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第18話 風呂とマッサージ

「ほら。これが高純度オリハルコンでしょ?」

「うわっ!随分とたくさん採れたんだね。かなりレアな鉱石のはずなんだけど。」

 店に入った美結は、早速テーブルの上に採ってきた高純度オリハルコンを所狭しと並べ始め、テーブルは直ぐに青白く輝く鉱石で埋め尽くされた。

『多分、俺のスキル『不運極大』の反転効果の影響だろうな。面白い様にザクザク採れたし。』

「他にも色々な鉱石が採れたんだけど、智樹、いるでしょ?」

「もちろん!・・・アダマンタイトにミスリル、ヒヒイロカネまで!こっちの世界は未知の鉱物が多くて、鍛治士の僕にとっては夢の様な世界だよ。」

 欲しかったオモチャを目の前にした小学生の様に、興奮した様子で語る智樹。大きな赤い目が宝物を見つけたようにキラキラと輝いている。可愛い。

 ・・・っは!智樹の可愛さにやられている場合じゃなかったわ。

『まあ、それはそれとして。智樹。そろそろ、俺を修復してくれないか?』

「あっ。父さん、ごめんごめん。」

 ペロッと舌を出しながら謝る智樹。うむ。あざといな。可愛いと言われるのを嫌がってたし、本人は無意識なんだろうけど。

「ちょっと工房の準備をしてくるから、そこで待っててくれる?じゃ、行ってくる。」

 俺達の返事を聞かずに、小さい身体でパタパタと奥に引っ込む智樹。

「パパの意識としては智樹は小学生のイメージが強いんだろうけど、私としては堅物そうなジジイのイメージが強いから、少し複雑な気分よ。・・・可愛いけど。」

 そんな智樹の姿を見ながら、美結はほんの少しだけため息を吐くのだった。


「さあ。準備ができたよ。入った入った!」

 しばらく時間が経って、智樹の声が店の奥の方、工場から聞こえてきたので、そこに足を踏み入れると数々の鍛治道具・・・ハンマーや金床、火箸などが見えてくるが、1番目立つのは()()染まった火床だった。

「おー。立派な工房じゃない。当たり前だけど、火床があるからあっついわね。」

「作業場が熱いのは鍛治士の宿命だからね。仕方ないよ。」

 日本刀な身体ではあまり感じないが、工房内はかなり暑いらしい。見れば、美結も智樹も薄っすらと汗をかいている。

『というか、火床って普通は赤いもんじゃないか?』

「普通はそうなんだけど、この世界の素材は曲者が多くてさ。火力が高い方が色々な物が加工しやすいんだよ。赤いよりも青い方が温度が高くてね。向こうの鉱物なら温度高過ぎなんだけどさ。」

 智樹が今何をしているかというと、薄く伸ばした高純度オリハルコンらしきものと、薄く伸ばした黒い板の様なもの・・・多分メタルゴリィの心核、を何層にも積み重ねたものを火床に入れている様だ。

 火床から取り出した青く灼けたソレをガキンガキンと智樹の身体には不釣り合いに巨大なハンマーで叩いては火床に入れて、取り出しては・・・と繰り返すうちに、蒼黒の金属の塊が出来ていた。

「僕のスキル、『合成』で高純度オリハルコンとメタルゴリィの心核の合金の完成っと。・・・じゃあ、父さんも火床に入ろっか。」

『・・・ん?今、なんと?』

「だから、火床に入ろっか。」

 えっ。金属が灼けて柔らかくなるくらいの火床に入ったら、普通はタダじゃ済まないよな?

 ・・・って、今の俺は日本刀だったわ!

『あー。なんだ。物凄く熱そうなんで、出来れば止めときたいんだが?』

「僕の鍛治士としての勘が、父さんをあの青い火床に入れても大丈夫って告げているから平気だってば!」

『いや、勘かよ!』

 このままではヤバいと、俺は久々に触手を生やしてGのように逃げ出そうとしたんだが、動く出す前にガシッと美結に掴まれてしまう。

「待ちなさい。パパ。こと鍛治に関しては智樹のいう事は絶対的だわ。だから、諦めて火床に入りなさいよ。」

『そ、そうかな。』

 俺は鍛治士としての智樹を全く知らないからイメージ出来ないが、美結はよほど鍛治について智樹の事を信頼しているらしい。自信満々に言い放つ美結に心が動きかけたが・・・

「・・・あー!早くしなさいよ。組合長シメるのに後がつかえてるんだから!!」

『ソレが本音かい!!』

 美結はただ次なる戦いに早く行きたいだけらしい。その台無しな一言で再び触手を生やそうとしたその時、智樹が俺の柄を掴むと抗議する間もなく、えいっと刀身を火床に突っ込んでしまう。 

『ギャアアァアァァアア!・・・ア?熱く、ない?』

「今の父さんは日本刀だからね。僕も見たことがない様な金属で出来ているみたいだけど、ちょっとやそっとの熱じゃどうにもならないよ。」

 呆れた様に智樹が笑っている。

 人の身であれば火床に触れば大惨事は免れないだろう。だが、今の俺は日本刀だった。むしろこれは・・・

『少し熱めの風呂に入ってるみたいで気持ちいい!』

 日本刀に転生してからは味わった事のない感覚だ。最近までデネブリスの森の最奥で野晒しになって、錆に侵食されていたわけだし。

 雨風に晒されて冷たい思いをする事はあっても、刀身(からだ)の底からじわじわ暖まるような、まるで温泉に入っている様な気分を味わえるはずも無い。

『ア゛ア゛ァ〜!極楽極楽。』

 だから、筋張った筋肉がほどけていくような心地良さに、変な声が漏れて鼻唄を歌ったとしても仕方がないだろう。まあ、日本刀な俺に筋肉なんて勿論ないがな。


「・・・そろそろ鍛造しないと。」

 その様子にやや面を食らった表情の智樹が、ハッとした様子で俺を火床から取り出すとハンマーを振り上げる。

 ひんやりした外の空気が、俺の鈍った思考回路をシャッキリとさせた。

『ちょっ!ハンマーはヤバいだろ。暴力反た・・・。』

 俺の声を無視して、無情にも振り下ろされたハンマーは、ガキンと硬質な音を立てる。

『い・・・痛くない。』

 いや。これはむしろ・・・

『き、気持ちいい!』

 小柄な体格に反して智樹の振るうハンマーのスピードはかなり速い。人間ならあたりどころによってはアッサリ死ぬだろう。

 だが俺にとっては肩凝りの時に肩叩きをされるようなもので、程よい刺激がマッサージのようだ。

 全身の凝りが解れる感覚に、風呂上がりにマッサージを受ける人達の気持ちがようやく分かった気がするな。


「ねえ、智樹。」

「何、美結ねえ。」

「火床に突っ込まれて気持ち良さそうに悶えて、ハンマーで叩かれては喜ぶ日本刀ってどう思う?」

「・・・控え目に言っても、気持ち悪いね。そんな日本刀を叩かなきゃいけない僕の身にもなってよ。」

「なんかゴメン、智樹。」

 

『イイ!そこだ。もっと俺を叩いてくれ!もっとだ!』

 ガンガンとハンマーで叩かれては悦ぶ俺にため息を吐く子供達。

『ア゛ア゛〜ア゛!ギモヂイイ!』

 そして火床に浸かり、理解不能の不気味な声を上げる日本刀(物体)に、軽蔑の眼差しを送る2人の視線を感じながら、俺は久々の快感(風呂とマッサージ)に酔いしれるのであった。


 そうして火床に入っては喜悦の声を上げて、ハンマーで叩かれては喜色に染まることを幾度と無く繰り返す内に、俺は高純度オリハルコンとメタルゴリィの心核の合金と完全に融合し、修復は完了となったのである。

 その代わりに、美結と智樹、特に智樹とは心の距離を感じるようになったんだが、俺は何か悪い事をしたのだろうか。

 ただ、数週間ぶりに火床(風呂)に入り、ハンマーに叩かれ(マッサージを受け)て、気持ち良くなっただけというのに。解せぬ。

何故か主人公に妙な属性?が付きました。まあ、本人(本刀?)は、風呂とマッサージで気持ち良くなってるだけですが。

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