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中編ー①

 。 消したテレビがまたついた。

 バッドエンドを迎えた世界が終わらず続いた。

 死んだはずのやつが別の身体で蘇った。


 なんでもいいが、一つ言えるのはこのどれもがホラー染みたものであり、どれもそうなることを望むやつはいないということだ。


 なのに、何故か続いてしまっている。終わった物語がまた始まった。

 望んでいなかった。本当に心の底から、俺は転生なんて望んでいなかったのだ。


 それならもう一度死ねばいいと思うやつもいるかもしれない。

 俺だって最初はそう思った。でも無理だった。死ぬのには勇気がいった。

 あの時は目の前で行われた裏切り者とクソ野郎の情事が限界だった精神を完全にぶっ壊した。

 タガが外れ、ブレーキが壊れた俺は勢いで死に至ったが、今は違う。

 憎い相手は目の前におらず、前世の記憶が蘇る以前の17年生きてきた志賀駆しがかけるとしての記憶がある。なんの因果か、前世の俺と同じ名前だ。

 作為的ななにかを感じなくもないが、取り巻く環境や状況は前世とは違う。彼女だって今はいない。

 思い出した記憶以外、死ぬ動機が見つからなかった。


 そしてなにより、俺は怖かった。

 首を絞めるあの感触。空気が吸えず、全身の血が冷えていくあの感覚は、もう味わいたくなどない。

 ああ、そうだ。俺はまた死ぬのが怖いのだ。同じ思いをまたしたくなかった。

 あんなの、勢いがないと無理だ。自分の人生を終わらせるための勇気と運を、俺は既に使い切っていた。

 擦り切れてそのまま摩耗していくだけの精神から振り絞った。もはや俺の中に、死ぬための気力も活力も残っていない。

 

 そもそもこうして転生してしまった以上、死を選んでも再び他のナニカに生まれ変わらないという保証はどこにもないのだ。


 地獄だった。俺は生きながら地獄にいる。

 生きることは俺にとっての罰だ。

 こうして生きていることが俺には苦痛でしかなく、第二の生なんざ望んじゃいない。


 終わりたい。終わりたかった。だから終わらせた。なのに。どうして。


 葛藤と苦しみが、今も胸の中に渦巻いている。


「畜生……」


 ベッドの上で悪態をつくのも、もう何度目だろう。

 ここしばらく、学校にも行っていない。前世も合わせれば、半年くらいは行っていないんじゃないだろうか。

 

「行かないと、だよな。これ以上は父さんと母さんに迷惑かけちまう……」


 前世から、俺は両親に迷惑をかけっぱなしだった。

 親不孝、という言葉では片付けられないだろう。

 引きこもった理由を、あの人たちはなにも聞かなかった。

 気が向いたら学校に行けばいいと優しい言葉をかけてくれた。

 だけど俺は全部無視して、自分のことだけ考えて自殺を選んだ。勢いで死んだから、遺書だって残してない。

 ひょっとしたら両親は、自分たちのせいで俺が死んだと思っているかもしれない。

 そんなことはないと伝えたかったが、今の俺は別人だ。

 なにより死んでから、もう二十年以上の時間が流れている。


 いっそチートを貰って異世界転生していたならまだ割り切れたかもしれないが、生憎とここはどうやら俺の前世の世界と地続きにあるようだった。

 記憶を思い出す前の記憶からもそうだと思える判断材料はいくつかあったし、スマホで検索してみたところ、ハ〇ターハ〇ターはまだ連載中だった。いつ完結するんだよ畜生め。


 それはさておき、決定的だったのは、今住んでいる場所が前世の住所とそう離れていないことだった。

 さらに言えば、通っていた高校も全く同じ。流石に老朽化が進んで立て直しはしたようだが、高校の名前は全く一緒だ。いっそ潰れてしまっていれば良かったのに、と思ってしまうのは、今も俺の心がささくれだっているからなのかもしれない。


「あいつらは……」


 どうしているんだろうか。

 俺を裏切った彼女と、彼女を寝取りやがったクソ野郎。

 死に際にかけた呪いで、きっちり苦しんで死んでくれているだろうか。

 

 そうであったら、俺は多少なりとも救われるのに。


 ピンポーン


 堂々巡りの思考を続けていると、不意にチャイムの音が鳴った。

 誰か来たようだ。押し売りか、あるいは仕事でいない両親が、通販でなにか頼んでいたのだろうか。

 

 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


「……うっせぇなぁ」


 ちょっとは考える時間くれよ。チャイム連打するの早すぎるだろうが。

 あの感じだとずっとチャイム鳴らし続けそうだし、どのみち対応しないといけないのだろう。

 俺はゆっくりと、ベッドから起き上がる。


「いっそ、強盗だったら楽なんだがな」


 殺人は嫌だ。それがやれるなら、前世のときにクソ野郎ども相手にやっている。

 俺の倫理観ではいくら憎い相手でも、人を殺すことはどうしても出来そうにない。


 だが、殺されるのなら別だ。

 俺は自殺という形で死なずに済むし、明確な悪人を作ることが出来るから両親たちも思う存分そちらに感情を向けることが出来るだろう。

 刺されれば最高だし、とりあえず形だけの抵抗はしてみるかな、などとどうしようもなく終わってる考えのもと、玄関の扉を開くのだが、

 

「駆くん!」


 ボスンと、胸になにかが飛び込んでくる。

 ああ、ドアを開いた途端刺されるのか。それは想定してなかった。だけど、これはこれでいいかもしれない。俺を救ってくれるなら、死神でもなんでも歓迎……


「良かったぁ! 元気だったんだね! 何日も休んでたから、睦月心配しちゃったよぉ」


 死神にしては、やけに甘ったるい声だった。

 というか、聞き覚えがある。耳にやけに馴染むその声は、俺の心臓をどくりと跳ねさせ、無理やり生きていることを実感させてくる。


「おま、え……」


「えへへ。来ちゃった、貴方の愛しの睦月でっす!」


 ああ、コイツを俺は知っている。

 相原睦月あいはらむつき。記憶を思い出す前の、中学時代からの知り合いだ。

 学校でも可愛くて人気者のくせに、やけに俺に懐いてくるやつだった。


「愛しって、別に付き合ってないだろうが」


「あはは。ダメかー。勢いで合意してもらえないかなーって思ったんだけどなー。でもでも、睦月はいつでもウェルカムだからね!」


 そういって露骨なアピールをしてくる睦月。

 反応が凄く分かりやすくて、俺に好意を持ってくれてることはなんとなく分かっていたのだが、それでも何故か付き合うまでに踏み込めず、なんとなく友達以上恋人未満のような、微妙な関係を続けていた。


 可愛くていいやつで、こういう子と付き合えたら最高だろうなと思っていたのに、なんで付き合う気にならなかったのが、自分でも不思議だったが、今ならその理由が分かる。


(似てるんだ、コイツ……)


 気付きたくなかった。でも気付いてしまった。

 相原睦月は、俺の初恋の相手で彼女だった女によく似ていた。

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