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第13話 開発局の踏み台

 もう時間も遅いからということで、智樹の店にそのまま泊まった俺と美結は、翌朝さっそく街の中央にある開発局に来ていた。

『美結。そっちが聞いてきたくせに、説明の途中で寝るのはひどくないか?』

「あそこまで詳しい説明は誰も求めてないわよ。途中で飽きちゃったわ。」

『と、智樹は喜んでくれたぞ。』

「今の智樹は癒し枠だからね。身体に引っ張られてるのか精神的にだいぶ丸くなってる気がするわ。」

『そうなのか?』

「あいつ、自分のことを僕って言ってるでしょ?向こうでは渋い爺さんでワシだったからね。自分で気付いてるかどうかはしらないけど。」

 確かに、渋い爺さんが僕とか言ってたら違和感バリバリだな。・・・想像したら気持ち悪くなってきたわ。

「私が初めて智樹を見た時、あの見た目に僕だから、ワザと僕っ娘を狙ってるかと思ったわ。どうも天然みたいだし、可愛さが天元突破し過ぎでしょ!」

 興奮して声が大きくなる美結。開発局中に響き渡っているぞ。


 ところでだ。俺と美結が話を出来るのは、俺のスキル『念話(家族限定)』によるものだ。そう、家族限定だ。

 冒頭に開発局に入ってから今までの間、周りには俺の合いの手が聞こえてない事になる。

 つまり周囲からは美結は1人でブツブツ呟いて、突然叫び出すヤバイ奴に見えるって事だ。見た目は目つきが鋭いだけの美人なんだが、誰も近寄りたくないだろ、これ。

 こういうギルド的なところに初めて来た時は、色々な転生物の小説みたいに、ガラの悪い輩に絡まれるかなぁとドキドキしてたんだが、ブツブツ言う美結を見るなり、誰も彼もがすぐ目を逸らしてたわ。


 そんな訳で、開発局内はそれなりに混み合っていたはずなんだが、美結が歩く度に人が避けていくので、まるで無人の野を行くかのようにズンズン進んで受付まで辿り着く事ができた。

「コレの処理。お願い出来る?」

「し、少々お待ちください。」

 あーあ。綺麗な受付嬢さんも完全に引いてるな。そんな彼女の様子に美結は不思議そうな顔をしているが。


 数分後、受付嬢のお姉さんは青い顔をして戻ってきた。

「フェイ・ウェイ様。申し訳ありませんが、この依頼を貴方様が請ける事はできません。」

「・・・ん?それは何故?」

 美結の反応が遅れたのは、フェイ・ウェイというこの身体の名前を忘れてたからだろうな。

「フェイ・ウェイ様はまだ開拓者(パイオニア)として登録すらしていません。また、今から登録したとしても開発局への貢献も足りず、グルピン鉱山への立ち入りは許可できません。」


「・・・はあ。智樹の言った通りね。」

 美結はため息をつくと受付カウンターを離れる。今回の依頼はすんなり受注できないだろうと智樹は予想していたのだ。

 あからさまにほっとする受付嬢のお姉さんを横目に、美結はすぐ側にある素材買取カウンターへ歩いて行く。

 並んでいたはずの他の開拓者(パイオニア)達は、スキル「威圧」を全開にした美結に気圧され、自然と道を譲っていく。

「なんだてめぇは!」

「うっさいわね。退きなさい。」

「ふべらぁ!」

 威圧に抵抗できた柄の悪そうな男が文句を言ってくるが、不機嫌な美結の手が出るのは早い。

 ()()()()()()()()()をその顔面に叩きつけると、ガタイの良いその男は意味不明の言葉を残し吹き飛んでいった。

 そう。抜き身の俺を可哀想に思った智樹が即席で鞘を作ってくれたのだ。更に錆も少しだが落としてくれた為、俺のステータスも変わったんだが、それは後で紹介しよう。


 ・・・柄が悪そうとか言ってすまん。名も知らない兄ちゃんよ。割り込んだし、正当な抗議をしたアンタに暴力を振るったこっちの方が悪いわな。柄だけじゃなくて。

 ちょっと逞しく成長し過ぎじゃないですかね。美結さんや!


 そのまま素材買取カウンターまでやって来た美結は、アイテムボックスを逆さにして、デネブリスの森で倒した敵の素材をテーブルの上にぶちまける。

「開発局への貢献ってのはこれで足りる?」

「か、鑑定が終わるまでお待ちを!」

 素材買取カウンターの小太りなオジサンがやや怯えた様子で急いで素材を鑑定していく。

 遺跡発見だけでなく、素材を開発局へ納品する事でも貢献度が上がり開拓者(パイオニア)としてのランクも上がっていくのはゲームと同じらしい。

 この素材は全て智樹が「素材の声」で死体から取り出した物だ。智樹曰く「素材の声」を使えば通常よりも状態のいいレアな素材が取れるらしい。即ち・・・

「クーマやペングィーン、キノーテのレア素材がこんなに!」

 といった具合になるらしい。智樹、おそろしい娘!


「それにこの見たこともない素材はいったい?どこでこれを手に入れたんですか!」

 興奮したオジサンに詰め寄られても嬉しくはないな。同じ事を思ったのか美結も顔をしかめている。

「デネブリスの森で倒したメタルゴリラとかいう魔物からよ!で?これで貢献とやらは足りるのかしら?」

「もちろんです!グルピン鉱山くらいなら余裕で!」

 元気よく返事をしたオジサンはもう美結の方を見ていない。メタルゴリィの素材に夢中だ。この人はもしかして素材マニアなのか?目の輝き方が尋常じゃないんだが。


 目を血走らせるオジサンにやや不気味さを感じ始めたところで、美結が受付カウンターの方へ踵を返していく。

『最近濃いヤツと出会ってばっかりな気がするんだが。』

「さっきのオジサンに神様、智樹。確かに濃い奴ばっかりね。転生3日目でコレは多いわ。」

 美結は他人事のように言ってるが、お前は俺の中では濃い奴筆頭なんだけどな。

 ・・・あれ?よく考えたら触手生やして動くし、家族限定とはいえ喋る日本刀な俺の方が濃くね?・・・これ以上は考えるのを止めるか。


「さて。あっちのオジサンが言うにはあの素材で貢献は足りてるらしいけど、その依頼、私が請けれるんだよね?」

 詰め寄る美結に顔がひきつる受付嬢。さっきの柄の悪そうな兄ちゃんが吹っ飛ばされたところを見たんだろうな。

「・・・オージさんが言うなら間違いないですね。畏まりました。先ずは開拓者(パイオニア)としての登録手続きをしますので、こちらの宝珠(オーブ)に手を乗せていただけますか?」

 それでもちゃんと応対するこのお姉さんはすごい気がするな。


 って、ちょっと待て。聞き流してたが素材マニアのあのオジサン、オージっていうのか。さん付けでオージさん。・・・俺の中ではオジサンでいいか。あんま変わらんし。


 そんなくだらない事を考えている間に、登録手続きは順調に進んでいった。

 最初の宝珠(オーブ)はレベルやステータス、スキル数を映し出す物だったらしく、12という低いレベルと高いステータス、スキルの多さにびっくりされてたな。

 レベルの低さが原因で、グルピン鉱山への通行許可が降りないところだったが、さっき吹っ飛ばした柄の悪そうな兄ちゃん、ラダーという名前らしい、は開発局内で結構レベルが高い人だったらしく、ラダーをアッサリ倒せるなら許可出していいか、という流れになっていたりする。


 っていうか、ラダーって踏み台って意味じゃないか?その名の通り美結が踏み台にしたわけだが・・・。

 俺の頭の中で某ロボットアニメの名ゼリフ「俺を踏み台にしたぁ!?」がリフレインされたのは仕方ないことだろう。よく見れば見た目も似てるような気がするし。


 なんて馬鹿なことを考えている間に、登録手続きは終わったらしく、美結は無事に智樹の依頼を請けることが出来たのだった。

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