようかと」

 アキラがしどろもどろに抗弁する。あんまり説得力ないぞアキラ。

 目片栄子がとなりのアキラをつつきながら親しげに口をはさんで来た。

「クスクス。そうよアキラってほんとは小心者なの。その証拠にいつもきちんと宿題をやってたもの。あの『トイレ水びたし事件』だっていたずらをしたんじゃないのよ。水道使用禁止って貼り紙に気づかないで手を洗ったら水がとまらなくなってとうとう学校中にあふれちゃったんだよね。騒ぎが大きくなりすぎて言い出せなかったら岡野くんがいつの間にか犯人になっててさ。真犯人がいつ露見するかとビクビクしてたんだもんねえア・キ・ラ?」

「こら栄子! よけいな口を出すな!」

 アキラが息の合ったしかり方をしたのでぼくはハッとした。栄子は人見知りをするタチで誰にでも一段かまえて接するのが常だった。その栄子がこんななれなれしい口をきくなんて。

 ぼくの目がアキラと栄子の左手に走る。ふたりの薬指には同じデザインの指輪が光っていた。人間の目って不思議だ。それまでもふたりの手は視界にあった。なのにいままでそんなリングは見えてなかった。気づいたとたんその指輪は大きな意味を持って目から離れない。

「あの。アキラと栄子?」

 ふたりの指を交互に見つめるぼくに栄子が明かしてくれた。

「うん。あたしたち結婚したの。岡野くんはぜんぜん同窓会に来なかったから知らないでしょうけどあたし目片栄子から北島栄子になりました」

「そうだったの。おめでとう」

「いいわよ。そんなの。もう二年になるんだから」

 栄子が照れてさりげない顔をしてみせる。栄子はいつもそうだった。自分だけ百点を取ったときもこんな顔をした。

 小学生時代の記憶が不意にぼくを圧倒しはじめた。追憶の糸車がぼくの中でときほぐされてかすかな想いやささいな出来事が次々と再生されて行く。

 向こうの円卓から声が飛んで来た。

「おーい岡野。信じるんじゃないぞ。二年もたつのにまだホカホカなんだぜそいつら」

 みんななつかしい顔ばかりだった。全員の小学生時代の顔と現在の顔が交差してぼくの心の本棚にはまりこんだ。砂丘に染みこむ小糠雨みたいに静かにかろやかに。

 ころ合いと見た森崎がグラスを手に立った。

「さあ。みんなそろったところで乾杯といきましょうか」

「いいぞ委員長!」

 みんなが歓声をあげた。森崎がぼくを立たせた。森崎がグラスをかかげた。

「本日のメインゲスト岡野歩くんの健勝を祝してカンパーイ!」

 森崎の音頭に全員が雑談の花を咲かせはじめた。教室で朝のあいさつをかわすみたいに。

 ぼくのみが部外者らしくひとりずつグラスを持って近況を聞きに来る。おいおいひとりずつ来ないでみんないっしょに来いよ。同じ説明を三十回もくり返させるつもりか?

 向井里美が近況報告の一段落を見はからって口を切るのが耳をかすめた。

「ねえねえみんな。しのぶっておぼえてる? 立原しのぶ。岡野くんが来て同期生で欠けてるのはしのぶだけよ」

 向井は小学生当時ひたすら軽い乗りの女で早とちりばかりを口にしていた。悪意のないホラ吹きといった性格で根は善人だけど言葉はまるで信用にあたいしない。

 ぼくはもう酔ったみたいだ。ぼくは酒に弱い。みんなが来るたびにビールをつぐから飲みすぎた。接待のときは飲むふりをして袖の中にかくしたビニール袋に流しこんだ経験まである。

 男たちが考え考え向井に答えを返すのが聞こえたけどぼくは夢見心地で考えがまとまらなかった。

「立原しのぶってあれかい? 色白できれいな長い髪に人形みたいにととのった美少女だった子? いつもひとりでポツンと教室の隅で童話の本を読んでた? 四年生の二月に越して来て五年生の夏休みが終わるといなくなってたんだよな?」

「そうそれその子。あたしさあ。こないだしのぶにそっくりな子を見たの。パチスロ屋で。うしろ姿だけだったんだけどさ。外国に引っ越したんじゃなかったっけ? しのぶ日本に帰って来たのかなあ?」

 向井の口調は『日本にいるなら同窓会に出りゃいいのに』と訴えていた。あいかわらず他人の事情に頓着しない女だ。

 けど立原しのぶって誰? ぼくはそんな子おぼえてないぞ?

 男たちが遠い目で思い出を交換し合う。

「たしかとんでもなく可愛い子だったぞ。彼女にしたいくらいの」

 根岸聖子が過去をなつかしむ男たちに口をとがらせた。

「なに言ってんの。あんたたち男はみんなして『よそ者はあっちへ行け』ってしのぶをいじめてたじゃない。彼女あのころ母子家庭でさ。男子がみんなでいじめるものだからよく海を見降ろす丘公園で泣いてたわよ」

 川口祐司が反論を口にはこぶ。ばつが悪そうに。

「それはだな。好きな女の子ってのはいじめたくなるものなんだ」

 川口はアキラの右腕で悪ガキナンバーツーだ。出席番号は二番。出席番号一番のぼくはこの川口と三番の北島アキラに六年間しょっちゅうからまれた。苦い思い出だ。

「そうかな? そんな感じじゃなかったわよ。最近の『いじめ』みたいだったけどね」

 根岸が鼻高々に豊満な胸も突き出す。

 小学生当時は女の子の胸を観察するってなかったなあ。ぼく大人になったのかな?

「根岸。おれは知ってるぞ。お前ら女子だって面と向かっていじめはしなかったけど立原をシカトしてたじゃないか」

 川口の反撃に根岸が狼狽顔に変わった。たじたじとひたいに文字が浮いたとぼくの目に映る。

 すっかり酔ったなぼく。

「だ。だってあいつどんなにさそっても童話を読む顔をあげなかったんだもん。あの女は泥くさいあたしたちなんかとあそびたくなかったのよ。優等生でツンとすました美少女だったからプライドが高すぎてあたしたちを鼻で笑ってたに決まってる」

 根岸の言葉に森崎をのぞく女全員がうんうんとうなずいて根岸をささえる意志を表明した。男たちが女性軍のひらき直りに身をちぢめた。たばになった女に勝てないのは大人になっても変わらないらしい。女たちが勝ったと胸を張った。

 こらこら。女全員でその子をシカトしてたなら勝ったはないだろ?

 ぼくの心の声に呼応したわけじゃないだろうけど男も女も胸を張れる過去じゃなかったと気づいてシュンとした。それまで和気藹々だった空気が硬化した。座がしらけて男たちも女たちも眉根にしわを寄せてたがいの腹をさぐり合った。険悪な雰囲気だ。

 果たし合いかよ?

 森崎が見かねて口をはさんだ。

「みんなしのぶがねたましかったのよね。彼女は可愛くって正義感が強かったからさ。あたしたちにない美点ばかりを持ってる気がしてたのよ。いまはそうじゃないって知ってるけどね」

 座が混乱したり行きづまったりすると委員長がわって入る。それもあの時代のぼくらの日常だった。ぼくがなつかしさを感じているんじゃなくみんながあのころと変わってないんだ。

 こいつら全員ガキ?

 女たちがいっせいに疑問顔を森崎に向けた。

「それどういう意味? 委員長?」

「しのぶはおばあさんの家に厄介になってたから優等生をしてただけなの。プライドが高い美少女だからツンとすましてたんじゃないのよ」

「えっ? そ? そうだったの?」

 女たちが顔を見合わせながら森崎に訊き返した。自分たちの判断があやまりだったのではとのゆらぎが頬をこわばらせていた。

「そうよ。しのぶが優等生をやってたのは家庭の事情であたしたちをバカにして一日中本にかじりついてたわけじゃないの」

 森崎の説明が女たちの顔にさらなる後悔をくわえた。シカトなんかしなきゃよかったって口もとをしている。

「こらこら。そんな顔をしないの。過去のあやまちは忘れてパァッとやろうよ。さあさあ」

 森崎が場を盛りあげてみんなははしゃいだ。けど多少無理をしているみたいに見えた。


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