第11話 美幼女のドヤ顔
「パパ。この子可愛くない?小さいのに精一杯背伸びするみたいに怒っちゃって。」
身長は170センチくらいはある現在の美結がロリっ子ドワーフこと智樹を見下ろしながら、そんな事を呟く。俺は幼女趣味がある訳ではないが無理をしている感じが確かに可愛らしくはあるな。
「僕に可愛いっていうな!・・・?っていうか、パパなんて何処にも居ないじゃないか。」
美結の背後を覗きこみ、周囲を見渡した智樹は不思議そうにそんな事を言う。
『美結。そんなナリだが、そいつは智樹だ。鑑定で名前が出ている。』
「コレ、智樹なの?こんなに可愛らしい女の子になってるなんて、ちょっと面白いんだけど。」
そう言って腹を抱えて笑い出す美結。
「え?美結って、まさかこのエルフが美結ねえなのか。・・・というか、さっきから聞こえるこの声ってどこから?美結ねえがパパって言ってるってことは、父さん??」
『あ〜。久しぶりだな、智樹。』
「父さん?一体どこに??」
俺のテレパシーにキョロキョロと小動物のように周りを見渡す智樹。傍目には迷子になった幼女のように見えるな。だが、当然人影などなく、智樹はますます困惑していく。
『パパはここに居るぞ、智樹。美結の腰の辺りだ。』
「腰って・・・布に巻かれた日本刀しか無いけど。」
『それだ。その日本刀がパパだ。』
「・・・意味が分からないんだけど。」
大丈夫だ、智樹。最初は俺も意味が分からなかったよ。しかしまあ、お互い変わり果てた姿になっちまったなぁ。
「なるほど。それで父さんは日本刀に転生したと。・・・いやいや。何だよ、その状況!神様がクソじゃないか!!」
俺が日本刀に転生するに至った経緯を一通り説明を説明すると、智樹はそんな台詞をのたまわる。まあ、爺様がクソなのには全力で同意するわ。
「で、智樹。アンタはなんでこんな所で鍛冶屋を開業してんのよ。」
「美結ねえは僕の取り柄が鍛治だって知ってるだろ?この世界では、僕が生きる糧を得るには鍛冶屋をするのが1番だと思ったんだ。文明レベルを見た感じ、向こうより需要が有りそうだしね。」
IOの世界は一応は中世ヨーロッパくらいの文明レベルに設定されているらしく、ベタな剣と魔法の世界であり銃などの近代兵器は登場しない。途中までは。
その状況で鍛治士として腕が立つのなら需要はあるだろうし、食いっぱぐれはないだろう。だが、その前に疑問がある。
『鍛治が取り柄ってどういう事だ?』
俺の記憶の中にある智樹は、少し工作が得意な小学生であって、決して鍛治士ではなかった。何でそんなことが得意になってんだ?
「実は父さんが通り魔に殺された後、僕も美結ねえと一緒に剣術道場に通ったんだよ。強くなりたくて。北御門家で唯一の男になったし、美結ねえも母さんも、みんな守りたくて。」
『・・・智樹。』
俺が死んじまったばっかりに智樹にも辛い思いをさせたんだな。小学校低学年の美幼女の姿で男云々を言われても少し悲しくなるが。
「だけど、メキメキと強くなる美結ねえと比べて、僕は全然上達しなくてね。自衛程度の実力をつけた時点で武の道は諦めたんだ。」
何となく比べる相手を間違ってる気はするがな。銃の弾を弾いたり、鉄を斬ったりするような化け物だし。
「だから、僕は美結ねえを補佐する為に武器を・・・刀を打つ様になったんだ。手先は昔から器用だったしね。」
「智樹が作る刀には何度も助けられたわね。世界中で治安が乱れた後は特に重宝したわ。私は刀を扱うことしか能がないけど、智樹が作る刀は世界一だったと思う。」
だから俺が死んだ後の世界はどんだけ治安悪かったんだよ。
「実はこの世界に来て1年くらいになってるんだけど、僕が鍛冶屋を始めたのは生活の為もあるけど、いい刀を打ち続ければ美結ねえに気が付いてもらえるかなって思ったのもあったんだ。神様から美結ねえや父さん、母さんも直に転生してくるって言われてたし。」
智樹。なんて健気な子なんや!
「そうしたら、まさかオープン1週間で再会できると思わなかったけどね。」
そう言いながら満面の笑みを浮かべる智樹の今の姿は、エメラルド色のサラサラの髪と、ルビーの様に綺麗な大きな赤い瞳、形の良い鼻にプックリとした唇をした、美幼女なわけで。
『か、可愛い。』
「智樹。アンタ可愛すぎでしょ。気難しい顔したジジイだった癖に。」
上目遣いに微笑む智樹に、心がぐらっと動く。無意識に可愛いと呟く俺と何故か悔しがる美結。
「可愛いって言うな!大体、なんで父さんはこんな幼女キャラを作ったんだよ!」
『当時、魔法少女もののアニメが流行っててな。悪ノリして作ったわけだ。』
あんまり使ってないサブキャラだったけど、さっきみたいな笑顔が見れるなら後悔はない。
「それで転生した時、あんなフリルとリボンがたくさんついた服を着せられてたわけか!アレでどれだけ僕が辱めを受けたと・・・。」
そう言われてみれば、今の智樹の服装は厚手のオーバーオールに、ベージュの長袖シャツといった可愛げのない格好だ。そんな格好でも素材が良すぎて、ワナワナと怒りに震える姿すら可愛い。怒られそうだし言わんが。しかし・・・
『サブキャラなら普通の男性キャラもいたんだがな。そのキャラをチョイスしたのは爺様だろ。きっと面白そうだからとか下らない理由だろうな。』
「・・・あのジジイめ!まあ、刀に転生させられた父さんよりはマシだけどさ。」
全くだな。性別が変わるのと無機物になるのは大きな違いだぜ。まあ、爺さんから美幼女に転生もギャップがあってなかなか辛そうではあるが。
「で、智樹。パパは直せそう?」
「・・・そうだね。」
言いながら俺を手に取った智樹は、目を細め真剣な表情で検分を始める。
「あっちにいた頃の僕なら直せなかっただろうね。」
『ダメなのか?』
俺のセリフに智樹はニヤリと笑う。
「だけど、今の僕なら出来るよ。」
自信満々に言い切る智樹を見て俺は思った。ドヤ顔の美幼女は可愛いな、と。