第5話 その姿はまるで・・・
スキル一覧
脆弱(錆)、なまくら(錆)、耐久力減少極大(錆)、鑑定、念話(家族限定)、装備者弱体化極大、不運極大、疲労、魂喰い、魅了、全力全壊、食いしばり、家族愛、祈り、触手new、6本脚歩行new
・・・俺は何とか気を持ち直しながら、先ずは触手をタップする。
『触手』
触手のようなものを出せるようになります。ある程度形状を変える事ができます。扱いには慣れが必要で、その精密性は使用者の技量に依存する。何本でも出せますが、数が多いと当然制御が難しくなります。
【私は君が爺様と呼んでいる者の上役に当たる者だ。北御門くん。この度は部下が大変な迷惑をかけた事、申し訳なく思っている。だが転生はやり直しができない。せめてもの償いだ。君の祈りにあった願い事を叶えたいと思う。】
スキル名が触手のくせに、触手のようなものなのかよ。当然触手を扱ったことはないから、要練習なんだろうが。
・・・やっぱり爺様以外にも神様いたのか。願いを叶えてくれるだって?毎日暇を見つけては祈っといてよかったわ。
『6本脚歩行』
その名の通り6本脚で歩行もしくは走行するためのスキルです。普段2本脚で動いているような生物が6本脚を動かすには必須のスキルです。
【爺様はしっかりシメておくので、まかせておきたまえ。与えたスキルは少々見栄えは悪いかもしれないが、有用なもののはずだ。それでは、君の健闘を祈る。】
ふむふむ。つまりは触手で6本脚を作って移動しろってことか。
・・・いやいや。なんで触手なんだよ。少々どころかかなり見た目が悪いだろ。触手の色が白いからまだいいけど、茶色だったらGの奴みたいだぞ?というか、日本刀に6本脚が生えてる時点で何のクリチャーだよって感じがするんだが。
例えば、こう。念力みたいな謎パワーで自由に浮いたりとか出来なかったんですかねぇ?・・・でも、移動できるだけましか。
爺様へのコメント?
ザマァ!スッキリさわやかな気分だぜ!上司さん、グッジョブ!
と、まあ。その歩く姿には非常に違和感があるものの、移動手段を手に入れたので、俺は『デネブリスの森』の上層に向かい、街の近くへ行く事にした。誰か人に拾ってもらって、どうにかして耐久力を回復する必要があるからだ。耐久力はあとたったの48しかないし。
ゲームと地形が変わってないのであれば、現在いるのは深層のしかも隠し部屋の中と思うんだよな。そのせいか知らないが、野晒しで1週間以上過ごしたその間、誰一人ここに来ることはなかったわけで。待ち続けるのは明らかに悪手だろう。
こうして、俺は転生以来1週間ほど過ごしていた隠し部屋を後にするのだった。まあ、ただ単に動けなかっただけなんだが。
カサカサ。
隠し部屋と通常エリアを隔てる蔓のカーテンを潜り抜け、俺は先ず下層を目指して素早く移動をしていく。
人間のような二足歩行ではなく、虫のような6本脚で歩く俺の視界は以前と比べては随分と低い位置になっていること、且つ、20年前のIOの記憶をひっぱりだしながら進んでいる事もあり、少し迷いそうになるが、構造自体は概ねゲーム通りで間違いないようである。
カサカサ。
陽の光がほとんど差さないためか、あまり成長していない草を踏みつけながら思う。それにしても、本当にIOの世界にそっくりだと。爺様がIOを元にして世界を作ったとか言っていたから、当然と言えば当然なんだろうけど。
カサカサ。
隠し部屋を出てしばらく進んだところにある広場に出ると、ゲーム時代に見た懐かしい敵の姿を確認した。
全長は180cmぐらいだろうか。ソイツは全身が黒い毛皮に覆われていて、背中を丸めながらのそのそと短い脚で立って歩いていた。脚と同じく短い手には鋭い爪が生え、険しい顔に尖った牙。頭には短くて丸い耳がちょこんと乗っている。
言ってしまえば、2足歩行する熊だ。ゲームじゃなくて現実になった分、随分迫力が増している気がする。ソイツの頭の上に名前とレベルが表示されている。鑑定の効果だろう。
名前:クーマ
レベル:80
名前は、まあ。見たまんまである。IOの製作陣は割とキャラクターの名前、適当につけてるんだよなぁ。
クーマであのレベルってことは、この世界、ハード版の方か・・・。
IOは長い歴史を誇るMMORPGであるため、様々なバージョンが存在する。
一番最初の初代と呼ばれるバージョンでは、レベル上限が100だったのだが、僅か2〜3ヶ月の間にレベル100まで到達するプレイヤーが続出したため、ものの半年も経たずにリリースされたのがハード版だ。
レベル上限を200に上げ、大量の新アイテムや新クエストなどを引っ下げて登場したハード版は、レベル上限に到達していたプレイヤー達に歓喜をもって迎えられ、そして、絶望を与えた。
クーマは言ってみれば、物語の序盤で登場するただの雑魚敵なのだが、ハード版リリース初日に殴りかかってきた幾多のレベル上限到達者達をクーマの群れは返り討ちにしたのだ。
最初のダンジョンを初心者が遭難するくらいの難易度に仕上げてくるゲーム会社が甘い筈がなく、見た目は同じでも大幅に強化されたモンスター達に無策で突っ込んだプレイヤーが生き残れるはずもなかった。
当時を思い出して遠い目になった俺であったが、ここはゲームではなく現実世界だ。無理をおかす必要はないと判断した俺にはクーマと戦うという選択肢はない。そもそも動くのに不自由な日本刀なわけで、戦えるはずもない。つまり
カサカサカサカサカサカサカサカサ!
全力で6本脚を動かした俺はかなりの速さで広場の中を駆け抜けていく。途中でクーマのそばを通ったが、そもそも日本刀を敵として認識していないのか、速すぎて諦めたのか、何ら反応することはなく、俺は無事に目的地の方へ続く出口に無事に辿り着いたのだった。
・・・俺がちょっと素早く動く時の音。地面をカサカサ走る姿はまるでゴキ・・・いや。これ以上考えるのはマズイ。そうして、俺は考えることを止めた。
敵に遭遇する度に無視して走り抜けてを繰り返すこと数回。辿り着いた小さめの広場で、俺はクーマと戦っているエルフの女性がいるのを見つけたのだが・・・
名前:フェイ・ウェイ(北御門 美結)
レベル:1
何でこんなとこにマイスイートドーター、美結の名前が??