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第1話 「春の出会い」

サァーッ。



暖かい風が吹く。

わたしは胸元のリボンをキュッと締め、息を吸う。



「……よし。」



今日も、完璧だ。

頭から爪先までバッチリ。

鞠媛高校、とかかれた校門をくぐりぬけ、知り合いを探すように辺りを見渡す。


まあ、いるわけないけれど。


鞠媛高校は特別有名な学校でもないし、わたしの通っていた中学校からも大分遠い。

わざわざこの学校に来る知り合いなんていないはずだ。

別に寂しくはない。

だって、わたしがこの学校を選んだのは知り合いがいないからだ。

わたしは中学までは教室の隅で本ばかり読んでいるような俗に言う陰キャだった。

こんな性格のわたしが嫌で、高校デビューをしようと、必死に勉強して合格することが出来たのだ。

この努力を無駄にする訳にはいかない。





「__皆さん、ご入学おめでとうございます」



ああ、とても退屈だ。

校長の話が長いのは何となくわかっていたが、それにしては長すぎる。

仕方がないので、陽キャデビュー出来るかな、なんて事を考えながら話を聞く素振りをしておく。




「__これで、令和X年度、入学式を終わります。」



ふぅ、やっと終わった。

列に並び、教室まで向かう。


クラスは1年B組。

名前を見る限り、知り合いはいなさそうだ。

ホッと胸を撫で下ろし、教室へと入ってゆく。


席は名前順なため、苗字が天野であるわたしは1番右前だ。

きっと自己紹介も最初だろう。

はあ、なんだか少し緊張してきた。

こういうときは好きなことを考えて落ち着こう。

早速わたしは、カラオケのことを頭に思い浮かべた。

カラオケは好きだ。

ストレス発散にもなるし、歌も歌える。

歌は特別上手な方ではないが、歌うのは楽しい。

その時だけは、嫌なことも忘れることが出来る。



さて、こんな話はここでやめにしよう。

自己紹介を考えなくては。

担任の話が右から左に流れていっているが、気にしない。


ええと、初めは"初めまして、天野結愛です。"で、後は趣味とかを言えばいいか。

それと、"みんなと仲良くなりたいです"も入れておくか。

後は一人称をあたしにすれば完璧、きっとわたしの想像した陽キャライフを送ることが出来るはずだ。



「はい、じゃあ君から自己紹介お願いね」



……来た。

わたしは息を吸って、昨日何度も部屋の鏡で練習した笑顔を浮かべた。



「初めまして、天野結愛です。趣味はカラオケです!あたしの今年の目標、クラスの皆と仲良くなることなので、よかったら仲良くしてください!よろしくお願いしまーす!」



よし、完璧ではないだろうか。

皆からの盛大な拍手を貰って、やりきった気持ちになる。

あとは自己紹介を聞くだけ。同じ趣味の子を見つけることが目標だ。



「……五十嵐由美です。よろしくお願いします。」



一瞬、クラスが静まりかえる。

5秒間くらいの静寂が続いた後、小さい拍手が起きた。

「それだけ?」「少なくね?」「なんも聞こえなかったんだけど」なんて小声でみんなが呟く。

由美ちゃんは、表情も変えず椅子に座った。


そうして、どんどん自己紹介が進んでゆく。



「吉本美麗でーす!趣味はメイクとネイル。ばり楽しいんだよねー。てことでまぢよろしくー。」



ああ、やっと自己紹介が終わった。

さて、これで今日はおしまいだ。

取り敢えず、周りの女子と話すか。



「よろしくね、由美ちゃん!」



と後ろを振り向いた。

彼女は、頷くだけで何も話さない。


……話したくないのかな。


もしそうだとしたら、わたしは彼女にとって大分迷惑な存在であろう。


早速席を立ち上がり、美麗ちゃんのところまで向かう。

すると、彼女の方から話しかけてくれた。



「ねー、ウチもカラオケ好きなんだよねー。ウチらで今度行かね?」



お、早速遊びのお誘い!?

しかもギャルから……!!

こんなの、断る理由がない。

なるべく明るく、笑顔を作る。



「まじー?いいじゃん、行こーよ!ええと、美麗だよね。いつ行くー?」



「んー、まあ無難に日曜じゃね?どうせならネイルサロンとかも行きたいし。」



「ネイルサロンいいねー!あたしネイルサロン行ったことないから行ってみたかったんだよねー。」



なんて他愛ない話をしながら計画を立てていく。

途中で、「他にも誰か誘わない?」なんていう話になった。



早速「外で遊ぶのが好き」と言った子たちに手当り次第に声をかけてみる。



「ねー紗奈。今度の日曜ウチらカラオケ行くんだけど紗菜も行かね?」


「えー行く!てか行かせて!ヤバい、今から超楽しみなんだけど!」



そんなふうに目を輝かせて言う紗奈ちゃんに、思わず笑みがこぼれてしまった。



「ちょ、結愛ってば、何笑ってんの!?あーあ、アタシかわいそ〜。」



「もー、自分で言っちゃう?それ」



「それがアタシの取り柄〜!」



にこーっという効果音が付きそうな笑顔で彼女はそう言う。

元気だな、なんて呑気なことを考えつつ、他に誰を誘うか考える。

由美ちゃんは一人でいたいタイプだろうし……。

なんて考え込んでいると、紗菜ちゃんがなにか思いついたように「あ」と言った。



「そーだ、遙真と健二誘おーよ。アイツらカラオケとか好きじゃん絶対。」



と言って、彼らがいる方向を親指で向けた。

遙真、健二と言われた2人は、クラスの中心人物だ。

明るくて、面白くて、まさに"陽"。

わたしが憧れている人物像だ。



「ねー、遙真と健二ー。今度の日曜、ウチら全員でカラオケ行かね?」



「げ、吉本たちかよ……。」



「なに?ウチらじゃ不満なわけ?」



「ちげーよ。ただ、オレ清楚系が好きなんだよ。」



「それは今関係ないじゃーん。ってかアタシら清楚系なんですけどー?」



なんてくだらない会話をしている美麗と紗奈ちゃんと篠崎遙真。

そんな彼、彼女らを横目に、わたしは苦笑いを浮かべて言う。



「ごめんねー、うちの2人が迷惑かけて……」



「いいや、こっちこそわりぃ、うちの遙真が……」



すると、彼は少し微笑んだ。



「……ま、こんな俺らだけど、よかったら仲良くしてくれ」



「あはは、こちらこそー。」




__キーンコーンカーンコーン。




チャイムが鳴り、その日は解散となった。



帰り道、わたしは1人電車に揺られていた。


……まさか全員が自転車通学だとは思わなかった。

これからは一人で帰らなければならないのだろう。

いっそわたしも自転車通学に変えるか?

いいや、それは馬鹿らしい。

電車ですら20分かかるのに、自転車だともっと時間がかかってしまう。



「__次は渋谷駅、渋谷駅……。」



さてそろそろ着く。

降りる準備をし、ドアが開くのを待つ。

カッ、カッという靴の音を鳴らし、空いたドアを進んで行った。



ガチャッ。



「ただいまー。」



「あら、おかえり結愛ちゃん。学校はどうだった?」



「すっごく楽しかったよー。あ、それと今度の日曜カラオケ行くから!」



「ふふ、もうお友達ができたのね。お母さん嬉しいわ〜!」



「もう、お母さんってば……」





カラオケ当日。

わたしらは既にカラオケに集っていた。

皆、それぞれ昼ご飯を持ってきている。

わたしと紗菜ちゃんはヤック。

美麗はフタバ。

遙真と健二はミクドだ。


今は美麗が「COSNOS」を歌っているところだ。

美麗は歌が上手い。

美麗は声質がいいので、元々歌が上手いのに、更に上手く聴こえるのであろう。



わたしはヤックのポテトを食べながら、彼女を眺めていた。



「ねー結愛、アタシナゲット食べ切れる気しないから一緒にシェアしよー。」


なんて紗菜ちゃんに声をかけられ、わたしと紗菜ちゃんはナゲットを一緒に食べていた。

すると、歌い終わった美麗から「ちょ、お前らだけずるいって!ウチもシェアさせて、お願い!」なんて必死に言われたので、3人でシェアすることにした。



「んー、まぢサイコー!ちょー美味しい!やっぱナゲットが1番だわ!」



「わかるー。がち上手いよねー。」



「なー。ナゲット、この世の中で1番好きだわー。」



「え、わかるー!つかナゲットに勝てる食べ物とか無くね?」



「なんか超意気投合してるんだけど……」



そんなにナゲット愛が強いのか……なんてもはや感心しつつ、ひたすらポテトを食べ続ける。

すると、遙真に「お前……そんなにポテト食べてるとニキビ出来るぞ」なんて言われてしまった。



「はあー?あたしの体、ニキビ出来ない体質だから大丈夫だしー。」



なんていうと、



「嘘つくなお前。」



なんてツッコまれてしまい、反論できずにいたら、美麗が助け舟を出してくれた。



「はーい、女子にニキビの話は厳禁でーす。これ以上この話するなら罰金ねー。」



「お前はただ金欲しいだけだろ」



「ぐっ………。遙真うるさい!アンタは黙ってて!」



「お、図星かー?」



なんて言ってニヤニヤしている遙真の足を美麗が蹴る。



「いってぇ!?」



和やかムードのままカラオケは終わり、帰り道をみんなで歩いていた。



「んー!超楽しかったー!」



「わかる。まぢテンション上がったわー。」



「途中で天野が叫んだ時はビビったけどな」



「だって、あれは背景にでてきた猫が可愛すぎてつい……!!」



わたしたちが歩いているところを、後ろからストーカーのようにコッソリと着いてきている人がいたことに知らずに。

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