第16話 しょうきにもどった
「一ノ左腕ノ破損ヲ確認。本機ヘノ脅威ヲ排除スル為ニ、殲滅モードニ移行シマス。」
アシュアムから殲滅モードへ移行するアナウンスが流れる。
すると、白いオーラのようなものが放出され始め、まるでボディ全体が輝いているように見え始めた。
今までと明らかに違う雰囲気に目を見張る美結。
「いいわね。強そうに見えるわ。」
『美結。間違っても追加で腕や脚を切り落とすなよ!どんどんパワーアップして行くからな!』
「・・・分かったわよ!」
不満そうに了承した美結は、早速アシュアムに襲い掛かっていく。数合斬り結んで再び距離を取った美結の顔は実に不満そうだった。
「パパ、ゴメン。私、満足できないわ。」
呟くと同時に駆け出した美結にアシュアムの斬撃が次々と迫るが、それらを危なげなく回避すると、右の俺と左の智樹の刀で2本の脚をアッサリと斬り落としてしまう。
『美結!・・・おまえっ!』
俺は思わず声を上げたが、俺には装備者を操るような能力は無いため、どうしようもない。
「パパ。本当の強さは命を賭けた戦いの中で磨かれるのよ。」
悪びれずに言いながら、美結はアシュアムの周囲を動き回り、攻撃を回避しながら様子を伺う。
するとアシュアムを覆う白いオーラの色が徐々に変化して、薄い蒼色に染まっていく。
色の変化が終わった途端に、アシュアムの動きが急激に早く鋭くなり、さっきまで余裕を持って回避をしていた美結の身体が再び傷つき始め、最初の頃と同じようにその勢いに押され始めた。
『ちっ!やっぱりIOと同じだ。美結、これ以上パーツを破壊するのは危険だ!完全体になったら手を付けられ無くなるぞ!』
アシュアムはその身体を覆うオーラの色で強化段階を表しており、第一段階は白いソレが強化段階を経る毎に蒼い色が濃ゆくなっていくのだ。
今アシュアムを覆っている薄い蒼色は第三段階の証だ。アシュアムは第六段階の強化までが確認されている。つまり後3本腕を落とせば、オーラの色はその手に持つ蒼刃と同じ色になり、完全体と呼ばれる状態になる。
IOでは熟練者が4人掛かりでやっと倒せる様な奴だ。今までも美結一人で相手に出来てたのがおかしいくらいだしな。
「アハハ!面白くなって来たわ!」
ますます激しくなるアシュアムの斬撃を笑いながら捌いていく美結。時折出来る斬り傷とは裏腹に、この斬撃の嵐を心から楽しんでいるように見える。
「だけど、まだまだね。アンタの底を見せなさい!」
言った途端に美結の身体がアシュアムとは真逆の緋色のオーラに包まれる。もしかして、身体能力を強化するって言うスキル『気功』か?
おそらく身体能力が大幅に強化されたのだろう。美結は、その身体を斬り刻もうと迫りくる刃の全てを酷くアッサリと叩き落とすと、ガラ空きになったアシュアムの胴体に智樹の刀の刃ではなく峰を強引に叩きつけて隙を作り、右手の俺で一気に3本の腕を斬り落としたのだった。
『コイツ。・・・やりやがった。』
「やっちゃったモノは仕方ないじゃない。頼りにしてるわよ、パパ?」
全く反省が無い態度の美結に、流石に怒りを覚えるがココはグッと我慢だ。
『はぁ。・・・後で説教な、美結。』
「なんでよ!」
そんな馬鹿なやり取りをしている間にもアシュアムを包む光はどんどんその色を濃くしていき、遂には蒼く美しいオーラを発するようになる。その姿に目を奪われた。
コレが完全体か。パーツが剥き出しだったところを蒼いオーラが装甲のように全身を覆っており、まるで蒼く輝く全身鎧を着込んだ騎士のように見える。
・・・うむ。ぶっちゃけ格好いいな。日本刀な俺でも妙なプレッシャーを感じるし。
距離にして6メートル程のところで、1人と1体は互いに目線を逸らさずに対峙をする。
「機械のクセにかなりの威圧感を感じるわね。さて、お互い腕2本脚2本で同じになったし、殺りあいましょうか。」
「・・・・。殲滅シマス。」
挑発する様に嘲る美結。アシュアムのそれに対する返事を合図に戦いは再び動き出す。
そこからは俺の反応速度では追い切れないくらいの目まぐるしい攻防が展開されていった。
初撃はアシュアムの踏み込みからの斬り下ろしで、俺にはアシュアムの刀がいつの間にか美結の目の前に迫って来てるように感じたんだが、美結はしっかり反応出来ていたらしく、何なくその攻撃を弾き返していた。
激しい剣戟が幾度となく交わされるが、俺にはアシュアムの剣筋が見えなくなったため、細かいことは分からない。
だが、アシュアムの蒼い鎧が徐々に破損していること、美結の全身に致命傷は避けているものの大小様々な傷ができて血塗れになりつつあることが、お互いの力が拮抗していることを物語っていた。
「ハハハハハハハ!いいね、いいぞ!私をもっと満足させろ。この程度じゃ私の命は刈り取れないわ!!」
ますます濃ゆくなる緋色のオーラに包まれ、高笑いを上げながら血塗れで斬り結び続ける美結の姿は狂気的で、側から見れば決して関わり合いを持ちたくない相手だろう。
まあ、俺はその右手にしっかり握られてるから、物理的に逃げることはできんし。日本刀にはなったが俺は父親だし、どんな娘でも逃げることはできない。
というか、これスキル『暴走』が発動してないか?動く者が居なくならない限り止まらないっていう狂戦士も真っ青なヤバいスキルだ。
アシュアムもボロボロだが、美結も全身傷だらけで満身創痍だ。出血が酷いが暴走状態の美結はそんなものはお構いなしに動き回っていて、多分放っておけば傷口がどんどん開いて出血多量で死ぬ気がするわ。こりゃ放っておけん。
『美結。美結!しっかりしろ。身体中傷だらけで血を流しすぎだ。正気に戻れ!』
だが俺の呼び掛けに全く反応することはなく、アシュアムとの戦いに興じる美結。
完全に戦いにのめり込んでやがる。・・・一体どうしたらいいのか。何か使えるものはないかと俺は自分のステータスを見てふと思い付く。
『美結!もうすぐ耐久力が10を切りそうだ。このままだと俺が壊れる!』
美結のスキル『家族愛』は、家族は全てに優先される、と説明されていた。俺が壊れそうなら、正気に戻るんじゃないだろうか。
「・・・パパが、壊れる?そんなのダメ!!」
突如叫んだ美結が智樹の刀を力任せに振い、十字に構えた古代刀で防御をしたアシュアムを吹っ飛ばして強制的に距離を取らせ、自身も後ろに飛ぶことでかなりの距離を稼ぐ。
「・・・あ。・・・私、また。戦闘で熱くなりすぎると、途中から記憶なくなることが多いのよね。わたし、しょうきにもどったわ。」
『ふぅ。そりゃ良かったぜ、美結。』
セリフ回しに一抹の不安は感じるが、さっき迄の狂気的雰囲気が美結からすっかりと消え失せていた。
「・・・ありがとう、パパ。いつの間にか血の海の中に居たなんて事もあったから。これで気付いたらパパが壊れてたら、私は死んでも死にきれなかっただろうし。」
美結は哀しそうに何かを思い出しているようだ。・・・昔、色々あったんだろうな。
『・・・ところで美結。アシュアムはさっきから何故か動かないし、このまま逃げれるんじゃないのか?』
「止めといた方がいいわ、パパ。私もだけどアイツもかなり傷付いてるから、単純にエネルギーを貯めてるだけと思うわ。今背中を見せたら後ろからバッサリよ。」
冷静に語る様子を見るに、自分が戦いたいからという訳ではないらしい。
『じゃあ、どうすんだ?』
「倒すしか無いわね。パパ。何かいい考えはある?」
『さっきまでの美結だったら怒り狂いそうな手だが、一つ良い手があるぞ。』
こうしてIO時代に攻略班がアシュアムを倒すために編み出された戦法が採用されることになったのだった。
「パパ、行くわよ!」
そう言った美結が俺を物凄い勢いでアシュアムに向かって投擲をする。
しかしながら、真っ直ぐに飛んでいった俺はアシュアムに突き刺さることはなく、無情にも右腕の古代刀で弾かれてしまう。
だが、それは狙い通りだ。俺の残り少ない耐久力を載せたスキル『全力全壊』は、鑑定で耐久力が残り僅かになっていることを確認していた古代刀を撃ち砕く。
バリンと大きな音がしたかと思うと、俺を弾いた古代刀は木っ端微塵に砕け散っていた。
予想外の事態に一瞬固まるアシュアムだったが、その習性から側に落ちていた武器、つまり俺を拾って構えを取る。だが、ソイツは悪手だ。
コレがIO時代に攻略班が編み出した戦法だ。武器を奪われるなら、デバフをてんこ盛りにした武器をワザと奪わせればいいってわけだ。
そして俺には家族以外が持つと発動するデバフスキル『装備者弱体化極大』や『不運極大』がある。実際に俺を装備したアシュアムの動きは明らかに鈍くなったしな。
美結は美結で『装備者弱体化極大』や『不運極大』の反転バフ効果が無くなっているはずだが、基礎能力がイベントボスであるアシュアムの方が圧倒的に高い関係上、むしろ能力差は縮まっているってわけだ。
そこからの戦いは一方的だった。アシュアムの攻撃は全く当たらなくなり、そのボディに美結の攻撃を受け続けた結果、蒼い鎧はボロボロになり見る影も無くなってしまう。そして、決着の時はアッサリと訪れる。
身長差を埋めるために高くジャンプした美結は、緋色のオーラを智樹の刀に凝縮して振り下ろすと、防御しようとした古代刀ごと、頭部から股下まで両断したのだ。縦から二つに割れた状態では流石に勝負ありだ。
見事にアシュアムを討伐した俺と美結は、美結の身体の傷を智樹から貰っていた高級ポーションで回復させた後に、アシュアムの残骸を全て回収した後で、最奥にある鉱脈から目的物である高純度オリハルコンをザクザクと回収することに成功(おそらく反転の『不運極大』が仕事をした)、ピオニアの街へ帰還することにする。
ただ鉱山に行って鉱石を回収するだけでこんなに苦労するわけだ。今後待ち受けるであろうトラブルに頭が痛くなりながら、俺は美結を促してピオニアの街への帰路につくのであった。
・・・よく考えなくても日本刀な俺には頭が無かったな。頭が痛くなるとは、これ如何に。
「・・・アシュアムとは正々堂々もう一度殺り合いたいわね。」
ボソリと呟く美結の声が聞こえる。やっぱり美結のヤツ、しょうきにもどって無いんじゃないか?
ああ、無いはずの頭が痛くなってきたぞ。
街に着いてからは波風立ちませんように!そう心の中で祈ってみるが、ソレが無駄になる事を俺はすぐ知ることになる。しかし、この時の俺はそれを知る由も無かった。
最後のお話は少し長くなりましたが、今回の更新はここまでとさせていただきます。
ピオニアの街に帰還した後まで書こうかとも思ったのですが、そこまでやると結構なボリュームになりそうでしたので、一旦小休止です。
続きはもう一つ書いてる小説「ロストデウス」が一区切りした後に書こうかと思いますので、しばらくお待ちください。
少しでも本作が面白いと思った奇特な方は、ぜひ評価やブックマーク、コメント頂けると嬉しいです。
なんなら、「ロストデウス」の方も読んでいただけるともっと嬉しいですが。
それでは。また次回の更新開始をお待ち下さい。ではでは〜。