たまごクエスト
たまごの値段が上がった。
100上がった。
『これは、仕方ないことだ』
『何事にも、マイナス面はある』
『いつかは、また安くなるよな』
そう脳内で、考えを繰り広げていた。
右ペダル、左ペダル。
交互に、力を込める。
サドルの意味を、掻き消し漕いだ。
ヘルメットのアゴひも伝いに、汗が落ちる。
『流石に、1時間は疲れるな』
『夏の運動は、命懸けだ』
『幸せを、探し求める流離い人さ』
脚力が11上がった。
体力が23下がった。
期待度が6上がった。
『値段が高いのは、仕方ないとは思ってる』
『でも、安さを労力で買えるなら、買いたい』
『安いものを追い求める、それが人間の性なのだから』
先週は西。
今日は東。
ご当地スーパー巡り。
知らない外観にビビる。
たまごに、最短距離で向かう。
"ガラリン"
平面に、売り切れの文字。
下を覗く。
ヨイショッ。
いた。
よかった。
ピラミッド状で、奥に潜んでいた。
『最初は焦ったけど、なんとか買えた』
『100円で買えて、本当に良かった』
『今日は久しぶりの、たまご2個オムレツかな』
レジを通し、エコバックをカゴに収める。
そして、浮かれてペダルを漕いだ。
"スイスイスイ"
"サッサッサササ"
『家路につく足は、やけに軽い』
『たまご1個オムレツさん、さよなら』
『あとは、どんなたまご料理があるかな』
目の前に、急な縁石。
『もう、避けられないか』
『浮かれて、前を見てなかった』
『なんとか、たまごを守らなくては』
ブレーキを、握力の限り握りしめた。
ぎゅっぎゅっ、ぎゅっと。
なんとか、踏ん張った。
駄目だ。
体が、左に倒れてゆく。
自転車とエコバックと共に。
"パチャ"
鈍い音がした。
『完全に、終わったわ』
『割れたたまごの中身を、集めるか』
『それで、ひとつのオムレツを作るか』
自転車を起こす。
エコバックをカゴに戻す。
恐る恐る袋を広げた。
全割れだった。
『今日のディナーは、たまご10個オムレツだ』
『人生最大級の、ごちそうだ』
『ただ、それから一週間は"断たまご"か』
やる気が50下がった。
ため息が18増えた。
精神力が34下がった。
慎重度が100上がった。
たまごを、元に戻す。
そんな魔法が、使えればな。
まあ、使えるはずないか。
もう、心まで粉々だ。