第21話 命を背負って
「お、お助けいただき、ありがとうございますぅ。」
「気にしなくていいわよ。少し数が多めだったから、私としても楽しめたし。」
「た、楽しめた・・・ですか?」
無事にモンスターの群れを倒した美結は、数の多さからいい運動になったらしく、先程までの不機嫌から一転して上機嫌になったようだ。
俺は美結のイカれた返事に首を傾げるマトイを改めて観察する。
歳の頃は20代半ばくらいだろうか。170センチはある美結よりも頭一つ分は低い為、おそらく身長は140センチ台と人間の女性としてはかなり小柄な方だ。
服装は白を基調として青い差し色が所々に入ったローブで、身体の正面を青い布地に紋章の様な柄を刺繍した胸掛けの様なものを羽織っており、腰まで伸びた長い銀髪が後ろで適当に束ねられて揺れている。
比較的緩やかな服装のはずなのに、身体の小ささに似つかわしく無いほどに盛り上がった胸部装甲は明らかに目立っており、おそらく生身の俺なら興味をそそられて、後で操さんにシメられたであろうと思われる。
垂れ目がちな淡い黄色の瞳は、見る者に優しそうな、おっとりとした印象を与えており、比較的緩やかな動作もあってか、全体としてのんびりとした雰囲気を醸し出していた。
「私は戦うことが好きだから。ところで、貴女はこんな場所で何をしているの?私はフェイ・ウェイ。開発局の依頼で行方不明になっている開拓者達を探しに来たんだけど。」
「私は、マトイ・レッグアームズといいます。フェイさんが探している開拓者の1人だと思いますぅ。」
「・・・私が局長から聞いた話じゃ、洞窟の探索を依頼した開拓者は5人って聞いてるけど、他の4人はどうしたの?」
美結が尋ねると、ふわふわとした雰囲気を纏っていたマトイは、一気に沈んだ顔になる。
「他の皆さんは、その、モンスターにやられてしまって・・・。」
「・・・そう。悪い事を聞いたわね。」
「いえ。・・・私、いつもこうなんです。」
「いつも?」
美結の問いに、マトイはこくんと頷く。
「私、一応は開拓者ですが、本来は生物学や地質学、考古学の学者なんです。未開の地が多く遺跡が頻繁に発見されているリメス辺境伯領に興味を惹かれ、自分自身で探索をしたくて、開拓者になったんですが・・・。」
マトイが言うには元が学者の為、戦闘能力が乏しい上に、探索先では必ずと言っていいほど大量のモンスターに襲われて、パーティーが壊滅する事も珍しく無いのだとか。
「私、攻撃力は殆ど無いんですけど、防御魔法だけは自信があって・・・。だから、今まで生き残ってこれたんです。でも、何度かパーティーを壊滅させた後に、私はもうパーティーを組まない方がいいのかなって思ったし、周りも気味悪がって私とはパーティーを組んでくれませんでした。」
暗い調子で語るマトイは、苦しそうな表情で言葉を続ける。
そう。これが彼女が「死神マトイ」と呼ばれる理由の一つだ。所属するパーティーが大量のモンスターに襲われて、ことごとく壊滅する話はマトイのバッググラウンドとしてIOの中でも語られていた。
だけど、現実になったこの世界で聞くこの話は、同じ話でもマトイが苦悩する感情がダイレクトに伝わってきて、胸が締め付けられる思いがする。
「もう開拓者を引退しようと思っていた矢先に、学者としての経験を買われて今回の洞窟探索に誘われたんです。それで、臨時でパーティーに入りました。ですが・・・。」
黄色い瞳が涙で滲み、大粒の涙がぼろぼろとマトイの頬を零れ落ちていく。
「それが。こんな結果に・・・。先ほどは咄嗟に助けを求めましたが、私みたいな役立たずは、あのまま死んだ方が良かったのかもしれません。」
涙を拭う事すらせずに独白するマトイは、最後の方は今にも消え入りそうな様子で呟くのだった。
「・・・。私はパーティーメンバーが亡くなったことは、気にしなくていいと思うわ。」
腕を組んでマトイの話を黙って聞いていた美結が口を開く。
「開拓者は大なり小なり危険が伴う仕事だし、そうなる可能性があることを彼等彼女等は覚悟していたはずよ。そういう噂があるのを知りながら誘ったんであれば、尚更自己責任だし、単純に力不足ね。」
「で、でも!」
冷たく言い放つ美結に食い下がるマトイ。
「それでも貴女は生き残った。ある意味、今までも含めて亡くなったパーティーメンバーの命を背負っているとも言えるわ。だから貴女は生き残らなければならない!」
「・・っ!」
美結の真剣な眼差しにマトイは完全に気圧されて生唾を飲み込む。命のやり取りが多かったであろう修羅の国を生き抜いた美結ならではの感覚のようにも思えた。
「貴女が悪意を以ってパーティーメンバーを陥れたのなら別だけど、そうじゃ無いんでしょ?」
美結の言葉にマトイはブンブンと首を振り、長い銀髪がそれに合わせて揺れ動く。
「だったら生き抜いてやりなさい。亡くなったパーティーメンバーの分まで。そして、貴女の価値を世に示しなさい。私はみんなの命の犠牲の上に立つのに値するんだ、ってね。」
これは、美結なりにマトイのことを励ましているのか?・・・自分も父親の犠牲の上に立っていたから。
「・・・わかりました。私に何が出来るか分かりませんが、精一杯頑張ります。」
美結の言葉を受けて何か感じ入るものがあったのか、先程までの沈んだ様子から一変し、マトイは顔を上げて力強くそう宣言するのであった。
「さて。貴女も少しはマシな顔になったし、取り敢えずこの洞窟から脱出して、ピオニアの街に帰りましょうか。」
「それはいいんですど、本当にいいんですか?私なんかとパーティーを組んで。」
少しの休憩を挟んだ後、美結はマトイにパーティーを組まないかと打診していたのだ。
ここはゲームの中ではなく現実世界だ。俺からIOでのマトイについて説明はして、娘を心配する父親の立場としてはマトイから離れる様に言ったんだが、聞く耳を持ってくれなかった。
曰く「ここでマトイを見捨てたら、女が廃るでしょ?」だそうだ。我が娘ながら男前過ぎるだろ。
「もちろん構わないわ。これでも戦闘には自信があるしね。貴女とパーティーを組んでも、大丈夫なことを私が証明してあげるわ。」
「・・・分かりました。よろしくお願いします!」
こうして、俺達は洞窟の出口を目指して来た道を戻っていくことになる。その道中・・・
「ああ、やっぱりぃ!」
出口を目指して歩き出した少し先の広場で、マトイは頭を抱えていた。何故なら、広場を埋め尽くさんばかりの大量のモンスター達が待ち構えていたからだ。
IOではマトイとパーティーを組むと、モンスターの出現数が何故か激増してしまうという現象が起こっていた。
なので、マトイが仲間になるクエストでは、魔物の数に抗えずに死んでしまうプレイヤーが続出してしまう。
これが「死神マトイ」と呼ばれるもう一つの理由だった。
「安心なさい、マトイ。」
だが、美結は落ち着いていて、パニックになるマトイに優しく声を掛けると、マトイを背中に庇いながら右手に俺を、左手に智樹の刀を持ってニヤリと楽しそうに笑い始めた。
「少し遊んでくるから、そこでバリアでも張って待ってなさい、マトイ。」
「は、はい。分かりましたぁ!」
マトイの返事を最後まで聞かずに、走り出した美結は魔物の集団に猛然と襲い掛かり、そのままさして苦労する事も無く、あっという間に殲滅してしまう。
「・・・お姉様、すごい!」
圧倒的な美結の強さを見て、マトイは目を輝かせる。
「コレくらいならまだ大丈夫だわ。・・・マトイ。少し先の様子を見てくるから、そこでジッとしてるのよ?」
「お姉様、分かりましたぁ。」
元気よく返事をするマトイを置いて、美結は次の広間に続く通路にやってくると、マトイから見えない場所まで進んで、そこで立ち止まった。
「パパ。不運極大はオンにしてないんだよね?」
『ああ。今は他のはオンにしているが、不運極大だけオフにしているぞ。前にも説明したが不運極大は危ないからな。』
「私としては常時オンでもいいんだけど。」
そんな事をのたまわる美結。不運極大は家族愛の反転効果で、最高に幸運な状態を持続するスキルに変貌するわけだが、戦闘馬鹿の美結にとっての幸運は、満足できるような強い敵や数多くの敵と戦うことになる。
この為、オンにするとどんなモンスターが出てくるかも分からないし危ない、ということは美結に説明済みだ。
『なんで今、その話をするんだ?』
「不運極大をオンにしてくれないかなぁ、と思って。」
『・・・なんでだ?』
「あれだけの数のモンスターが出るなんて、普通じゃ無いでしょ。パパが言ってたあの子の能力よね?」
『まあ、そうだな。IOと同じくらい・・・いや、もしかしたらそれ以上に湧いてるかもしれない。』
爺様はこの世界をIOをもとにして作ったと言っていたが、もとにしただけであって、この世界はIOと全く同じというわけでは無い。
現に俺や美結、智樹みたいなイレギュラーな存在がいるし、開発局の局長は曲者おじさんじゃ無かったしな。
現実世界に反映させる過程で、マトイの能力も改変されたのかもしれない。
「あの子・・・マトイの能力を借りれば、私も満足出来るかなと思って。不運極大とマトイの能力を同時に使ったら、面白そうよね?」
『重ね掛けする気か?危な過ぎるだろ!!』
「アシュアム以来、私には刺激が足りないのよ。質で及ばないなら数で補うしかないわ。でも、マトイの能力だけじゃ足りないの。だからお願い、パパ。不運極大をオンにして?」
俺は怒声を上げて反対した。だが、美結は俺の言葉を意に介さずにおねだりをしてくる。
しばらく押し問答をしていたが、全く引く様子がない美結に根負けして、俺は結局、不運極大を発動することになるのであった。
私の拙いお話を読んでいただきありがとうございます。
日本刀〜の今回の更新は、取り敢えず次回を最後と致します。
最後までお付き合いいただければ幸いです。




