第17話 簀巻き
「身体能力が急に上がった気がするわね。」
『高難度のイベントボスであるアシュアムを、低レベルの状態で1人で倒したからな。レベルもいっぱい上がって、能力も爆上がりしたんだろ。大体、アレは1人で倒す様な相手じゃねぇしな。』
「確かに、アレは中々の殺りがいがある相手だったわ。」
グルピン鉱山からピオニアの街へ帰る途中で、そんな会話をする俺と美結。グルピン鉱山が魔物騒ぎで休業状態になっているせいだろうが、人通りが全く無くて良かったわ。
側から見れば美結は独り言をブツブツ言ってる危ないお姉さんだしな。
「・・・ステータスをちょっとみてみるわ。」
そう言って美結はステータスを開示した。
名前:フェイ・ウェイ(北御門 美結)
種族:エルフ
レベル:4→31
称号:北神一刀流(開祖)
状態:正常
HP:260→530
MP:191→380
攻撃力:244→460
魔法力:183→345
防御力:125→260
敏捷性:350→620
スキル:北神一刀流・極、威圧、見切、俊敏、瞬歩、超反応、気配察知、幻刃、逆境、気功、百戦錬磨、血祭、戦闘狂、暴走、家族愛、ジャイアントキラーnew
そういえば、美結のステータスを細かく見たのは最初のクーマを倒した後だけだったな。
それから倒した敵はメタルゴリィ戦前までなら雑魚敵12体でレベルは10に到達。
メタルゴリィを倒した段階でレベル12。
そして、アシュアムを倒してレベルは31まで一気に上がっている。各種能力値はレベル4の時からすれば、2倍前後まで急上昇している。
アシュアム戦前と後ではレベルが19差もある為、体感として身体能力が上がったと分かって当然と言えるだろう。
ん?なんか見慣れないスキルが生えてるんだが・・・。
『ジャイアントキラー』
圧倒的なレベル差を物共とせずに、敵を倒しきったクレイジーな貴女に贈るスキルです。レベル差があればある程に、全能力が上昇します。
これは・・・。多分、アシュアムを倒したから、だろうなぁ。アシュアムにレベル表示はなかったけど、ただのレアモンスターのメタルゴリィよりも明らかに格上だったし。
『アシュアム戦前と後じゃレベル差が19もあって、レベル12から31になっているから、身体能力が上がるのも当然だろうな。あと、変なスキルが生えてるぞ。ほら・・・』
俺は美結にスキル内容を説明した。
「ジャイアントキラー?格上と戦う時に身体能力が上がる?・・・私向きの良いスキルだわ!」
そう言ってニヤリと獰猛に笑う美結。コイツ、絶対ロクなこと考えてねぇな。
こうして、ピオニアに帰るまでの間、美結は何事かを想像してニヤニヤしながら歩き続けるのだが・・・。
マジで人通りがなくて良かったわ。いくら美形でもこうニヤニヤされると不気味でしかないしな。我が娘ながら、本当にどうしてこうなったし。
そして、ようやくピオニアに帰ってきた俺達は、直ぐに智樹の店へと向かった。
美結はピオニアに帰ってくる道中で敵に遭遇がなかったからか、少し不貞腐れた様子でノタノタと歩いていたんだが、敵意を持つ複数人に店が囲まれているとか言ってたし、俺が美結を急かした訳だ。
俺の中では智樹は小学生だったし、今は美幼女だしな。
「そんなに急がなくても大丈夫だって、パパ。あんな見た目にはなってたけど、智樹の奴、しっかり強かったし。」
『可愛いだけの美幼女にしか見えんし、強いと言われてもイメージ出来ないんだが。』
「私の戦闘に関する感覚を信用しなよ。まあ、可愛いのは認めるけどね。」
そんな会話をしながら、足早に智樹の店に向かった俺達を待っていたのは・・・
「父さん、美結ねえ。遅かったね。」
店の入り口のところで何かに腰を掛けながら、俺達にニコニコと声を掛けてくる智樹。
「なかなか手強い相手がいてね。少し手こずったわ。」
「だと思ったよ。美結ねえの機嫌が良いみたいだし。弱い相手しか居なかったら、今頃不機嫌になってるよね。美結ねえは。」
腰を上げて、座っていた何かを踏み付けながら智樹は美結と談笑をしている。踏み付けられたソレは、ふげっと声を漏らした。
『いや、ちょっと待て!』
「何よ?パパ。」
「何かな?父さん。」
『智樹が踏んでるそのワラみたいな何かに包まれた物体って、もしかして人じゃないのか?』
「何当たり前の事を言ってるのよ、パパ。」
「そんなの見れば分かるじゃん、父さん。」
不思議そうな顔をする美結と智樹。いや、目の前に簀巻きになった人がいたら、誰でも気になるよな!?なんか芋虫みたいにモゾモゾ動いているし。
・・・俺がおかしいのか?
『なんで簀巻きになってるんだよ?』
「なぜって、襲ってきたこの人を僕が返り討ちにしたからだよ。他にも居たけど、僕がこの人を血祭りにあげてる間に逃げていったね。」
「流石智樹!向こうでは、襲撃者をよくこうやって晒し者にしてたっけ。懐かしいわね。」
うむ。全く懐かしくない。俺があの通り魔に殺されなかったとしても、俺が死んだ後の日本で生き残っていく自信がないんだが。
「それはそうと。じゃあ、今から鍛治士組合の組合長の所に殴り込みに行こうか。丁度襲撃者も手に入ったし。」
「いいわね。アシュアムほどの奴はいないでしょうけど、良い運動になりそうだわ。」
つま先で簀巻きを蹴りながら智樹が言うと、美結が嬉しそうに賛同する。
『いやいや。ちょっと待て!その前に俺を修復してくれ、智樹。耐久力が6しか残ってねぇんだよ!ほら、見てみろ!』
言いながら、俺は自分のステータスを開示した。
『ステータス』
名前:北御門 智
種族:日本刀
レベル:12→31
武器名:錆びた刀
銘:天暦981年 ムラクモ作
状態:錆(中度)
攻撃力:381→400
強化値:10
耐久力:102/355→6/360
SP:22→59
「耐久力6は確かに少ないわね。あれ。『全力全壊』で耐久力1になってなかったっけ?」
『1のままじゃ怖すぎるから、SP使って増やしたんだよ。』
「なるほど。確かに耐久力1は心細過ぎるもんね。」
因みに、俺と美結の経験値テーブルはどうやら一緒らしく、戦った相手と倒した敵は当然同じの為、レベルも一緒になっている。
「じゃあ、父さんの修復が終わってから組合長をシメに行こうか。」
「そうね。相手はこの街に拠点を持ってるんだから、逃げはしないだろうし。」
『だから、なんでそんなに殺意が高いんだよ。お前らは!』
俺の叫びも虚しく、子供達はすっかり盛り上がっている。これが修羅の国のスタンダードなのか!
しかし、簀巻きなった人って、リアルで初めて見たんだけど。時代劇でも中々見なくなってたような気がするわけだが、悪い事をして捕まったら簀巻きになる世界って、色々やばい気がするぞ。実際、この世界の道行く一般の人達は、コレを見て引いてるみたいだしな。
そんな事を思いながらボーっとしていると、智樹が簀巻きに使っている荒縄をギュッと引っ張ってある程度の長さを確保すると、瞬く間に店の軒先に結びつけてミノムシのように吊し上げてしまう。
形からして頭の方が地面に向かっているから、頭に血が昇って、長時間やるとロクな事になりそうにないが、俺には2人を止める勇気は無い。
名前どころか顔すらも知らない簀巻きに対して、俺は心の中で合掌し、腰に差されたまま、美結と一緒に店の中に入るのであった。
ロストデウス3章の更新も終わりましたので、こちらを更新させていただきます。
今見たら、日本刀〜の方は最後の更新から半年以上経ってるんですね。
今更の更新で読みたいって人がいるかは謎ですが、よければご覧下さい。
ついでに別作品であるロストデウスも読んでいただけると幸いです。
尚、ロストデウスよりは速いペースで更新予定です。