第26話 紫ミミズと斬鉄剣
『ギシャアァアアァア!』
ムラサキオオミミーズ・・・長くて面倒だな。紫ミミズって呼ぶか。
紫ミミズの咆哮は広大なボス部屋の空気全体を震わせ、美結の手に握られた俺の刀身にも、ビリビリとした振動が感じられた。
「マトイは無事に退避出来たようね。パパ、行くわよ!」
『おう!バフは全開にしてる。存分にやれ!』
そんな紫ミミズからのプレッシャーをモノともせず、美結は紫ミミズと真正面から対峙する。
すると、紫ミミズは美結に向かって、8本の触手を伸ばして攻撃してきた。両方の手足目掛けて2本ずつ繰り出された触手は、美結が俺をひと薙ぎする事でアッサリと斬り落とす事が出来たんだが・・・。
斬り落とすされた触手の斬り口からどくどくと紫色の体液が地面に撒き散らされ、ジュワッとという音を立てて白い煙を出している。
これはひょっとして?嫌な想像をしながら紫色の体液を鑑定すると・・・
『ムラサキオオミミーズの体液』
非常に強力な酸性かつ毒性を持っており、対策をせずに触るのは大変危険。ありとあらゆる物を溶かし、生物であればその毒で侵して殺してしまう。
こいつは、触ることは避けた方が良さそうだな。砂もシュワシュワ溶けてるみたいだし。
『美結!紫ミミズの体液には触れるな!強酸性で浴びれば皮膚は溶けるだろうし、毒もあるからどうなるか分からん!!』
「・・・分かったわ。なかなか楽しそうな相手ね。ところで、パパは耐久力は大丈夫なの?」
触手を智樹が作った刀を使って斬りながら、回避行動を取る美結の言葉に俺はハッとする。
強酸性の体液なんて俺の刀身にも悪いに決まっている。
耐久力:990/1,010
『クソッタレ!20減ってやがる!』
俺は思わず叫んでしまう。脆弱(錆)から強靭にスキルが変化したせいか、普通にモンスターと戦っただけでは俺の耐久力が削れることは無くなっていたのに、それが一振りあたり10も減っていたからだ。
「あの気持ち悪いミミズはデカくてタフそうだし、普通にやれば長引くんでしょうけど、パパの耐久力を考えれば、あまり悠長にしている時間は無さそうね。それに・・・。」
言いながらも美結は、次々と襲いかかって来る触手を、身体に体液が付着しない様に器用に斬り落としていく。だが、その代償として、足元の砂地はどんどん体液に汚染されてしまった。
「体液で砂地が汚染されて、足場がどんどん無くなっていくわ。あのミミズ、触手は幾らでも作れるみたいだし、攻撃を捌いているだけじゃジリ貧ね。いつかは足場が無くなって、流石の私も捕まってしまうわ。」
至極冷静な声で状況を告げる美結。・・・これは、マズイんじゃないか?
『・・・美結。その割には、楽しそうにしてないか?』
「そりゃあね。見た感じ、純粋な格闘戦なら私の圧勝だと思うんだけど、毒に・・、体液に当たらない様にってなると、なかなかの骨だわ。だが、それがいい!」
『お前はどこぞの傾奇者か!』
キッとしたキメ顔でネタをぶち込んでくる美結に、俺はツッコミを入れざるを得なかった。因みに、こんなふざけたやりとりの間も、美結は触手による攻撃を完璧に捌いていたりする。
『冗談はともかく。美結、どうする?触手程度の小さな物ならともかく、紫ミミズの本体くらいデカいと、体液が何処に飛ぶかのコントロールなんて出来ねぇんじゃないか?まあ、そもそも、あんなデカくて太い奴を斬れるのかって話はあるが。』
紫ミミズは俺の目測で直径3メートルはある化け物で、全長にいたっては身体の大半が地中に埋まっているため不明だ。常人ならこんな化け物は斬れないんだろうが・・・。
「斬れるわよ。パパを使えば確実に。だけど、確かに体液のコントロールなんて出来そうにないわ。輪切りにしたとしても、人間と違ってすぐ死なないで、のたうち回る可能性の方が高いだろうし。」
なかなかに物騒なコメントを返してくる美結。まあ、分かってはいたが、人間と違ってすぐ死なないって、人を斬ったことあるんだなぁ(遠い目)。
「そうだ。良いこと思いついたわ。こんな作戦はどうかな、パパ?」
そうして、現実逃避をしていたところに美結の明るい声が割り込んでくる。嫌な予感がしなくはなかったが、美結が思いついた作戦は思いの外まともなものだったので、すぐさま実行する事になったのである。
カサカサ。
動きながら心配で美結の様子を窺う。美結は蒼く美しく輝く刀・・・智樹が超古代の刀を参考にして作った一品を構えて、紫ミミズと対峙している。
カサカサ。
そう。今、俺は作戦の為に美結の手元から離れている。流石に手元から離れると、装備者弱体化極大なんかの反転バフ効果は消滅しているはずだが、代わりに緋色のオーラ(おそらく美結自前のバフスキルである気功)を立ち上らせて、美結は物凄い速さで動き続けている。
カサカサ。
触手を伸ばすだけでは埒があかないと思ったのか、紫ミミズは様々な攻撃パターンで美結を攻撃する様になっていた。巨体を活かした突進攻撃、口から毒の塊を吐き出す、丸呑みにしようと地中から飛び出す、などなどだ。
カサカサ。
だが、美結はどの攻撃にも掠ることもなく、完璧な回避を見せてのける。どう攻撃したものかと考えているのか、少し動きが止まった紫ミミズの姿が見えた所で、俺は目的に着いたのだった。
「・・・わあ。ゴキブリみたいに動くんですねぇ。素晴らしいです。急いで来たように見えましたけどぉ、どうかしたのですかぁ?お姉様のお父様?・・・って。喋る事は出来ないんでしたねぇ。」
『そうでもないぞ、マトイ。あとゴキブリじゃねぇ。』
「わわっ!き、急に声が聞こえましたぁ!もしかして、お姉様のお父様?」
『その通りだ。因みに名前は、こちら風に言えばアキラ・キタミカドになるな。』
驚いた様子のマトイを落ち着かせる様にして、俺は出来るだけ優しい声で話しかける。
「では、アキラさん、とお呼びしますねぇ。というか、家族しか念話出来ないんじゃなかったでしたか?・・・はっ!もしかして、気付かない内に私はお姉様と結婚してたとかぁ?」
『違うわ!なんでそんな結論になる!ただ単にパーティーメンバーとも念話を出来るようになっただけだ。』
とんでもない事を口走るマトイに思わずツッコミをいれる俺。実は念話(家族限定)から、念話(家族Plus)にスキルが進化していたりする。
『念話(家族Plus)』
家族とパーティーメンバー限定で念話が出来ます。SPを節約したい貴方に最適なプランです。対象先は任意で切り替え可能。無料通話。
今回の作戦の為に俺はマトイと意思疎通を図る必要があったため、SPを15消費してスキルを進化させたものになる。
因みにSPを60消費すれば誰とでも念話を出来るようになれたが、SPを100使って得られるスキルで俺が欲しいスキルがある為、必要最低限にしてSPを節約しているってわけだ。
『そんなことより!マトイに少し頼みたい事がある。』
「お姉様の為なら、何でもしますぅ!」
『良い返事だ!今、美結が紫ミミズの攻撃を大外回りに回避をしながら、こっちに向かっている。この出入り口まで美結が来た時にやって欲しい事があるんだが。』
「どんなことでしょう?」
『それはな・・・。』
俺が内容を説明すると、マトイは気合いの入った表情で頷き、作戦は無事に決行される事になる。
こうして、俺はマトイと2人で美結がやってくるのを待つのであった。
『マトイ。来るぞ。準備はいいか?』
「準備万端です!必要な魔法は待機済みですぅ!」
俺の声に元気に反応するトリスの周囲には幾重もの魔法陣が展開され、それぞれが独立してぐるぐると回転していた。何というか物凄く魔法使いっぽい。
そう言えば、この世界に来てからまともに魔法を見るのは初めてな気がするな。ステータスではMPや魔法力がそれなりにあるけど、美結は完全な物理アタッカーだし、智樹も使っているのを見た事がない。
攻撃は全く出来ないと言っていたが、こと防御に限っていえば、実はマトイって凄腕の魔法使いなんだろうか?
『今だ!』
「超硬障壁!」
俺の掛け声に合わせて発動したマトイの魔法は、出入り口付近にやって来ていた美結を対象に発動する。
美結を球状の金色の膜が覆ったかと思うと、一際光を放った後に、身体のラインに沿った形で金色の膜に包まれる美結の姿があった。
「アキラさん。行ってください!」
魔法の発動を見届けたマトイは、思う通りに出来たのか満足そうに頷くと、すぐ側に立て掛けてあった俺の柄を握ると、部屋の中に向かって俺を投げつけた。
出入り口付近は美結が通り過ぎた際に紫ミミズの体液でぐちゃぐちゃに汚染されたから、触手で歩いて行くのは困難が予想されたからだろう。だが・・・
「お、重いですぅ。」
元々マトイは家族じゃないからな。俺のデバフスキルの影響をモロに受けたんだろう。力無く投げられた俺は案の定、紫に染まった地面の上に落下しそうになる。
『こなくそ!』
そこで俺は2本だけ触手を出すと、僅かに汚染されていない場所に触手を次々とねじ込んでいき、竹馬で歩くようにして二足歩行で美結に近づいていった。
『美結!』
「待ってたわよ、パパ!」
手に持つ智樹の刀をボロボロにしながらも、美結は喜声を上げた。それと同時に
「ソイツは私からのプレゼントよ!」
美結は紫ミミズに向かって手に持つ刀を投げ付けると、緋色のオーラに包まれた刀は凄い勢いで飛んで行き、ドゴンという音と共に紫ミミズの巨体に決して小さくはない穴を空けてしまう。
気で刀を覆って投げつけたのか?爆弾でも投げたみたいな凄い威力だ!
『ギャシャアアアァアアア!!』
身体の向こう側の景色を晒した紫ミミズが、体液をドバドバと垂れ流しながら、絶叫を上げてのたうち回る。隙だらけだ。
「行くわよ!パパ!!」
『おう!好きに暴れろ!!』
手に取った俺を大上段に構えながら、美結は暴れ回る紫ミミズに向かって突進すると、目一杯跳躍して、凝縮した濃い緋色のオーラを俺に注ぎ込んで、そのまま俺を振り下ろした。
俺の刀身はあっさりと紫ミミズの身体を斬り裂いていく。それどころか俺の軌道に沿って、緋色の刃が飛んでいき、刀が届かないはずの胴体や、その下の地面までも真っ二つに斬ってしまった。
綺麗に2枚に下ろされた紫ミミズはドスンと倒れ込んで、ビクビクと痙攣しながらその紫色の体液で撒き散らし、地面や俺達を汚していく。だが・・・
「マトイのバリア、凄い性能ね。ミミズの体液を完全に防いでくれているわ。」
『体液塗れは心臓に悪いが、予想通りマトイのバリアを雨合羽みたいにして、体液を防ぐ事が出来たな。』
そう。コレが美結が考えた作戦だ。躱せないなら身体に触れないようにしてしまえばいい、というわけだ。見事に成功したわけだが、一つ疑問がある。
『なあ。もしマトイが他人にバリアを貼る事は出来ないって言ったら如何するつもりだったんだ?』
「そうねぇ。その時は被弾覚悟で一瞬で終わらせて、智樹からもらってた最高級ポーションで回復してたと思うわ。」
『要は行き当たりばったりってことか。』
「まあ、上手くいったんだから、細かい事はいいじゃない。ところでパパ。ミミズの体液、べっとり付いてるけど大丈夫なの?」
はっ!そういえば、美結はマトイからバリアを掛けられていて今も薄っすら金色に光っているが、俺はバリアも何も無い状態だ。
耐久力:489/1,010
なっ!何でこんなに耐久力が減ってんだ!!驚愕する俺の思いは他所に、耐久力は1秒で1減るくらいのペースで減っていく。
『美結!ヤバイ。耐久力がどんどん減っていく!!』
俺がそう叫ぶと、美結は自分の手を使って大雑把に刀身についた体液を拭っていく。
すると、俺の耐久力の減少は止まった為、俺はホッと胸を撫で下ろした。まあ、俺に胸は無いがな。
『ありがとな、美結。耐久力の減少はストップした。しかし、今耐久力が480なんだが、体液浴びてからの減り具合的に計算があわねぇな。』
俺がポツリと呟くと、美結はポンと手を叩く。
「ああ。それ、多分さっきミミズにトドメを刺す時に使った技のせいだと思うわ。斬鉄剣って言う私の奥義みたいな技なんだけど、転生前は技の威力に耐えられなくて、私が使ってた刀は全部壊れちゃってたし。」
『なっ!そんな危険な技を俺で使うな!』
「壊れるなら感覚で分かるから大丈夫よ、パパ。それよりも、技の跡を見てよ。」
俺の怒りを軽く受け流す美結の視線を追ってみると、そこには紫ミミズを斬った後、緋色の斬撃が斬った地面の跡があった。
少し覗き込んでみるが、かなりの深さがあるようで底が全く見えない。
『底が見えないんだが。この技はいつもこんなとんでもない威力なのか?』
「違うわ。転生前なら精々鋼鉄の塊が斬れるくらいで、大地を深く斬りつけるなんて出来なかった。多分、パパのおかげで技の威力が最大限発揮されたんだと思うわ。」
人の身で鋼鉄の塊が斬れるっヤバイと思うんだが!
そんな俺の思いを他所に、言いながら美結はふっと微笑んで、優しく俺の柄を撫でる。
「ありがとう、パパ。私はパパと一緒なら、今以上に武を極めることが出来ると思うの。これからも宜しくね。パパ。」
満面の笑顔でそんな事を言ってくる美結の誘いに、俺は身の危険を感じながらも
『おう、まかせろ!』
愛娘の笑顔に絆されてと元気よく了承するのであった。
更新が少々遅れて申し訳ありません。
本作について、もう少し更新しようかと思ったのですが、今回の更新はここまでとさせて頂きます。
別作のロストデウスの更新を2週間後くらいから再開し、同作の4章が完結した後に、本作の更新を再開したいと思いますので、よろしくお願いします。
このような拙い話をご覧いただき、ありがとうございました!ではでは、またお会いしましょう〜!




