第23話 黄金カーニ
仲間のカーニを全て喰い終わったアオーカーニは、最初は薄い黄色だったものが、今は力強い金色のオーラに覆われている。
オーラだけではない。青かった殻もいつの間にか金色に染まっており、要所要所に天に向かうように真っ直ぐ伸びたトゲが生えていた。
「某スーパーな戦闘民族みたいな色と姿になったわね。」
『それは俺も思ったが、相手はカニだぞ。というか、IOでもあんな姿を見たことが無いんだが。』
某有名漫画のキャラクターの様に、髪の代わりにトゲを天に向かって伸ばして金色になっているが、相手はカニだ。
あんな姿はゲームでも見た事も聞いた事もないが、おそらくアオーカーニに数十匹もカーニを喰わせた奴はいなかっただろう。
ひょっとしたら、IOでもこの姿になれたのかもしれない。
そう思いながら黄金カーニを見ていたはずなんだが、俺は体高5メートルを超える巨体であるヤツの姿を見失ってしまう。
どこに行った?そう思った次の瞬間。
ガイィン!という金属音と共に、巨大な硬質な何かが俺を使って受け止められている感じる。智樹のハンマー以上の衝撃だ。
「カニのクセに横だけじゃなく、正面に動くとはね。っと!」
黄金カーニの金色のハサミを、いつの間にか鞘から抜いた俺で受け止めると、薄っすらと緋色のオーラに包まれた美結は渾身の力を込めてハサミを押し返した。
「じゃあ、今度はこっちから行くわよ!」
バランスをやや崩した黄金カーニに、跳躍した美結が真正面から大上段に構えた俺を振り下ろす。
槍の柄で攻撃を防ごうとしたトカゲビトコマンダーのように、巨大な両手のハサミをクロスさせて、黄金カーニは攻撃を防ごうとした。
そして、ガギィっと音を立てながらも、見事に振り下ろしの斬撃を防ぎ、腕を振り回して美結を弾き飛ばした。何気に錆が取れた後の俺を使って一撃で斬れなかった相手は初めてな気がするな。
弾き飛ばされた美結は空中でクルクルと回転し、ストンと着地をする。その顔は実にいい笑顔をしていた。
「・・・そう来なくっちゃね。もっと私を楽しませてよ!」
嬉々とした美結の猛攻が黄金カーニに襲い掛かっていく。
うむ。さっきの一撃で右のハサミは殻が大きく削れたみたいだから、連撃を喰らえば黄金カーニが倒されるのも時間の問題だな。
「あははは!どうした、カニ?私はまだ満足していないぞ!!」
あ。言ってるうちに右のハサミが根元から斬り飛ばされたな。
普通の開拓者が遭遇したなら、おそらく惨殺される運命しかないであろう黄金カーニに、相手が悪かったな、と俺は心の中で合掌するであった。
「それで、あんな巨大なカニを狩って来たってこと?」
「ええ。洞窟のモンスターの中では1番手応えがあったわね。あのカニは。」
「へぇ。美結ねえがいい笑顔でそんな事いうなんて、かなり強かったんだね。」
『一応カニじゃなくてカーニな。』
そう俺達は無事にピオニアに帰還し、智樹の店で食卓を囲んでいた。その食卓で美結と智樹が呑気にそんな会話をしている。
黄金カーニの後にも、カーマのレアモンスターであるグランカーマや、当たれば即死の毒を吐き出すドクピョンのレアモンスターであるモウドクピョンなんかが出現したんだが、まさに凱袖一触だったもんな。美結的には黄金カーニの評価が1番高いのだろう。
「さて。そろそろ沸騰してきたみたいだね。食べ頃だよ、美結ねえ。」
「しかし、智樹も土鍋はともかく、だし汁なんかよく作ったわね。」
食卓にはだし汁がなみなみと注がれた土鍋が、ガスコンロの様な器具の上に置かれていた。IOはヨーロッパ風の世界観だから、違和感が半端ないな。
「この街は結構交易が盛んみたいで、食材の種類は豊富なんだよね。値は張るけど、意外と材料を揃えるのは難しくなかったよ。」
胸を張る智樹。うむ。ドヤ顔が可愛いな。
「あのぅ。私も御相伴に預かって良かったのでしょうか。」
呑気な会話を繰り広げる2人に、縮こまって椅子に座っていたマトイが声を上げる。
そう。ピオニアに帰ってきたその足で、寄り道せずに智樹の店に戻っており、マトイも一緒に連れて来ていたのだ。
「いいのいいの。なんか洞窟で倒したカニ、美味しいらしいからさ。いっぱい取れたし、一緒に食べようよ。」
「あ、ありがとうございますぅ。」
「じゃあ、最初だし、僕が作って上げるね。こんな風に・・・しゃぶしゃぶ、っと。」
智樹が皿に薄切りして並べたカーニ肉をガバッと箸で掬い上げて、さっと出し汁を潜らせるてからマトイの取り皿に、出来上がったカニしゃぶを置いていく。
実は俺の鑑定も、使い続けているうちに熟練度が上がったのか、鑑定した物の詳細な解説文みたいなもの表示されるようになったのだ。
そして、黄金カーニを解体する前に鑑定したところ、こんな風に表示されたわけだ。
『黄金カーニ』
幾多のカーニを犠牲にして生まれた究極のカーニ。その力はこの世に存在するありとあらゆるカーニの頂点に立っており、生半可な実力の持ち主では歯が立たないだろう。
尚、その身にはカーニの旨さがギュッと凝縮されており、通常のカーニとは比べ物にならないほど美味しい。その旨さと強さから究極甲殻類とも呼ばれている。オススメの調理法はカーニしゃぶ。
オススメされたからにはやるしか無い、って事で急遽カーニしゃぶパーティーを開催する事になったわけである。
いや普通、じゃあ食べるか、とはならないだろう。毒があるかも、とか考えないのかよ!
そう突っ込みを入れた俺だったが、悪ノリをする美結と智樹を止められるはずも無く、今に至っている。
まあ、そもそも修羅の国では食糧事情が良くなく、食べれそうなものは食べれる時に食べれるだけ食べるものらしい。・・・相変わらずどこの終末世界だよ。
「カニは行き渡ったみたいね。では、いただきます。」
「いただきます!」
「いただき、ます?」
この世界は食事前に何かを言う習慣がないらしい。マトイは首を捻りながらも、他の2人とほぼ同じタイミングで半透明色のカーニ肉をパクりと口に入れた。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
その瞬間。3人は真顔で黙り込んで動きを止める。そして、しばらくして再起動したかと思うと、猛烈な勢いでカニしゃぶを貪り出した。
「こ、これは、旨すぎるわ!」
「手が、止まらないよ!」
「今まで食べたどんなものよりも、遥かに美味しいですぅ!」
以降は一言も喋る事はなく、3人とも無言でカーニしゃぶをほうばっている。これは、カニを食べ始めると無言になるって言うアレか?殻はついてないんだがな。
そうして、あまりの美味しさに3人の箸は進みまくり、あっという間に準備していたカーニ肉が無くなってしまう。
だが、黄金カーニは縦は5メートル、横は10メートルあるような巨大な化け物だ。切る前の肉なら在庫はそれこそ売るほどにある。
皿が空になる度に、美結の手によってはおかわりが作られ、3人は腹がはち切れる程にカーニしゃぶを堪能する事になったのである。
俺か?黄金カーニの殻が硬くて他の刃物じゃ切れないからと、カーニ肉切り包丁として存分に活躍したとも。
美味しいカーニ肉を食べまくって、蕩けた顔でトドのように転がる3人を眺めて、俺もカーニ肉を食べたい、とか羨ましく思ってないんだからね!
呪いの刀よろしく、カーニ汁まみれになりながらもブツブツと呟く俺の嘆きは、誰の耳にも届く事はなかったのであった。
ということで、日本刀〜の今回の更新はこれにて終了いたします。ご覧いただきありがとうございました。
今後、しばらくしたら別作のロストデウスの第4章「灰色の科学者」の更新を開始するのですが、第4章が終わるまで日本刀の更新をしなかったら、今回のように更新再開まで大分かかる事になります。
なので、1〜2ヶ月毎にこちらも更新しようか思っています。気長にお待ちいただいて、ついでにロストデウスも読んでいただけたら幸いです。
ではでは、またお会いしましょう〜




