第12話 美結、船を漕ぐ
「こっちの世界に来て、僕は修復っていうスキルを手に入れてね。修復は素材さえ揃えばどんなに傷んだ武具でも直すことができるんだ。」
言いながら智樹は俺の刀身に右手をかざすと、「修復」とぽつりと呟く。すると智樹の掌から緑色の淡い光がもれ、俺を包みこむ。
・・・うむ。この光、身体中を弄られてるみたいでくすぐったいぞ。俺が動けたのなら、カタカタ震えて呪いの刀みたいになってかもな。
ようやく光が途切れ、くすぐり地獄に耐えたと思ったら、智樹がさっきのドヤ顔とは打って変わってしょんぼりしている。一体どうしたんだ?
「ごめん、父さん。すぐには直せないかも。」
「どういうこと?智樹。」
「必要な素材が二つあるんだけど、片方は見たことない素材で、もう片方は僕には手に入れるのが難しい素材なんだ。・・・普通の武器は鉄とかで修復できるんだけどな。」
神妙な顔でそんなことを言ってくる。
『一体何がいるんだ?IOの知識があるから、取り方や取れる場所が分かるかもしれないぞ?』
「じゃあ、メタルゴリィの心核って分かる?1年こっちに居るのに聞いたことも見たこともないんだけど。」
おお!タイムリーだな。メタルゴリィの心核はゲーム時代のレアドロップ品だ。
メタルゴリィ自体がレアな上にそのレアドロップ品ということで入手困難な代物なわけだが、メタルゴリィの死体を丸々一体持ってるんだし、そこからどうにか取れるんじゃないか?
「そのメタルゴリラ?って奴ならこの街に辿り着く直前に遭遇して倒してるわ。死体は丸々一体分、アイテムボックスに入ってるし。」
「え、本当に?・・・僕には、素材の声、ってスキルもあるし死体があるなら心核も取れると思う。」
未知の素材をどうにか手に入れる算段がついたことでパァっと笑顔になる智樹だったが、何かに思い至ったのかすぐにその可愛い顔が曇ってしまう。
「もう一つの素材なんだけど、高純度オリハルコンなんだ。」
『高純度オリハルコンといえば、ゲームでは街の店で買えたはずだぞ。バカ高いが。』
「そうだね。鍛治士組合の売店で買えるよ。」
「なら買えばいいじゃない。お金がないならどうにかして稼いでくるわよ?」
「鍛治士組合の売店は組合に加入してる鍛治士じゃないと利用できないんだけど、僕は利用出来ないんだ。」
『なんでだ?組合に入っていないのか??』
俺の質問に智樹は首を振る。翠の髪がさらりと揺れた。
「組合には入ってる。そうしないと店を持てないからね。だけど、店を持つための申請をした時に組合長から言われた事を拒否したら、開店後に色々と嫌がらせを受けてね。売店を利用できないのもその一つだよ。」
『一体何を言われたんだ?』
「それが・・・僕と結婚したい、って。」
たっぷりと時間を置いて、智樹がそうのたまわる。はっ?結婚だと!?
「ヒゲモジャのオッサンが、今の僕みたいな幼女と結婚とか道徳的に問題でしょ!」
『あ〜。智樹。言いにくいんだが、IOの世界ではドワーフの女性はそれくらいの身長で立派な成人だぞ?』
「まさかの合法ロリかよ!成長すると思って牛乳みたいな飲み物を毎日飲んでたのに!!」
俺の説明に即座にツッコミを入れる智樹。俺が知ってる智樹はもっと大人しい小学生だったんだが、俺が死んだ後にツッコミ属性が生えたんだろうな。妙な成長を感じるぜ。
「道徳的問題が解決したのなら、結婚すればいいんじゃないの?智樹。」
「僕の心は男だ!むさいオッサンとなんか誰が結婚するか!」
面白そうに揶揄う美結にノータイムでツッコミを返す智樹。そんな智樹を見て、美結は顔を険しくし、何というか獰猛な笑みを浮かべる。
「まあ、可愛い妹?を押さえ付けるような真似をして、いうことを聞かせようとするなんて、姉としてはお断りだけどね。智樹。そのオッサンは何処にいるの?私がヤってくるわよ?」
何をヤルつもりなんですかね、美結さんや!
「妹言うなし!・・・いつかヤルのには反対しないけど、今は止めといて、美結ねえ。」
「・・・智樹が言うなら分かったわ。」
智樹も最終的にヤルのは止めないんかい。荒事にならなかったせいか、美結はつまらなさそうにしているな。
『そ、それはそうと、高純度オリハルコンの入手ならグルピン鉱山に行けばいいんじゃないか?ゲームの時だと確率は低いけど奥の方で手に入ったんだが。』
俺は物騒な話題を変更したくて、素材について話を振ってみる。
「確かにグルピン鉱山なら可能性はあるかもね。売店が使えないから、僕もあそこで採掘しようと思ってたし。でも、今は強い魔物が出て採掘がストップしているらしいけどね。」
そう言って智樹はため息をつく。
「それもあって街全体の鉱石の取り扱い量が減ってるから、売店が使えないのは余計に痛いんだよね。」
「智樹。今、強い魔物がいるって言った?それって私を満足させるくらいには強いのかな??」
どうやら強いという言葉に反応して、美結のバトルジャンキーの血が騒ぎ出したらしい。これがオタクだった我が娘の成れの果てとは。
「僕がその魔物を見たわけじゃないから、そんなの分かんないよ。・・・あ、そうだ。」
「なによ?」
「美結ねえなら魔物は大丈夫だろうし、グルピン鉱山からの鉱石採掘を依頼として開発局に出すから、自分で確認してきなよ。」
言いながら何かの紙にさらさらと文字を書いていく智樹。手早く書き上げたその依頼書を美結に渡してくる。
『これを開発局の受付に出せばいいのか?』
「そうだね。報酬は父さんを修復することと、貸与する武器をそのままあげることだね。」
「ねえ、2人とも。開発局って何なの?」
この世界にやって来たばっかりで、IOを知らない美結には開発局が何なのか分からないようだ。まあ、当然と言えば当然だな。
『開発局っていうのはな・・・』
開発局の説明をするには、先ずIOの世界観から話す必要がある。IOの舞台は世界に覇権を唱えるレルムント王国のリメス辺境伯領だ。
リメス辺境伯の領地は王国随一の広さを誇っているが、その大部分は未開の土地であり、辺境伯領は貧困にあえでいた。
そんなある日、辺境伯は宝物庫でとある古文書を発見する。それによれば未開であるはずの土地はかつて超古代文明の大都市があった場所であり、そこにはまだ超古代のお宝が眠っているというのだ。
今までも未開拓地の浅層で小規模な超古代の遺跡が発見されることはあった。だからこそ信憑性を感じた辺境伯は財政的にジリ貧だったこともあり一発逆転の賭けに出たのだ。
即ち、古文書の内容をレルムント王国どころか大陸全土に公表しこう告げたのだ。
『国籍や人種は問わぬ!来たれ開拓者よ!遺跡を見つけた場合、その価値の半額を報酬として引き渡すことを約束しよう!』
実際に開拓が始まり、小規模な遺跡が見つかる度に約束通りの報酬が支払われる事が広まると、破格の報酬と一獲千金の夢に釣られて大陸全土から開拓者が集まるのだった。
プレイヤーはその開拓者の1人で、開拓者を統括する為の機関が開発局ってわけだ。
遺跡の発掘だけが収入源だと開拓者達は生活ができないため、一般市民や辺境伯からの依頼も開発局が取り仕切るようになったんだよな。
一通り解説が終わり、ふと美結と智樹の方を見る。智樹は「そこまで細かい事情は知らなかったよ」とのんきに微笑んでいる。可愛い。
美結は目をつぶって、耳を澄ましている・・・のではなく、こっくりと船を漕いでいた。
いやいや。人に質問しといて寝るのって酷くないか?
書いていてこれが面白いのか、面白くないのか、よく分からなくなってくる今日この頃です。
良かったら、感想や評価をしていただけるとありがたいです。やる気アップしますし。
それから、本作とは別にロストデウスという、シリアスな作品も書いてますので、良かったらそちらもご覧ください。