第25話 グルメな食材
「ところで、マトイは何でここに来たのよ?何日か前にカーニしゃぶを食べた後、パーティー解散したし、命の危険があった後だから、しばらく家でゆっくりしてると思ってたけど。」
マッサージの時間が過ぎ去った後、ふと気が付けば美結がマトイにそんな事を尋ねていた。
美結はモンスターとの戦いを楽しんだだけだが、マトイからすればパーティーメンバーをなくし、自らも命の危機に晒された直後だからな。
精神的ショックを受けて、引き篭もりになっても仕方ないような事態だが、見た感じ元気そうだし、こうやってここまでやって来ている。
因みに、俺のマッサージが終わった後、智樹は「ちょっと気分転換してくるね。」と言って外出したため、今は不在にしていたりする。顔が大分強張っていたが、一体どうしたんだろうな?
「この間は色々と有りましたから、ショックを受けてないと言えば嘘になりますぅ。でも、お姉様が言ったんですよ?」
「私、何か言ったっけ?」
「・・・私は今まで亡くなったパーティーメンバーの命を背負っている。だから、生き残らなければならないし、私にその命の犠牲の上に立つ価値がある事を示せって。」
確かに言っていたな。少々(少々か?)戦闘馬鹿なところはあるが、我が娘ながらいい言葉だと思う。
「だから、フォンドゥム大洞窟の調査結果を開発局に報告しに行って来たんですぅ。私には、この小賢しい頭脳しかありませんし、今できる事はこれくらいですから。それに、何かをしていた方が気が紛れますし。」
言いながら弱々しく微笑んだマトイだったが、その目は確かに未来を見据えているように思える。・・・強い娘だな。
「そっか。・・・でも、マトイ。それとここに来る事は話が繋がってなくない?」
そんなマトイを見て優しく微笑みながら、美結は疑問を口にする。
「それがそうでも無いんですぅ。実は報告が終わった後に開発局のノオジ局長からお姉様に言伝を頼まれまして。」
「げっ。あのおっさんかぁ。なんて言ってたの?」
「私と一緒に開発局まで来て欲しい、と。お姉様に何か依頼したい事があるらしいですぅ。」
のんびりとした口調でそう答えるマトイの声を聞きながら、俺は久しぶりにIOの序盤のストーリーを思い出していた。
IOにおいて、デネブリスの森はプレイヤーが最初に訪れるステージであり、フォンドゥム大洞窟は2番目に訪れるステージだ。
ストーリー上はそれぞれのステージで探索を進め、そのステージのボスを倒すと、次のステージへ進めるようになる。
本来、デネブリスの森のステージボスであるタイボークン(巨大な木のゴーレムのようなモンスター)を倒さないと、フォンドゥム大洞窟には行く事は出来ない。
IOは各プレイヤーがそれぞれステージボスを倒してステージを進めていくわけだが、ここはIOによく似た現実世界だ。
実際に美結と俺は特にタイボークンを倒す事もなく、新たに発見されたフォンドゥム大洞窟に到達している。
では、IOの世界に居たタイボークンはどうなったのか。色々と話を聞いて回ると、どうも他の開拓者が多大な犠牲を払いつつも討伐したらしい。
タイボークンが討伐されたことで、奥地の探索が可能となって、フォンドゥム大洞窟が発見された、というわけだ。
その他の開拓者が、この世界の主人公的なポジションにいるかと思ったんだが、今は違うようだ。
多分この開発局からの呼び出しは、フォンドゥム大洞窟のステージボスであるオオミミーズ討伐に至るメインクエスト『洞窟で蠢くモノ』と同じ依頼だろう。
ってことは、どうやら今時点で美結はこの世界の主人公的なポジションにいるようだな。とすると、探索の先頭を走り続ける限り、今後ステージボスを含めた様々なモンスターと戦うことになる可能性が高いだろうなぁ。
・・・はぁ。美結は喜ぶだろうが、一緒に戦うであろう俺としてはため息がでるわ。
そうして、そのままマトイと一緒に開発局へ行った美結は、ノオジ局長と面談して、IOでいうところの依頼『洞窟で蠢くモノ』を受諾することになる。
依頼内容としてはこうだ。モンスターの数が通常よりも減少していると報告を受けた開発局が、複数の開拓者達に依頼して洞窟探索を進めたところ、洞窟のある地点に到達した途端に、悉く開拓者達と連絡が取れなくなった為、その原因を調査してほしい、というものだ。
ぶっちゃけて言えば、その原因がフォンドゥム大洞窟のステージボスであるオオミミーズであり、IOでは発見からそのまま戦闘することになるのである。
「機嫌が良さそうですねぇ、お姉様。」
「ん?分かるの?マトイ。」
マトイが智樹の店を訪ねて来て数日後。俺、美結、マトイの姿はフォンドゥム大洞窟の中にあった。
いつもなら手応えの無い敵と戦うとやや不機嫌になる美結が、鼻歌混じりに迫り来るモンスターを斬り捨てており、確かに機嫌が良さそうなんだから、マトイがそう聞くのも無理はない。
まあ、美結がそうなってる理由は想像がつくんだがな。
「私には理解できない感覚ですけどぉ、さっきからお姉様は楽しそうにモンスターを倒してますし。」
「今出て来てるモンスターには物足りなくて不満しかないけど、開発局で聞いた話ではこの洞窟の奥に地面を揺るがすようなモンスターがいるって話だったでしょ?パパに聞いたら、ステージボスだっていうし、デネブリスの森のステージボスとは戦いそびれてるから、正直、戦うのが楽しみなのよね。」
言いながら、美結はニコニコの笑顔のままで、襲いかかってきたトカゲビトコマンダーを細切れにして倒してしまう。
血飛沫が散る中で実にいい笑顔をしている美結は、サイコな感じがして若干怖いな。
「すてーじぼす?というのは良く分かりませんけどぉ、要は強いモンスターと戦えそうだから、お姉様はワクワクしているってことですねぇ。」
「そそ。そういうことよ。」
モンスターの惨殺死体だらけの最悪の環境の中、何故か和やかな雰囲気で雑談を交わしながら、俺達はフォンドゥム大洞窟の最奥へと歩みを進めて行くのであった。
そうやってたどり着いたフォンドゥム大洞窟の最奥、最後の部屋は巨大なドーム上の空間になっていた。
入り口に立っている俺の目では、反対側がよく見えないほどに遠く小さく見え、豆粒のようにも見える黒い点が、おそらく次のステージである遺跡への入り口だろう。
そして、その巨大な部屋へ美結が一歩足を踏み出すと、ジャリジャリとした音が足元から聞こえてくる。あたり一面が砂場になっているからだ。
IOでの、フォンドゥム大洞窟のボス部屋と全く同じだな。って事は・・・
ゴゴゴゴゴゴゴ!
部屋に入って暫くすると地面全体が音を立てて揺れ出し、少し離れた場所の地面が爆発したかのように弾け飛んで、砂が飛び散っていく。
砂が空気中を舞い、それが落ち着いた後に現れたのは太く長い体を持ち上げて、360度鋭い牙が配置された丸い口を美結の方に向けた化け物だった。
目に当たる部位が無いように見えるのは地中に生息するからか。体毛が無くスベスベしているように見える正にミミズのようには見える。
ただし、地中から出ている部分だけでも優に10メートルは超えるような巨大さを誇っており、毒々しい紫色の体表も合わせて、ステージボスを名乗るに相応しい威容だろう。
・・・ん?紫だと??
IOにおけるオオミミーズは、確かノーマルなミミズと同じ赤じゃなかったか?
疑問に思った俺は、すぐさま鑑定を発動させる、
名前:ムラサキオオミミーズ
レベル:???
IOを通しても初めてみるモンスターだ。どれどれ。解説は・・・
『ムラサキオオミミーズ』
オオミミーズが突然変異した姿。オオミミーズも超古代にミミズが突然変異した存在だが、神の干渉もあって更なる変異を遂げたもの。通常のオオミミーズと比べて全体的な能力が向上しているが、最大の特徴は猛毒を持つようになったことで、かなり厄介なモンスターとなっている。
その肉は何の処理もせずに食べれば、僅かな量でも人類にとっては致死量となるが、特殊な毒抜き処理を施せば食べれるようになる。その味は絶品で、世界一美味しい肉と言っても過言では無い。オススメの調理法はステーキ。
尚、具体的な毒抜きの方法は・・・
なっ!神の干渉、だと!爺様の事だろうが、それでこんなヤバそうな化け物が誕生したのなら、本当に碌な事をしねぇな、爺様は。
しかし、この間の黄金カーニといい、妙に食べさせようとしてくるのはなんでなんだ?
そこまで思ってハッとした俺は、美結のステータスを久しぶりに詳細に覗いていく。
因みに、美結からは常時ステータスを見ていい、という許可をもらっているからいつでも見れるが、智樹は何故か顔を真っ赤にして絶対に見せない、って言われててどんなスキルがあるか未だによく分かってないんだよな。
名前:フェイ・ウェイ(北御門 美結)
種族:エルフ
レベル:31→45
称号:北神一刀流(開祖)
状態:正常
HP:530→670
MP:380→478
攻撃力:460→572
魔法力:345→429
防御力:260→340
敏捷性:620→760
スキル:北神一刀流・極、威圧、見切、俊敏、瞬歩、超反応、気配察知、幻刃、逆境、気功、百戦錬磨、血祭、戦闘狂、暴走、家族愛、ジャイアントキラー、グルメnew
各種能力が上がっているのはともかく、なんか見慣れないスキルが生えとる!
『グルメ』
見事に黄金カーニを倒し、しゃぶしゃぶにして食べたグルメな貴女に贈るスキルです。美味しい食材に出会う可能性がかなり高まります。
いや。ムラサキオオミミーズが生まれた原因、絶対コレだろ!と、心の中で俺がツッコミを入れている間にも事態は進んでいく。
「マトイ。部屋の入り口の所まで下がってなさい。コイツは私1人で倒すわ。」
「お、お姉様。分かりましたぁ!」
部屋の入り口まで下がっていくマトイに対して反応し、ムラサキオオミミーズは触手を数本、マトイに向かって繰り出した。
だがその触手は、ちょうど射線上にいた美結の斬撃・・・右手の俺によってアッサリと断ち切られてしまう。
「生憎とそっちは通行止めよ。通りたければ私を倒してからにしなさい。」
そう言ってニヤリと笑った美結に対して
『ギシャアァアアァア!』
ムラサキオオミミーズは咆哮を上げて、触手を斬られた怒りを美結にぶつけるのであった。
いつもご覧いただきありがとうございます。
何とか予定通り更新できて良かったです。がばがばの設定でお送りしているお話ですが、本作については後4〜5話ほど更新しようかと思いますので、お付き合いしていただけたら幸いです。
そして、もし本作を面白いと思っていただけるのであれば、別作のロストデウスもご覧いただけたら、私は泣いて喜ぶかもしれません。まあ、作風はかなり違いますが(笑)
それでは、また次の更新でお会いしましょう。ではでは。




