第2話 転生の理由
そりゃ、種族:日本刀じゃ両手両足はないし、頭もあるわけはない。もちろん、動けるわけがない。身体が動かない謎は解けたが、何故日本刀になったのかの謎が発生したわけだが。
いやいや、何故日本刀になったのか?とか、意味が分からない謎だろ!
一人でノリツッコミをして現実逃避をしていたが、それで現実が変わるはずもなく、俺は動けない日本刀のままだ。
実は薄々分かっちゃいた。さっき視界を自分の身体に持っていった時に、実は茶色い刀身が見えてたし。まさか日本刀に転生したとは思わなかったから、スルーしたけどな。ん?茶色??
俺はステータスを読み進める。
『ステータス』
名前:北御門 智
種族:日本刀
レベル:1
武器名:錆びた刀
銘:天暦981年 ムラクモ作
状態:錆(重度)
攻撃力:200
強化値:10
耐久力:50/250
属性値:光100
闇100
地100
水100
火100
風100
無100
美しさ:0
スキル:たくさん♡
錆びとるやん!日本刀に転生した上に錆びた刀になるとか何の嫌がらせだよ!あの爺様、俺になんか恨みでもあんのか?普通日本刀に転生させるなら、もっとピカピカの日本刀にするだろ?いや、日本刀に転生させる時点で普通じゃないか。
くっそー!今度爺様に会ったら刀の錆にしてやる!・・・ま、新しく錆が付く場所ないけどな、俺。
・・・・というか、ステータスを見て、俺が日本刀に転生した理由が分かったかも知れないわ。
この錆びた刀、多分俺が使ってた愛刀だ。
IOの俺のプレイ時間は5〜6年で8,000時間を優に超えていたんだが、その内の3,000時間以上を使って作りあげたのが俺の愛刀ミヅチカグラだ。
ミヅチカグラはIOの作中で最高の攻撃力を誇る武器で、当然にしてその一撃のダメージ数は作中最高になる。こう言うと物凄く強い武器だと思うかも知れないが、そうじゃない。
IOは武器によって攻撃モーションが決まっていて、ミヅチカグラが属する日本刀系は高威力だが単体単発系の武器。複数の敵を相手にするのは大剣系の武器の方が効率はいいし、単体なら二刀流のような高威力複数発系の方がダメージ効率がいい。
日本刀系の武器はIOプレイヤーの間では、カッコイイけど実用性がないというのが共通の評価だった。
それは最高の攻撃力をもつミヅチカグラも同様で、強いけど弱いネタ武器という扱いだったんだが・・・。
そういう強いけど弱いみたいなネタ武器が大好きなわけよ。天邪鬼な俺としては。カッコイイし。
で、何故この刀がミヅチカグラと思ったか。いやいや、武器名錆びた刀やん?ってツッコミもあるかも知れない。
今は錆びてるが、とある鍛治職人に渡せば錆を綺麗に落としてくれて、ある問題はあるものの、錆が落ちた後はミヅチカグラに名前が変化し、攻撃力が爆上がりするのだ。
ちなみに錆びた刀が全てミヅチカグラになるわけではない。むしろ、そうはならない偽物の方が多い。銘の所に書いてある『天暦981年 ムラクモ作』とあるものだけが、ミヅチカグラになるのだ。
でも、それはミヅチカグラだと証明するだけでお前の愛刀とは限らないだろうって?
チッチッチ。甘い甘い。そこで注目するのが、強化値と属性値だ。IOでは他の多くのRPGで見られるように、武器の強化を行うことができ、強化の方法は二つある。
一つは、強化値を上げること。街の鍛冶屋で素材とお金を渡す事で強化を依頼する事ができ、成功すると強化値が+1される。強化値は最大10までで、9回目までは1あたり5%攻撃力が上昇するんだが、強化した時点での攻撃力に対しての5%なので、最終強化の10%UPとあわせて最大強化で元の170%程の攻撃力になる。
なお、強化は失敗することもあって、強化段階が進めば進むほど成功率が落ち、失敗時には強化値がマイナスになるペナルティが発生することもあるので、最大強化するまでにはそれなりの手間と時間とコストが必要になるが、まあ、誰でもできるレベルではある。
もう一つは、属性値を上げること。IOでは敵ごとに属性が割り振られており、例えば光属性の敵に対して、光の属性値100の武器で攻撃した場合、本来より100%多いダメージを与えられるようになる。
ちなみにこの属性値を上げる方法が曲者で、小魔石というどの敵からもドロップするアイテムを400個集めれば、最大値である100にできるのだが、譲渡不可アイテムな上にまあまあレアな品で1時間に1個程度しかドロップしないため、一つの属性値を100にするのに400時間はかかる事になる。属性は無属性もいれて7つあるため、単純計算で400×7=2,800時間かかるのだ。全属性値フル強化は狂気の沙汰と言えるだろう。
さっきミヅチカグラを作りあげるのに3,000時間以上使ったといったのは、この全属性値フル強化に時間がかかったからだ。
廃人(もしくは廃神)と呼ばれる人種なら、最強武器を限界まで強化することもあるだろう。だが、ある種のネタ武器とされているミヅチカグラをフル強化した人間はIOの世界が広いと言っても多分俺だけと思われる。
何故か錆びてはいるが、それが俺の愛刀だったミヅチカグラだと思う根拠だ。
・・・完成した時に色んな人に見せて回ったら、変態を見るような目で見られたのはいい思い出だ。操さんにはドン引きされたしな。
で、だ。爺様に言われて、IOの事を思い出た時に、『そういえばミヅチカグラを鍛えまくったけど、アレはいい思い出だったなぁ』って思ったわけよ。爺様はその部分を拾って、そんなに刀が好きなら、刀に転生させるか!とか適当に処理したんじゃないかと。
・・・いやいや、無いだろ。普通はその刀を作る作業をしてたプレイヤーキャラの方に転生させるだろ!